第四話 勇者は冒険者となる
ついにサトルは王都へ!
サトルが家から出て既に一週間が経過している。サトルは両親から馬車代を貰っていたのだか、少しでも節約するため歩きで王都に向かったのだ。これは本来自殺行為である。いくら携帯食料を持っているとはいえ12歳の少年が持てる範囲の量だ。それと少量の水だけで一週間も歩き続けれるわけがない。ところがサトルには、そんな常識は全く通じないのであった。
「お、あんな所にイノシシの足跡が!今夜はご馳走だな」
サトルは4年間ひたすらに山や森で狩りを行ってきた。効率よく狩りを行うため自然と狩りの技術を習得し、今では立派なハンターとなっている。何処か勇者とは程遠い気がするがサトルは気にしないことにしていた。
そしてサトルは足跡をたどり始め、ものの数分でイノシシを見つける。イノシシを見つけたサトルは満面の笑みを浮かべ、イノシシに襲いかかった。
「そぉい!」
少しマヌケな掛け声とともに、イノシシに瞬時に近寄り正拳突きを叩き込むサトル。勿論全力だと肉が飛び散り悲惨な事になるので、威力は本気の1%程だ。
「ブオォォォ!」
イノシシはサトルを認識することなく、突然の衝撃に悲鳴をあげ絶命する。こうして狩りを終えたサトルは、腰のナイフを抜き手早く解体していく。普通の人ならばナイフがあっても解体など出来そうにもないのだが、村の猟師に教えてもらい今ではほとんどの野生動物を解体できるようになっていた。
「しかし素手で倒すと血が手について嫌だなぁ、早く王都でいい剣探して買わないと」
実はサトルは剣を折った日から新しい武器を買っていない。父に対する罪悪感もあったが、田舎の鍛冶屋ではまた折れるのではないかと心配していたのだ。サトルが倒した森の主の素材で作った武器なら良さそうだと思っていたが、出来た武器が鉤爪のような武器で勇者っぽくないからお断りしたのだ。勿論毛皮で作った防具は今着込んでいるのだが。
「こういう大物を解体するときは、勇者適正に感謝だな」
イノシシは個体差が大きいが小さいものでも80kg、大きいものだと200kgを超える生物なのである。なので通常大の大人が2、3人で解体するのだがサトルは一人でサクサクと解体を進めていった。
こうして解体を終えたサトルは、イノシシの美味しい部分だけ持って旅を再開した。確かに全て持って行けなくはないが、荷物が増えると邪魔なのでいつもその日の夕食の分だけ持っていくことにしていた。何とも贅沢な狩りである。
「しかし結構歩いたよなぁ、そろそろ王都に着いてもいいと思うんだけど」
そんなことを呟きながら歩いているとついに王都が見えてくる。見えてくるといっても王城の先端部分。まだ距離にして王都まで10kmは離れているのだが。
「やったぁ!王都だ!やっと野宿から解放される!」
いくら山や森で狩りをこなしたサトルも野宿には慣れていない。流石に一週間の野宿生活は心底疲れたのだ。
そして走り出すサトル。あまりの喜びに速度を抑えることを忘れてしまっていた。それから5分後、城門の前にはニコニコ顔のサトルが並んでいた。
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「はい、次の方どうぞ〜」
サトルは門番に呼ばれウキウキで近寄っていく。兵士は一瞬ギョッとするが、田舎者の奇怪な行動には慣れているので平静を取り戻す。
「身分証か冒険者プレートの提示、または入国料の支払いをお願いします」
身分証はその名の通りだが、これは貴族や商人などしか持っていない。当たり前だがインフラ整備すらままなっていないファンタジー世界では、普通の村人の戸籍を作る余裕なんてないのだ。冒険者プレートはこれもそのままで、冒険者組合が発行している身分証明書だ。この二つがこの世界の唯一の証明書なのである。
この二つの証明書持っていない人からは入国料を取ることで多少は山賊などが王国に入りにくくなり、王国の治安向上に貢献しているわけだ。
「この証明書で大丈夫ですよね?」
勿論サトルは貧乏とはいえ、貴族家の息子であるため証明書を持っている。
「はい、確認しました。それでは、ようこそ王国へ!」
こうして無事サトルは王国に入ることが出来た。ついでに他の門番に話しかけ冒険者組合の場所を聞いておく。サトルはドンドン上機嫌になり、スキップをしそうな程浮つきながら冒険者組合へと向かった。
冒険者組合は城門のすぐ近くにあった。王都に初めてくる人の大半が冒険者志望なので分かりやすいようにしてあるのだろう。冒険者組合の建物は2階建ての建物で、1階が酒場と兼任のオーソドックスなタイプだ。今は昼間なので人も少ないが、夜になれば冒険者で溢れることだろう。サトルは臆せず中に入り、そのまま受付に行く。仲間に女を連れているわけでもないので、酒場にいる先輩冒険者に難癖をつけられることもない。サトルは内心テンプレ展開を期待していたため、仲間がいない現状にショックを受けていた。
「いらっしゃいませ~、初めて見る顔ですが冒険者登録はお済みですか?」
受付嬢は期待した通り若い女の人だ。ショートカットのぱっつん前髪で笑顔が可愛い。
「冒険者登録はしてないです。今日初めて王都に来たもので」
「そうでしたか。それではこの用紙に必要事項を記入してくださいね」
サトルは用紙を受け取ると早速記入していく。用紙の記入欄は必要最低限のもので名前、年齢、得意武器、前衛か後衛の選択、そしてゲームのようなステータスの記入欄。…ステータス?
「あの、この欄って何を記入するんですか?」
サトルはいきなりゲームみたいだなと、困惑しながら受付嬢に聞いてみる。
「ああ、こちらは任意で結構ですよ。ステータスチェッカーをお持ちの方で何か優れた能力がある場合、他の冒険者へのアピールをするところですから」
「ステータスチェッカー?」
「あら、ご存じないんですね。自分のステータスや特殊技能を可視化できる優れもので、ここ数年爆発的に普及しているんですよ」
…どうやらそのような便利なものがこの世界には存在するようだ。自分がどれくらい強いのか気になるし、今度見てみようと思いつつ他の欄を記入していく。
「書けました。これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ!冒険者プレートを制作するのでしばらくお待ちくださいね」
「待っている間にこの街について教えてほしいんですけどいいですか?」
「もちろんですよ!何について聞きたいんですか?」
「それじゃあまずは、おすすめの宿についてお願いします」
それからこの街にある代表的な宿屋について教えてもらった。残念ながら規則上どれかをお勧めするのは冒険者組合の立場上ダメなので、後は自分で判断するしかないようだ。聞いた中で料理の評判がよく、値段が手ごろな宿屋に決めた。手持ちはそこまで多くはないが、日本人としてご飯に手を抜くの嫌だったからだ。そうこうしているうちに、冒険者プレートが出来上がったようだ。
「それでは、これがサトルさんの冒険者プレートになります。万が一紛失した場合は冒険者としての資格を剥奪させていただくので、気をつけて保管してくださいね」
冒険者プレートは何かの金属で出来ているようだ。俺の名前、作られた場所、そして冒険者のランクだけ書かれているシンプルなものだ。冒険者のランクはそれまでの功績などから決められる。EからSまで明快なランク付けで俺は勿論Eランクだ。
「ありがとうございます。最後にこの街で武器を扱っている店は何処なんですか?」
「商業地区に行けば色々なお店がありますから、きっとお目当てのものが見つかりますよ。この建物の前の大通りをまっすぐ歩けばすぐです」
「最後の最後まで付きあっていただきありがとうございました」
「いえいえ、それではSランク目指して頑張ってくださいね!」
こうしてサトルは受付嬢と別れ、商業地区へと向かっていった。
受付嬢の最後に言った言葉は勿論冒険者全員に言っている。金稼ぎ目的でないすべての冒険者の目標がSランクだからだ。だが現実はそう甘くない。英雄と言われるSランクになるのはどんなに凡人が頑張ったところで不可能なのだ。しかしサトル本人も受付嬢もこの時はまだ知らない。サトルが1ヶ月足らずでSランクになってしまう、まさに天才だということに…
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