第十話 魔術師は武士と出会う
遂に連載1ヵ月です!これも皆様のおかげです!
本当に本当にありがとうございました!
コルモが杖で木をへし折った次の日の朝、昨日と同じくサトル達は朝早くから森に向かっていた。オーク肉の高価買取の臨時収入があったとはいえコルモの杖代と宿代、宿屋の木の弁償でほとんど使い果たしてしまった。その日の宿すら危ない生活になってしまっているためサトルは早くDランクに上がりたかった。なので今日も朝から依頼をこなすつもりなのだ。
「今日もオークが狩れるといいですね~」
「この辺はオークが多いらしいし多分狩れると思うよ。でも昨日と同じ値段じゃ売れないしゴブリンとかも狩っておきたいね」
「なんで昨日と同じ値段で売れないんですか~?」
「多分昨日のオーク肉が残ってるからね。少しは安くなるんじゃないかな」
「言われてみればそうですね~。じゃあ一杯狩ってガッツリ稼ぎましょう~!」
「コルモちゃんの杖には期待しているよ」
「もう!それは言わないでください~!」
どうやらコルモは筋力が大幅に上がっているのがお気に召さないようだ。見た目は変わっていないのが唯一の救いだった。筋肉ムキムキになったコルモちゃんはみたくないからな。
二人は談笑しながら森の奥深くに入っていく。魔物の位置がわからないので歩き方は当てずっぽうだ。しばらく歩いているとサトルは奇妙な物体を見つける。
「うん?ねえ、コルモちゃん。あれってもしかして…」
「あ、あれはスライムですね~。スライムの中でも一番多い種族のグリーンスライムですね~」
「やっぱりスライムなんだ。現実だと気持ち悪いね…」
どうしてもスライムというと可愛いイメージがあったサトルだが現実は非情だ。可愛さの欠片もなく単純にただのゲル状の物体だ。意思を持っていてグニグニと動いているのが気持ち悪い。
「スライムと討伐対象に入ってなかったけど、どうしてなの?」
「スライムって倒しても何にもならないですよね~。あのゲル状の素材の使い道があんまりないみたいです~」
「確かにあんなの使いようがないか…」
クッション材として使えそうではあるがそこまで科学が発展していないこの世界ではその発想に至らないのかもしれない。
「あとスライムって基本こちらから攻撃しなければ何もしてこないんですよね~。無害だから討伐対象にも入ってないんですね~」
「なるほどね。じゃあ他の魔物を探しにいこうか」
「はいです!」
こうしてサトル達はスライムを避けてまた森の深くに入っていく。その日は中々魔物が見つからず、夕方まで粘ったサトル達だったがゴブリンが6匹狩れただけだった。
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ゴブリンの右耳だけ切り落とし、町まで帰ってきたサトル達。オークと違いゴブリンは肉は食べれないのだ。食べる部分が少ないのもあるが。組合に直行し、そのまま受付嬢の元に向かうサトル達。他の冒険者の視線が集まっているのにサトルが気づくことは無かった。
「こんばんわ、受付嬢さん」
「こんばんわ、サトルさんとコルモさん。今日は遅いお帰りですね」
「中々魔物が見つけれなくてですね…今日はゴブリン6匹です」
「了解しました。それでは報酬の12銀貨です」
「ありがとうございます」
あまり稼ぐことができなかったが今日の宿代は確保することができた。もう遅いから宿屋に帰ろうかと思うと受付嬢が声をかけてくる。
「お待ちください、サトルさん。実はあなた方を待っておられる方いるのです」
「え?僕たちを待っている人?」
誰だろうか?この街に来てまだ交友関係を広げていないので誰なのか見当もつかない。
サトルが困惑していると後ろから突然声がかかる。
「君達がサトルとコルモだね?初めまして、この街で冒険者をやってるセリーエだ」
「は、初めまして」
突然の出来事に動揺するサトル。まさかこの街の有名人がEランクの自分達に会いに来るとは思いもよらなかったのだ。
「君たちと話がしたくてね。今時間大丈夫かな?」
「ええ、まあ大丈夫ですけど…」
「良かった、席を取ってあるんだ。一緒に晩御飯でも食べながら話そうか」
こうしてサトル達は半ば強引にセリーエと夕食を食べることになったのだった。
サトルは話しやすいようにセリーエの正面に座り、その横にコルモが座った。正面に座ったことで改めてセリーエの容姿を見るサトル。セリーエはきりっとした顔立ちでクールな印象を受ける。耳としっぽは完全にライオンだが顔は普通の人間で体毛も生えていなかった。ちなみに胸はまっ平らだった。これはこれで希少価値なのだろう。
料理が続々と運ばれてくる中サトルがセリーエに質問する。
「単刀直入に聞きますが、僕たちに何の用ですか?僕たちは最近この街に来たばかりです。セリーエさんとも縁が無いと思うのですが…」
「そうですよ~。セリーエさんみたいな有名人に声を掛けられるような事してないですよ~?」
「フフッ。君たちは自分達がかなり目立っていることに気づいた方がいい。サトル君の剣はかなり目立っているぞ」
サトルはいきなり痛いところを突かれた。気にしてはいるのだがサトルの能力の問題上、安物と交換するわけにもいかないのだ。
「で、でもそれだけで声を掛けるなんておかしいじゃないですか?」
「もちろんそれだけじゃない。サトル君、君は酔っぱらった冒険者を一撃で倒しているね。あれはCランク冒険者なのだよ」
「あいつCランクだったんですか…」
どうやら冒険者組合でサトル達に絡んだ冒険者はCランクだったようだ。確かに自分より2ランクも高い冒険者に勝つのは目立つだろう。
「でもあの人は酔っぱらってましたし…」
「まあ確かにいくらCランクといえども酔っぱらっていたのは大きなハンデだろう」
「じゃ、じゃあ」
「残念ながらこの二つが君たちに声を掛けた理由では無い。一番の理由はオークの件だ」
「オーク?持ち帰ってきた肉のことですか?」
「そうだ。どうやら君たちはオークを切断することができるらしいな。真っ二つに」
「そうですけど…」
「この街にいる冒険者でオークを両断できるのは君と私だけだろう」
サトルは自分がいかに派手なことをやってしまったかを今更ながら気づいた。しかし今気づいたところで遅いのだが…
「そこで君に決闘を挑ませて欲しい。どちらが上かはっきりさせたいのだ」
「ええ!?決闘ですか!?」
「そうだ。私は世界一の剣士を目指している。そのためには君は超えなければならない壁なのだ。頼む!この通りだ!」
そういってセリーエは頭を下げる。セリーエは本気のようだ。だがここでサトルは妙案を思いつく。
そうだ!ここで戦ってわざと負ければ一気に有名じゃなくなるんじゃないか?そうすればこの目立った噂も払拭できるかもしれない!
サトルは安易にそう考え、セリーエに返事する。
「分かりました。決闘を受けましょう。日時と場所、ルールはこちらが決めていいですか?」
「ああ、いいだろう。私はいつでもいいぞ!」
「では明日の正午、街から少し離れた草原の開けた場所でどうでしょうか?」
「ああ、それでいいだろう」
こうしてサトルは決闘の約束をして、そのままセリーエと夕食を堪能した。夕食中の会話できるだけ過去の話はせず、帝都についてなどを聞く形で会話した。流石にサトル達の王国での話はできないのだ。夕食を食べ終わりセリーエと別れたサトル達は宿屋へと帰っていた。
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帝都からすこし離れた洞窟。そこには人数が少なく、この大陸にはいないはずの魔族が100人整列していた。さらにその上空には魔族に使役されている低級魔物のインプが所狭しと飛んでいた。その一団の最前列で微笑みを浮かべている魔族がおもむろに懐から水晶を取り出す。ふわりと水晶が浮かび上がると同時に魔族とインプたちは身動きを止めた。水晶が輝きだし、水晶から声が響く。
「・・・どうやら戦力は整ったようだな」
「はっ!3年の月日を要しましたが全員人間どもにバレずに潜入することに成功しました」
「ふむ、いよいよ計画を実行するときだ」
「ふっふっふ。いよいよ人間どもを震えあがらせることができるのですね」
「我々は3年待ったのだ。今こそ我ら魔族悲願成就の為に。行け!魔王四天王の一人フダルよ!」
「はっ!必ずや人間どもの帝都を落としてごらんに入れます!」
会話が終わると共に水晶の輝きが止まり、フダルの手元に戻る。水晶を懐にしまったフダルは向き直り魔族たちに活を入れる。
「行くぞ皆の者!今こそ我ら魔族の力を示すのだ!」
「「「「「オオオオオオオ!!」」」」」
洞窟中に響き渡る魔族たち雄たけび。今まさに帝都は危機的状況になったのであった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
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次回更新は7月23日を予定しています。