第五話 武士は依頼を受ける
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セリーエと初めて同じ部屋で眠った翌朝、サトル達は宿屋で朝食を食べながら今後の予定を決めていた。
「獅子人族の里に今日から向かうんだけど、どうやって行こうか?」
「そうですね~。私たちは馬がありますけどセリーエさんはありますか?」
「サトルさん達は馬をお持ちなんですか。私たち獅子人族では馬に乗る習慣が無いので持っていないですね…」
「馬に乗る習慣がない?じゃあ移動の時ってどうするの?」
「私たち獅子人族というか獣人族は身体能力が優れておりますので自分の足で移動することが多いですね」
「そういうことか」
確かに人間族と違い獣人族は走るスピードも持久力も桁違いだから馬に乗る必要が無いのも頷ける。人間族が長距離移動に向いていないだけなのだ。
「それじゃあどうしようかな。セリーエさんだけ走らせるのも悪いからなぁ」
「折角パーティーメンバーになったんだし一緒に行動したいですよね~」
「かと言って馬を買うお金無いしね…そういえばセリーエさんって今お金どれくらい持ってるの?」
「すみません…手持ちは全然持ってないんです…」
「ええ!?Cランク冒険者ってそんなに儲からないの?」
自分とはランクが2つも違うのでセリーエは小金持ちくらいかと思っていたサトルは衝撃を受けた。折角冒険者になって楽にお金を稼ごうとしていた計画が台無しになった気持ちになったかと思われたが
「いえ、私が特殊だと思います。私は修業が目的だったので強力な魔物の討伐依頼しか受けてきませんでしたので。討伐依頼で稼いだお金も里に全部送っていました」
「そういえばそういう目的で冒険者になったんだったね」
セリーエが特殊と聞いて安堵するサトル。さっさとお金を稼いで楽しくのんびり人生を送りたいものだ。
「じゃあやっぱり馬は買えないね。どうしようか…」
「あ!じゃあ折角私たちもDランクになったんだし商人の護衛依頼を受けてみてはどうでしょうか~?」
「なるほど!それなら獅子人族方面に向かいながらお金も稼げて一石二鳥だね!」
「獅子人族の里はここから北西にある地方都市に近いので、そこに向かう商隊の護衛を受けてそこから徒歩で行けば良さそうですね」
「よし!そうと決まれば食べ終わったら冒険者組合に行こうか!」
これからの予定が決まり上機嫌なサトル。目的地に厄介事が迫っていることも知らずに…
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朝食を食べ終え冒険者組合にやってきたサトル達は早速受付嬢の元へ向かう。
「おはようございます」
「おはようございます、サトルさんとコルモさん。今日もセリーエさんと一緒ということは昨日の件で何かありましたか?」
「いえ、あれからセリーエさんとパーティーメンバーになりましてね。今日は依頼を見に来ました」
「え!?サ、サトルさん達がセリーエさんとパーティーメンバーになったのですか!?」
「ええ、まあ」
サトルからすればなぜ驚かれたのかが分からなかったが、受付嬢からすればかなり衝撃的なことであった。まずBランク冒険者がわざわざDランク冒険者とパーティーメンバーになることはまずありえない。パーティーを組むときに重要なのは力量がほぼ同じである事なのだ。一人でも未熟な者がいるとパーティー全体が危機に陥ることもありうるし戦闘中に足並みがそろわないからだ。
更にそもそも、セリーエがパーティーを組んだということが一番の驚きであった。この帝都に来てから一度も誰ともパーティーを組んでおらずソロでの活動をしていたセリーエ。数々の将来有望な冒険者パーティーに誘わられたにも関わらずそれらをすべて断ってきたのだ。
あまりの動揺に言葉が出なくなったが、受付嬢としての仕事を思い出しなるべく平静を保ってサトル達に質問をすることにした。
「失礼しました。セリーエさんは今までパーティーを組まれなかったので少々驚いてしまいました」
「私の修行という目的を果たすのにパーティは必要なかったからな」
「それなのに今回パーティを組まれたのは何か理由があるのですか?」
「まあ色々と事情がありましてね。それよりも依頼を見せてもらえませんか?」
どうしても受付嬢はセリーエとの関係を知りたいようだが言うわけにはいかなかった。自分の正体を明かしてしまえばまた厄介事に巻き込まれるに決まっているからだ。
「かしこまりました。どのような依頼をお探しですか?」
「実はこのパーティで一度セリーエさんの故郷に行ってみようと思っていて、その道中に護衛依頼を受けてみようと思っているんです」
「こ、故郷に行くのですか!?な、なるほど。そういう事でしたか…」
「そういう事?」
何やらこの受付嬢は激しい勘違いをしているようだったが、訂正して話がこんがらがってしまうといけないのであえて訂正しないでおいた。
「それで何かいい護衛依頼ありますか?」
「え〜と今調べますね…あ、ありました!ちょうど明日帝都から向かう商隊の護衛依頼がありますね」
「それいいですね!それ受けられますか?」
「一応Cランクからの受付になっていますが…セリーエさんとのパーティであれば多分受けられるかと。依頼人の方がちょうど酒場に来ているので直接交渉していただく形になりますね」
「分かりました。ありがとうごさいます」
礼を言って立ち去って行くサトル達。後日サトル達の居ない帝都でサトルとセリーエの結婚疑惑の噂が流れるのだが、この時点のサトルには知るよしもなかった。
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受付嬢の言っていた通り酒場に行くと貴族風の服を着た男が冒険者と談笑していた。依頼の交渉をするためサトル達は男に話しかける。
「こんにちは。商隊の護衛依頼のお話ですか?」
「そうだが何の用だね?」
「実は護衛依頼を受けたいと思っていまして。もう人数は揃ってしまっていますか?」
「人数はほぼ揃っている状態だが、3人ならまだ増やしても問題ないだろう。だが君達は見たところDランク冒険者、私の出した雇用条件に当てはまっていないようだが?」
「そこに関しては私が入るから+-0という事にしてはくれないだろうか?」
サトル達の後ろにいたセリーエが前に立ち冒険者プレートが見えるようになる。セリーエの姿を見た商人と冒険者達が驚きの声をあげる。
「あ、あなたはBランク冒険者のセリーエさんですか!?」
「私のことを知っていたのですね」
「勿論ですとも。この帝都において1、2位を争う有名な冒険者ですからね。しかも昨日の魔王軍の侵攻を一人で止めたとか!まさに帝国の英雄ですな」
「過分な評価ありがとうございます。私もこのパーティの一員なのですが、護衛チームに入れさせていただけないでしょうか?」
「う〜む、どうしたものか…。セリーエさんの申し出は大変ありがたいのですが、Bランク冒険者のセリーエさんに依頼料を払えるほどの費用がないのですよ」
既に多くのCランク冒険者を雇ってしまっているので予算がもう余り少ないのだろう。それを見越していたサトルは男に話しかける。
「でしたら私たち3人をCランク冒険者の費用で雇ってくれませんか?」
「なるほど、Dランクの君達をCランク扱いにする代わりにセリーエさんをCランクで雇えると…。いいでしょう、それで契約させていただきます」
「契約成立ですね」
サトルと男は握手を交わして微笑みを浮かべる。サトルの交渉により無事サトル達は依頼を受ける事が出来たのであった。
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次回更新は8月17日を予定しています




