第九話 魔術師は武器を買う
遅れましたが評価していただいた方々、過分な評価ありがとうございます!
あの後街までオーク死体を持っていき門番に預けたサトル達。流石に街の中で魔物の死体を引きずる気にはなれなかったのだ。そのまま冒険者組合に行き受付嬢に話しかける。
「こんにちわ。サトルさんとコルモさん。」
「こんにちわ。名前覚えてくださっていたんですね」
「二人パーティーの方は珍しいので。それで今日はどうされましたか?」
「オークの討伐をしてきたので討伐報酬と、オーク肉の買取をお願いします」
「了解しました。それで何匹のオークを狩って来たのですか?」
「全部で5匹です。持ってきたオーク肉は4体で門番さんの所に預けてあります」
一匹はコルモが焼き尽くしてしまったため骨しか残っていないのだ。骨だけでも残ったため討伐の証があるのが唯一の救いだった。
「4体もですか。それはかなりの収穫ですね、おめでとうございます。とりあえず討伐報酬の25銀貨ですね」
「ありがとうございます」
「それではオーク肉の確認をしますので、しばらくお待ちしていただいてよろしいですか?」
「分かりました」
どうやら時間がかかりそうなので組合の中の酒場スペースで昼食をとることにする。どうやら酒場は食堂としても利用できるようになっており、酒のつまみ以外にも料理が豊富にそろえてあった。この世界では法律で飲酒の制限がかかっていないため未成年でも飲むことができるが、前世の記憶があるためサトルは飲む気にはなれなかった。
「サトル君何を食べます~?」
「そうだなぁ。折角だしオーク肉のステーキ食べてみるよ。ちょっと高いけど」
「食べたことないんでしたね~。中々美味しいですよ!オークの外見考えると複雑な気持ちになりますけど~」
「食べる前にそういうこと言わないでよ…」
一瞬止めようかとも思ったサトルだったが、好奇心が勝ちオーク肉のステーキを注文した。聞いていた通り豚肉のような肉質に牛のような濃厚な脂肪がついた美味しいお肉であった。いくら美味しいといえどもオークの肉なので積極的に食べたいとは思わなかったが。ちなみにコルモは豚肉と野菜を煮込んだこの辺りの郷土料理を注文していた。
2人が昼食を食べ終わり、雑談をしながら休憩していると受付嬢から声がかかった。
「サトルさん、コルモさん。オーク肉の査定終了しました」
「どれくらいになりましたか?」
「4体とも全身、しかも肉自体に傷がほとんどなく状態もよいため高めに買い取らせていただきました。4体で4金貨となります」
「4金貨!?結構高いですね」
「オーク肉自体は貴重じゃないんですけどここまで保存状態がいいものはあまり無いんですよ。オークを狩るのがだいたいE~Dランク冒険者になるんですがそうするとズタズタになっていたり、魔法で損傷が酷かったりするんです」
「なるほど。ランクの高い人は狩らないからそうなるわけですか」
「そうなりますね。受付嬢をやっていてオークが両断されている状態で持ってくる人は初めて見ましたよ。その大きな剣を持っているのは伊達ではないということですね」
冒険者が王国に比べて多い帝国でもサトルの剣は目立っていた。この世界にも両手剣はあるが刀身がサトルのものほど分厚く、長いものは存在しなかった。
「とりあえず買取お願いできますか?」
サトルは説明するとボロが出そうなのではぐらかすことにした。もう能力がバレるのはこりごりなのだ。
「はい、それでは買取金額の4金貨です。お確かめください」
「ありがとうございます。それではこれで失礼します」
サトルはお金を受け取りさっさと逃げだす。逃げるが勝ちなのだ。
「・・・どうやらただ者ではなさそうですね。武器も何か秘密があるようですし。一応組合長に報告しておきましょう」
既に目をつけられてしまったサトル。力を隠すことは冒険者という職業上難しいのであった。
組合を出て宿屋に向かいながら先ほどのオーク肉の金貨の使い道を考える二人。
「こんなに高く売れると思ってなかったから何に使うか考えてなかったね」
「正直驚きです~。こんなに高く売れるなんて初めて聞きました~」
「宿代はとりあえず確保してあるし、何に使おうか?」
「サトル君は武器買う必要ないですし、ポーションとかの回復アイテムも使う必要なさそうですし…」
ポーションはこの世界で一般的に流通している傷を癒す薬だ。薬草だけで作ってある前世の薬のような治癒力を高めるタイプと魔法の力を込めてあるタイプの2種類あるようだ。サトルはお世話にならないだろうが…
「そうだ!魔術師って杖持ってるんだよね?それ買おうよ!」
「ええ!?サトル君が倒したオークのお金なんですから悪いですよ~」
「まあまあ、チームなんだしいいじゃない。ある方が便利なんでしょ?」
「それはそうですけど~」
「じゃあ決まり!早速買いに行こう!」
こうして武器を買うことにしたサトル達はコルモの知っている武器屋へと向かった。
帝国の武器屋は王国の武器屋よりも規模が大きく、綺麗なお店が多かった。これも帝国側からお金が多少出ているのだろう。その中の一軒に入るサトル達。コルモ曰く魔術師の杖を取り扱っている店で一番有名だそうだ。
「色々な種類があるなぁ。コルモちゃんはどんなのがいいの?」
「扱いやすい物がいいですね~。魔術刻印はそこまで必要ないので」
「まあ僕の素質のせいで上がりきってるからね。今更魔力アップとか要らないかな」
という訳でコルモの背丈にあった杖で耐久力の魔術刻印がしてあるものを購入した。魔力アップと違い耐久力の刻印は安く、予算内で購入することができた。
「本当にありがとうございます~!」
「いいんだよ。コルモちゃんにも武器は必要だからね。そういえばコルモちゃん全ステータスアップ[S]が付いてるけど実際どれくらい筋力あるんだろう?」
「そういえば試して無かったですね~!宿屋でお願いして庭で杖試してみましょう~」
「それがいいね。実戦でいきなり使うのは危ないし」
その日帝国のある宿屋の木が折れ、女性の悲鳴が響き渡る怪事件が起こった。勿論犯人は言うまでもなくコルモである。コルモの筋力も既に常人の域を超えているのであった。
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獅子人族のブシドー、セリーエは今日も冒険者組合来ていた。自分が鍛錬になると思える目ぼしい討伐依頼が無い日は、鍛錬を朝から昼まで行い昼から狩りに出かける。イノシシやクマなどを狩って夕方ごろ冒険者組合に向かい売る。これが彼女の日課であった。今日も狩りの成果であるイノシシを売り払い、そのお金で酒場で夕食を食べて帰るつもりだったセリーエは酒場のメニューの異変に気付いた。
「オーク肉のステーキがいつもより安いな。それに霜降りも売っている」
オーク肉はかなり美味しく冒険者には割と人気なのだが、狩る人数が少なく流通はあまりしていないのだ。なので酒場にオーク肉が安く出回っているのは珍しい事であった。少し気になったセリーエは酒場のマスターのところに行き話を聞いてみることにする。
「マスター。今日はオーク肉が安いようだがなにかあったのか?」
「おう、セリーエちゃんよく来たな。やはり気になるか」
「そりゃそうだろう。こんなことこの街に来て初めてだからな」
「それが受付嬢に聞いた話だと新人の二人組がオークを狩って来たみたいなんだよ」
「二人でか。新人で中々度胸があるな」
「一人で戦ってるセリーエちゃんには言われたくないだろよ。で、そのオークの死体見たんだが両断されてたんだよ」
「オークを両断!?本当に新人なのかその二人組は?」
セリーエも自分のカタナならオークを両断することができる自信がある。しかしそれは先祖代々伝わるカタナだから出来る芸当なのだ。つまりその新人はセリーエのカタナに匹敵する程度の武器を所持していることになる。しかもそれを使いこなせる筋力と技も必要なのだ。
「ああ、Eランクで他の国の冒険者プレートを持ってなかったから間違いないだろう」
「なるほど…名前はなんて言うんだ?」
「確か・・・サトルとコルモだったかな」
「そうか。一度手合わせをしてもらいたいな」
セリーエはこの街に来て初めての自分に匹敵する剣士の存在に歓喜し、笑顔を浮かべていた。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
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次回更新は7月21日を予定しています。