第三話 魔術師と勇者は逃亡する
今回も説明多めです
ゾンロイからお金を受け取ったサトル達は王国中を駆け巡り、旅に必要な物をかき集めた。今回はサトルが王国に来た時のように気軽ではない。後ろから追いかけられているのだからとにかく急がなければならないのだ。特に今回はコルモがいる為強行軍はできない。
とりあえず最低限必要なバッグやテントを買っているとふと思いついたようにサトルに質問をしてくる。
「そういえばサトル君走るの早いですよね~?また私を抱っこして走った方が早いんじゃないですか?」
「走ったら馬より早く関所に着くだろうね。でも今後も旅をするんだし馬はある方がいいかなって」
「確かにそうですね~。毎回抱っこじゃ疲れちゃいますし」
サトルは少し鈍感だが一応人並みに考えて行動している。いくら早いからといって抱っこで世界を冒険する気はないのだ。あまり見栄えもよくないのもあるが。
「馬は後でいいですし、後は食料でしょうか。どれくらい用意しときますか~?」
「それについてだけど、コルモちゃんって料理できる?」
「料理ですか~?実は大得意です!魔法よりも得意かもしれません!」
サトルも初めて見るコルモのどや顔。胸を大きく突き出すのだけは色々な意味で止めて欲しい。
「それは助かるね。じゃあ簡単な調理器具と調味料だけ持ってこう」
「ええ!?現地調達ですか?サトル君、いくら力があっても動物狩るのは難しいですよ~?」
「任しといてよ!8歳の頃から狩りは鍛えてるんだ」
「8歳ですか!なんだか最近サトル君の言うことに驚くのが定番になってますね…」
「まあ、この力だから危険なかったしさ。とにかくコルモちゃんの料理期待してるよ」
「そうですね~。私も料理でサトル君を驚かせて見せます!」
サトルは料理が出来ないのでコルモもできなかったら一気に旅が不安になるところだった。まずい料理は精神的にくるものがあるのだ。
一通り買い終えたサトルたちはゾンロイの紹介の商店へと行き、馬を購入する。馬に乗るスキルをサトルは家で練習していたので問題なかったがコルモは乗れなかった。仕方ないので別行動をとりサトルは引き続き買い物、コルモは乗馬訓練することにした。全て漏れなく買い物をし終えたサトルは、どうしても気になっていた事を確かめるためある場所へと向かった。
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商業地区の少し小さめの店舗、すなわちサトルがバスターソードを購入した店に来ていた。店に入ると鐘が鳴るが相変わらず店主は武器づくりに夢中で気が付かない。サトルは近づいていき声をかける。
「おじさん、こんにちわ」
「あん?おお、ボウズか。まだ生きてるみたいだな」
「おじさんの武器のおかげで助かりましたよ。おじさん、ドラゴンの噂聞きましたか?」
「ああ、ドラゴンを倒した凄腕冒険者が…まさかボウズがやったのか?」
「話が早くて助かります」
「・・・・」
おじさんは驚いて絶句している。まあこれが普通の反応だよな。
「いやはや、ボウズが武器を持ったとき一生分驚いたつもりだったんだがな」
「まあ、そこは置いといてですね。質問なんですけど、この武器を盾にしたらドラゴンブレスに耐えられたんです。僕は加護があったので耐えられたんだと思いますが、剣が耐えられるのはおかしいと思うんです」
そう、これこそがサトルが疑問に思っていたことだ。サトルには全属性の加護[S]があるし、耐久力があり得ない数値なので耐えられても不思議ではない。しかし剣は加護が付与される訳ではないので融けてしまうはずなのだ。
「正直ドラゴンブレスを耐えられる加護を持ってることに突っ込みたいが、それは置いとくとしよう。剣が耐えられた理由は単純だ。その剣に魔術刻印がされているからだな」
「魔術刻印?」
「魔術刻印とは武器制作の肝となる工程だ。武器に刻印し、魔力を付与することで武器に素質のような力を与えられる技術だ。これは神力魔法によって得られた技術だな」
「なるほど。では、この武器にはどのような魔術刻印がされているんですか?」
「それは残念ながら分からんのだ」
「分からない?」
分からないとはどういうことなのだろうか。神力魔法ならば世界に広く広まっているはずだし、師匠の技術を弟子のおじさんが知らないなんて。
「全く分からないんだ。普通の剣には”鋭さアップ”とか”耐久力アップ”とかを2,3個刻印するんだが、こいつには1個しか刻印されていない。しかも見たことも聞いたこともない刻印だ」
「お師匠さんは教えてくれなかったんですか?」
「ああ、当時聞いた時はこう言っていたな。”こいつは一般人には扱えない代物だ。だが俺の同郷の奴なら最強の武器になる”ってな。師匠の故郷を知らないから同郷のやつが誰を指してるのかが分からないんだ」
その話を聞いた時全てがわかった。この武器は同じ”転生者”の為の武器だと。だから外見もほぼそのままだし名前もバスターソードにしたのだろう。魔術刻印も何かしらチートを持ったものにしか扱えないような物なのかもしれない。
「まあ坊主の話を聞いた感じだと炎に対する刻印なのかもな」
「そうかもしれませんね。そういえばこの剣、素材は何で出来てるんですか?」
「一番扱いやすい鉄だな。切れ味は悪くないがドラゴンを斬ることは出来ないだろうな。どうやってドラゴン倒したんだ?」
「え、普通に両断しましたけど…」
「…おいおいおいおい。お前の中の普通はどうなってるんだよ。ドラゴンを両断って最高鉱物のアダマンタイトじゃないと不可能だろ」
「でも実際できましたよ?」
「…ちょっと刃先見せてくれないか?」
「はい、どうぞ」
剣を背中から外して机の上に置く。また前回のようにドスンと音がする。おじさんはルーペのようなものを取り出し刃先を慎重にチェックしていく。数分後若干青ざめたおじさんが剣を返してくる。
「信じられん。剣先に刃こぼれ一つ見当たらん。お前の話が事実だとするならば刻印が斬撃系か耐久系とも考えれるが…そうするとドラゴンブレスの説明がつかんな」
「この武器の刻印、恐ろしい性能ですね」
「ああ、魔術刻印の歴史を変える代物だな。今更だがあの人の才能はやはり化け物だったんだな」
「他の剣もこんな感じなんですか?」
「いや、これ一本だけだ。他の武器は普通に刻印してあるんだ。だが当時から何か力をセーブしているような気がしていたんだ。多分こういう武器が世の中に大量に出回るのを恐れたんだろう」
「それってどういうことですか?」
「あの人は武器を作ってるくせに戦争反対なんてほざいてたからな。自分が戦争の道具になるのが嫌だったんだろう」
なるほど。つまり俺と同じような思考の持ち主だったわけだ。多分転生の際に強力な魔術刻印のスキルを貰ったが戦闘系のスキルが無いから人目についたら監禁されると思ったのだろう。王族の俺に対する強引な手段を見る限り正しい行動だったみたいだな。
「おじさん、色々教えてくださってありがとうございます」
「いいってことよ。どうやらボウズがその武器を持つにふさわしい人物みたいだしな。俺の目は曇ってなかったぜ」
「本当にありがとうございます。今日でこの街を離れるのでしばらく会えないと思いますが元気でいてくださいね」
「ボウズこそ死ぬなよ。まあドラゴンを両断する奴が死ぬ姿は想像できないがな!」
そういって豪快に笑いだすおじさん。そのままおじさんと別れコルモと合流しに戻り、遅くなったのでお互いの宿屋でぐっすりと寝てしばらく離れるであろうフカフカのベットを堪能する事にする。
翌朝、朝焼けと共に冒険者組合の前に集まりゾンロイの手引きで王都を出る二人組。この日からサトルとコルモは王国から追われる身となったのであった。
今回も読んでいただきありがとうございました!
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次回は7月9日を予定してします。