第二話 魔術師は勇者の正体を知る
ゾンロイが主役です
翌朝組合の前で待ち合わせした二人は時間通りに会い、そのまま組合に入っていく。ちなみにサトルは前世の記憶から女性を待たしてはいけないと思い、約束の時間の30分前に来ていた。女性との待ち合わせが初めてであまり眠れず、早く起きてしまったのが早すぎる原因なのだが…
流石に朝一番のだから誰もいないな。窓口は二つ空いているが顔見知りだし、セレステの方に行くことにしよう。
未だに人見知りな部分があるサトル。パーティーメンバーは無理やり話して馴れたから良かったのだ。
「あ!おはようございます、サトル君!昨日はお手柄でしたね!」
「お、おはようございますセレステさん。やはり知っていましたか」
「そりゃあ、組合の職員全員の話題の種ですからね!サトル君の冒険者の手続きをしたのは末代まで語りますよ!」
「そ、そんな大層なことしてませんよ」
「何言ってるんですか!ドラゴンですよ、ドラゴン!倒せるのは一握りの英雄だけですからね!」
サトルはセレステが想像以上に興奮していてタジタジだ。コルモもその様子を見て苦笑いしている。あまりにも興奮しているため、隣の受付嬢がセレステの頭を叩く。パコーン、と小気味のいい音が鳴り響いた。
「いったーい!」
「サトルさん、うちの者が大変失礼いたしました」
そう言ってセレステの頭を強引に下げながら自分も頭を下げる受付嬢。どうやらセレステの先輩のようだ。
「いえ、僕も驚いただけですから。それでドラゴンの報酬について聞きたいんですけど」
「ああ、その件でしたか。それでは組合長から直々にお話があるそうなので、組合長をお呼びしてきますね。セレステ!サトルさんを応接室に通しておきなさい」
「分かりました!」
そうしてセレステに応接室に案内される。昨日のように紅茶が出されたので今度はじっくりと楽しむ。前世ではコーヒー党だったが紅茶も悪くないな。紅茶の香りを楽しんでいると組合長がやってきた。何故か機能に比べてやつれている気がする。
「おはよう、サトル君にコルモ君」
「おはようございます、ゾンロイさん」
「おはようございます~」
「さて、早速報酬についてだが…残念ながら厄介なことになった」
「厄介なことですか?」
サトルとしては早く報酬を受け取ってこの世界を巡りたいのだ。これ以上厄介ごとに巻き込まれたくない。
「ドラゴン討伐の話を王に報告したのだが、君に興味を持ったようだ。君のドラゴン討伐の依頼主を強引に王宮に変更したのだ」
「そうなんですか。そうするとどうなるんです?」
「つまり組合が報酬を払うのではなく王宮が払うことになる。そしてどうやら王宮は報酬を渡す式典を開くようだ。式典は明日決行するようだ」
「僕にはそれが厄介ごとに聞こえないのですが…?」
サトルはこの話を聞いても何故厄介ごとなのか理解できていなかった。ドラゴンという国を亡ぼす存在を討伐したのだからそれくらいしても普通なのではないかと。しかしその考えは甘かった。
「確かにそこまではいい。だがどうやら王は君の正体を知っているようだったのだ」
「僕の…正体…?」
「王は確かに君をこう言った。”転生者”と」
「!?」
サトルはあまりの驚きに立ち上がる。”転生者”。この単語を使ったということはサトルの素性がバレているということだ。
この世界に俺以外の転生者がいるのは薄々気づいていたが、まさかこの世界の人間がそれを知っているとは思わなかったな。出来れば国の厄介ごとに首を突っ込みたくはないが…
サトルが深刻な表情で考え事をしていると、コルモが恐る恐る話しかける。
「あの~、私だけ分かってないんですけど”転生者”って何ですか?」
「ふむ、サトル君はまだ明かしていなかったのか。もしかしたら二人きりの方がよかったかね?」
「いえ、後々明かすつもりでしたし…少し早まっただけです」
「それで結局何なんですか~?」
「俺から説明しよう。サトル君と認識のずれがあるといけないからな。”転生者”とは何らかの理由でこの世界以外の世界からこの世界に神に連れてこられた者のことだ。特徴として前世の記憶を持っていて、人外の力を得ている。そこにいるサトル君のようにな。もちろん全てが戦闘系の能力という訳でもないがな」
「へ!?別の世界?前世の記憶?」
「”転生者”は不定期でどこに生まれるかもランダムだ。歴史に大きく関わった者もいるし、ひっそりと死んでいったものもいるだろう。歴史上の英雄はすべてが”転生者”と考えてもらって構わない」
「やはり僕以外にもいるんですね。基本は僕の知っていることと同じです」
「よ、よく分からないですけどサトル君のステータスチェッカーを見た後だから納得できます…」
コルモはまだあまり理解できてないようだが事態は何となく分かってきているようだ。まあ突然転生だの別の世界など言われてすんなりと理解できる方がおかしいのだが。
「でもゾンロイさん。何故”転生者”のことを知っているんですか?」
「このことは組合長等一定の地位の人間は知っているのだよ。ここで問題などが王が強引に君たちを王宮に呼んだ。君たちを匿って利用しようとしているに違いない」
「そういうことだったんですね」
「これは俺の責任だ。薄々君が”転生者”だと気づいていたのに安易に王族に情報を渡してしまった。君たちが政治に興味があるのならいいのだが、無いのなら君たちの自由を奪ってしまうことになるからな」
どうやらゾンロイは12歳の少年が政治の駒にされるのを間接的に手伝ってしまったことを後悔しているようだった。それでやつれて見えるのだろう。
「どうにかして逃げることはできないんですか?」
「できなくはない…ただ君たちは一生王族に付け狙われるだろう。その覚悟があるか?」
「・・・・」
ここで王族に力を貸せば確かに楽になるだろう。一定の自由は保証されるだろうし生活に不自由することも王族ならあり得まい。だがサトルは力を貸すのが嫌だった。政治に力を貸すということは戦争に駆り出されることもあるかもしれない。サトルはモンスターを倒すのはいいが人間相手に戦う気はサラサラ無かった。そしてコルモと離れ離れになるのも嫌だった。
「僕は政治に手を貸すのも、コルモちゃんと離れ離れになるのも嫌です」
「サトル君…」
「よく言った。それでこそ男だな。微力だが逃走に力を貸そう」
「ゾンロイさん、ありがとうございます」
「よしてくれ。元はといえば俺のせいなのだからな」
ゾンロイが力を貸してくれるのは好都合だな。いくら力があっても逃げる際の痕跡を消すのは難しいからな。
「さてプランを言おう。君たちは今日中に旅支度をしてくれ。明日の朝君たちはこの王国から出ていくのだ。その為の準備はしてある」
「もうそこまで準備がしてあるんですか!?」
あまりにも早い仕事にサトルは驚きを隠せない。
「昨日王宮から帰って来てから徹夜だよ。これは俺自身ケジメでもあるからな」
「す、すごいですね~」
それでも尋常じゃない仕事の早さにコルモも驚いているようだ。よく見るとやつれ以外にも少し目にクマが出来ている。徹夜というのは嘘じゃないようだ。
「これが私から出せる精一杯の金額だ。この資金を元に旅支度を整えてくれ」
「ありがとうございます」
そういって渡された革袋。中には50金貨が入っていた。
「こ、こんなにいただかなくても!」
「言っただろう。これはケジメなんだ。何も言わずに受け取ってくれ」
「コルモちゃん、ここはありがたく受け取っておこう。もう時間もない。早く旅支度しないと」
「そうだな。最低でも2日で王国の領土を抜けなければ関所で捕まるぞ。馬や食料等しっかり用意しろ」
「そうですね。助言ありがとうございます」
その後サトル達はゾンロイと別れ早速買いだしを始める。すべては安寧の日々の為に。
今回も読んでいただきありがとうございました!
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次回更新は7月7日を予定しています。