第九話 勇者はドラゴンスレイヤーとなる
今回は久しぶりの戦闘回です。
ドラゴンは咆哮を終えた後ゆっくりと前足を上げていく。前足が頂点に達したところでドラゴンが口を開く。
「まずは小手調べといこうか!」
ドラゴンはそう言うと前足を神速の如き速さで叩きつけてくる。サトルにとってはそこまで速い攻撃ではなかったがコルモにとっては即死の攻撃だ。サトルはとっさにコルモをお姫様抱っこすると大きく跳躍する。コンマ数秒後、二人がいた地点に大きなクレーターが出来ていた。
「ほう、この攻撃を人間の分際で避けれるとは。中々楽しませてくれそうではないか」
ドラゴンは何百年ぶりの強者との戦いに心を弾ませていた。一方コルモはあまりの出来事に、理解が追いついていなかった。
「えっ?あれ?何で私はサトル君に抱っこされてるんですか?」
「いきなりごめんね。でもそのままだったらドラゴンの攻撃に当たっちゃうからさ」
「へ?何で私たちドラゴンから離れてるんですか?ってあのクレータは!?」
全く現状が理解できないコルモ。サトルはこれ以上時間もなさそうなのでさらに跳躍し、ドラゴンから距離をとる。そしてコルモを地面に降ろした。
「コルモちゃん、今から僕がドラゴンと戦ってくるからここで隠れてて」
「サトル君!一人でなんて無茶だよ!私だって戦えるよ!」
しかしコルモがドラゴンと戦うのが無理なのは明らかだった。魔力をゴブリン軍団で使い果たしてしまっているのだ。魔法使いは魔力が無ければ戦うことができないのだから。
「大丈夫だから、安心してコルモちゃん。ドラゴンだってきっと倒してやるから」
「…絶対にここに戻ってくるって約束してくれる?」
「もちろんだよ!じゃあ行ってくるね」
こうしてサトルはコルモを木影に残し一人でドラゴンと相対した。
「今生の別れは済んだのか?人間よ」
「ドラゴンの癖に待ってくれるなんて随分律儀だな」
「われはドラゴン。高尚なる生物の頂点である。別れをする男女の邪魔をするほど無粋ではない」
「何だか人間みたいな考え方だな」
「それにあの女は弱い、自らの手で弱者を殺すことが趣味ではないのでな」
「なるほどね、じゃあこっちから行かせて貰うぞ!」
サトルはそう叫びながら跳躍し、バスターソードで袈裟斬りをする。サトルは久しぶりに全力で剣を振るった。その攻撃は音速を超え、ドラゴンの顔を狙う。
「バ、バカな!人間如きがこのスピードで動けるだと!?」
さっきのドラゴンの攻撃は小手調べのため本気の速度で攻撃していなかった。そのためサトルも逃げる際にコルモの身体の負荷を考え、本気の速度で移動していなかったのだ。てっきりあれが全力だと勘違いしていたドラゴンは咄嗟のことに反応しきれず、前足をバスターソードと顔の間に滑り込ませることが限界だった。バスターソードはサトルの力と速度を完璧に伝達し、ドラゴンの前足の足首部分で両断した。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンの悲痛な叫びが森を木霊する。ドラゴンはこの世に生を受けて一度も、身体に傷をつけられたことが無かった。攻撃が当たることは稀にあったが、すべて強靭な鱗が遮断していた。しかしサトルのバスターソードはドラゴンの鱗すらも凌駕するものであった。生まれて初めての痛みにドラゴンは冷静さを失い、怒りと屈辱に感情が染まる。
「おのれ、人間めぇ!下等生物の分際でこのわれの身体に傷をつけよって!」
「おいおい、ドラゴンってこんなに柔らかいのかよ…」
サトルはあっさりと攻撃が当たり、しかも足を両断してしまった事実に落胆していた。ドラゴンと言えばどのRPGでも花形的な存在だった。ドラゴン自体がゲームタイトルになるくらいなのだから。
サトルが考え事をしている間、ドラゴンはついに切り札を使用した。
「使わずに勝つつもりであったが仕方がない。これで死んでもらおう!ドラゴンブレス!」
サトルの悪い癖であるどんな状況でも考え事をしてしまうことが今回は仇となった。サトルがドラゴンの言葉に気づいた時にはもう遅い。サトルの視界は既に暴れ狂う炎で埋め尽くされていた。あまりにも巨大な炎はサトルの跳躍でも逃げることは不可能だ。
マズい!これじゃあ避けることができない。どうすればいいんだ!?
ドラゴンの吐いた炎は容赦なくサトルを襲う。ドラゴンは炎を吐き出しつつ、自分の勝利を確信していた。吐き出した後もサトルの動きを注視していたが、避ける素振りすらできていなかった。この世界に存在するもので、この炎をまともに受けて生き残れる存在などいない。つまりまともに正面から受けているサトルが生き残れるわけがないのだ。すでにサトルの灰すら残っていないだろう。自分の目の前に忌々しい存在が消え去ったのを確信し、炎を吐き出すのを止めるドラゴン。しかしそこには
「ふう、危なかったな」
「な、何故生きている!」
何事もなかったかのように立っているサトルだった。サトルがテンパりながらも取った行動は、ゲームで見たことがある防御方法であった。それは某狩猟ゲームで大きな剣を自分の全面付きだすことで身を守るというものだ。だがそのサトルが咄嗟に取った行動が功を成し、サトルは灼熱の業火から身を守ることに成功したのだ。
「それじゃあ今度はこっちの番だな」
「ま、待ってくれ!お前は一体何なのだ!」
「通りがかりの未来の勇者様だ!」
そしてサトルは前に跳躍しながら剣を振る。弾丸の如きサトルはそのままドラゴンに突っ込んでいく。ドラゴンが慌ててもう片方の前足でガードを試みるが、前足を切り裂きそのままの勢いでドラゴンの身体を切り裂いていく。サトルが地面に着地したとき、そこには両断されたドラゴンの死体があった。
「は~あ、この世界のドラゴンはこんなものなのかな」
サトルは目に見えて落ち込んでいた。結局ドラゴンも森の主と同じ二撃で倒してしまったのだから。
「まあこのドラゴンが特別弱かったかもしれないな、指揮していた兵はゴブリンだし」
そんなことをブツブツと言いながら振り返るとそこには
「うわぁ、こりゃ酷いや」
森の木が無くなっていた。木は炭化することもなく燃やし尽くされ、地面もえぐれている。一瞬で燃やし尽くされたおかげで他の木に燃え移ることは無かったようだが。そこでようやくサトルは、コルモのことを思い出す。迎えにいこうと歩き出そうとしたとき
「サトル君!」
コルモがサトルに抱き着いてきた。戦闘音が無くなったので様子を見に来たのだろう。サトルとコルモの身体はぴったりとくっつき、豊満な体の一部分が当たっている。サトルは前世も含め、人生二度目の感触に感動しているとコルモが話しかけてくる。
「サトル君、無事でよかったです!本当に、本当に…」
そして泣き出してしまうコルモ。女性に泣かれた時どういった反応をしていいか分からず固まるサトル。前世も含めて約30年生きているサトルだが、女性との付き合いがほぼ皆無なのであった。
約5分後泣き止んだコルモがサトルからようやく離れ、サトルも思考が回復する。
「すみません、取り乱してしまって…。でも、サトル君が悪いんですよ!一人でドラゴンと戦いに行っちゃうなんて!本当に心配したんですからね~!」
「ごめんごめん、でも約束通り戻って来たでしょ?」
コルモも落ち着いてきて喋り方がいつも通りに戻ってきている。さっきまではまるで別人のようだった。
「それはそうなんですけど…でも、サトル君凄いですね!ドラゴンに勝っちゃうなんて~!」
「いや、たまたまこのドラゴンが弱かったんだよ。伝説上の生き物がこんなに弱いわけないさ」
「そうなんでしょうか?森をこんな風にできるブレスを吐けるドラゴンが弱いとは思えないんですけどね~」
そのサトルの言葉はどちらかというとサトルの願望であった。自分が憧れていた生物がこんなに弱いわけないという。
「まあこの話は置いといて王国に戻ろうよ。早くしないと余計な混乱生むからね。コルモちゃんもう歩ける?」
「はい、大丈夫です~」
「じゃあ行こうか」
こうしてサトルたちはあっさりと生物の頂点を倒し、帰路へ急いだのであった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
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