第一話 武士は勇者を敬う
今日から再開させていただきます
よろしくお願いします!
フダルを討ち取ったサトル達は帝都への帰路についていた。サトルとコルモは素質のおかげで肉体的にはそこまで疲れてはいなかったが、初めてのサオルに匹敵する存在との戦闘により精神的にひどく疲れていたのだ。今日はほとんど稼いでいないが早く帰って落ち着きたかったのだ。
少し歩いたところでセリーエが質問を投げかけてくる。
「正直サトルには聞きたいことが山ほどあって何から聞けばいいのか分からないのだが…単刀直入聞こう。”転生者”とはなんなのだ?」
「そ、それは…」
サトルは押し黙ってしまう。セリーエが悪い人でない事が分かっているとはいえ軽率に正体を明かしてしまっていいのかが分からなかったのだ。そこに救いの手が差し出される。
「サトル君。もう色々見られちゃってますしここは全部教えてしまった方がいいと思いますよ~。全部話して協力してもらったほうがいいと思います~」
「まあ、それもそうだね。セリーエさん、”転生者”についてはオフレコでお願いしますよ」
「オフレコ…?よく分からんが他言は絶対にしないと誓おう」
セリーエの真剣な表情を見て決心したサトルは転生者について話し出す。コルモに話した事と同程度のことを言葉を選んで喋っていった。
セリーエは話を聞いている間真剣な表情で聞き続けていた。話が終わるとセリーエは目を瞑り考え込んでいた。あまりに驚きが多い話だったからだろう。数分後セリーエは目をカッと開くと興奮した様子で喋り出す。
「魔王軍をものともしないあの力を見てもしやと思っていたが、やはりマサムネ様と同じモノノフ様なのだな!」
「マサムネ様?モノノフ様?」
やはり転生者が獅子人族に関わっていたかと思うサトル。使っている物の名前からしてバレバレなのだが。
「マサムネ様は獅子人族を初めて導いてくださったお方だ。ブシドーの原点ともなる技を我々に教えて下さったのだ」
「技っていうのはカタナを使った技って事?」
「そうだとも。我ら獅子人族が扱う剣技は全てマサムネ様が考案し我らに授けたといわれているのだ」
サトルの予想通りマサムネと名乗る転生者が偶々獅子人族のいるところに転生し色々と技術を伝承していったようだ。マサムネといわれると歴史上のアノ人物が思い浮かぶが、どのマサムネなのかはもはや確かめようがない。
「その後も獅子人族の里にモノノフ様が度々来ていただけのだ。カタナの製造方法も授けていただき我ら獅子人族は立派なブシドーとしての道を歩むことができているのだ」
「獅子人族の人でカタナを作れる人がいるの?」
「勿論だとも!だが残念ながら未だこのブドウトウとオリゴトウを超えるカタナを打つことが出来る職人は獅子人族にはいないけれどね」
「そこまで凄い物なんだね。でもそんな凄い獅子人族の秘宝持ち歩いていいの?」
「そ、それはまあいいじゃないか」
どうやらセリーエはサトルに何かを隠しているようだ。強要して聞くほどのことではないので聞かないが。
「とにかく!サトル様のことをよく知らずに偉そうに決闘などを申し込んで申し訳ないことをした。モノノフ様に決闘を申し込むという図に乗った行為をしてしまいすまなかった!」
「ま、まあその人たちみたいに偉い者じゃないからそこまでかしこまらなくていいよ。何か技術を教えられるわけでもないし…。様付けとかしなくていいし今まで通り接してよ」
急に様付けになり困惑するサトル。特に戦闘の技術があるわけでもなく、ただステータスで押し勝っている自分を敬われるのはこそばゆかった。
「しかしモノノフ様の名前を呼び捨てにするなどと」
「でも年上にそれをやられるのはちょっと…。それにもうセリーエさんと僕たちは仲間でしょ?」
「そうですよ~。一緒に魔王軍と戦った中じゃないですか~」
「な!?わ、わたし如きがモノノフ様と仲間などと恐れ多い!」
セリーエは嫌がっているがサトルとしても年上に様付けで呼ばれるのは嫌だった。そこでサトルはモノノフ様の影響力を使うことにした。
「お願いだよセリーエさん。仲間って事にしてくれないかな?」
「うっ…。分かりましたサトル様」
モノノフ様からのお願いということにしたのだ。先人の威を借りた感じになった仕方がない。
「様付けもやめてくれないかな?」
「そ、それは…。ではせめてさん付けでいいですか?」
「まあそれくらいならいいかな。それじゃあこれからよろしくね、セリーエさん」
「サトルさん!よろしくお願いします!」
「私もいますよ~!」
こうしてサトルは獅子人族のセリーエが仲間になったのだった。段々とハーレムに近づいているのだが本人は全く気付いていなかった。
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「クソッ!何故だ!何故見つからない!」
王座に座り愚痴を叫んでいるのは勿論ラムスだ。未だに消息がつかめない”転生者”。国外まで手を伸ばしたはいい物の時間だけが過ぎていく。
「あの裏切り者の馬鹿さえいなければすぐに捕らえれたものを!」
ここまで何も情報が見つからないのは、ラムスの読み通りゾンロイの工作があるためだ。名前や容姿、目立つ剣までもの情報を完全に消し去り、国王が知っている情報は性別と大まかな年齢だけなのだ。
「まだだ!まだ諦めんぞ!私の野望をこの程度で諦める訳にはいかん!」
ラムスが固く心に誓っていると扉がノックされる。ラムスが入室を許可するとそこに慌てた様子で大臣がやってくる。
「こ、国王様!ただいま報告で捜索隊が”転生者”を発見したようです!」
「おお!ついに見つけたのだな!今すぐここに連れてこい!」
全く情報が無い状態で”転生者”を発見できたことに驚きつつ喜ぶラムス。ついにラムスの長年の悲願が叶うかもしれないのだ。
「しかしその”転生者”でお伝えしたいことが…」
「何だ。些細なことでも報告してくれ」
「実は少年で驚くほどの力を持っていることは一致しているのですが、実は”転生者”は自ら名乗りを上げたのです」
「何だと?”転生者”は王国から逃げたのだろう?それはおかしいではないか」
わざわざ王城に招いた日に王都を出て行方不明になっておいて今更名乗り出るのはおかしい。捜索隊から逃げるのを諦めさせれるほどの大々的なこともできていないのに諦めるのもこれまたおかしい。
「我々もおかしいと思ったのですが力は間違いなく”転生者”でした。かなり確率が低いですが”転生者”が二人王国にいたのかもしれません」
「う~む、とにかく会ってみないと分からんな。とりあえず早く王城に”転生者”を呼ぶのだ!」
「かしこまりました!」
玉座の間を立ち去っていく大臣。ラムスは”転生者”を見つけた喜びに打ち震えていた。
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大陸の最東端。そこには巨大で邪悪な城が建っていた。それこそが魔族の王たる魔王のシンボルである魔王城であり人間族の恐怖の対象であった。
魔王城の最奥、謁見の間には三人の魔族が集まっていた。この3人こそが魔王四天王の残りの三人である。三人が見つめる先に浮かぶ水晶。それはフダルが持っていたものと同じものであった。水晶が輝きだし声が響き渡る。
「…定期連絡がこないことからどうやらフダルは作戦に失敗したようだ」
「フダルを倒すほどの人間族…。やはり”転生者”がいると考えた方がいいでしょうね」
「今後の作戦はそれを考慮して作戦を立てなければなりませんな」
「はん!フダルは俺たち四天王の中でも最弱だ。あいつが敗れた程度で作戦を変える必要ないだろ!」
「…とにかくここまできた以上もう後には引けまい。人間族との全面戦争を行うぞ」
「ついにこの時がやってきたな!俺様の出番だぜ!」
「”転生者”のことを考慮して動くんだぞ」
一々転生者と言われて苛立つ一人の魔族。慎重な二人の魔族をうっとおしく思いつつ高らかに宣言する。
「俺様にかかれば”転生者”なんか一ひねりだぜ!とりあえず2番目の作戦、俺の部隊で獅子人族滅ぼしす計画に移らせてもらうからな!」
そう言い放つと高笑いしながら出ていく魔族。魔族と人間族の全面戦争は今この瞬間始まったのであった。
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次回更新は8月9日を予定しています