第八話 勇者は生物の頂点に会う
今回ついに前回の存在が明らかにになります!
何なのか見当もつきませんね!
サトル達が王国から出発してから30分程が経過した頃、ノリトから声がかかる。
「そろそろ森に入るよ。まだまだ目撃情報の場所までは距離があるけどゴブリンたちが動いてないわけがないからね。森の中で痕跡を探しつつ行くとしよう」
「それがいいだろうな。特に今回の目撃情報は少し妙だ。慎重に進んだ方がいいだろう」
「そうなのか?」
俺もついさっき目撃情報を見せてもらったが、妙な点なんてあったんだろうか?
「ああ、ゴブリンが30匹で目撃されたというところだな」
「ゴブリンって群れを作るもんなんだよね?じゃあ、おかしくないんじゃないの?」
「確かにゴブリンは群れを作る。だがそれは30匹という単位はあり得ない。多くても10匹程度なんだ。ゴブリンたちは人間の脅威を知っているから、基本的に山の中に大多数は生息している。山を下りて人間を襲うのは小数派だ」
「そうだったんだね」
確かにこの世界のゴブリンは弱い。背は成人男性の半分くらいだし、一般人に勝てる程度の筋力しかない。喋ることができないから仲間と連携も取れないのだ。
「だから今回の30匹は異常だ。これだけのゴブリンが群れを成していると後ろにゴブリンを指揮できるような魔物がいると考えるのが普通だが、そのような魔物の目撃情報は無かった」
「なので組合側はただ単に群れが2つくっついてるだけだと考えてるみたいです~」
「まあ、とにかく不確定要素が多いから注意しろって事だな」
「そうですね、注意していきましょう」
この話を聞いてサトルは、怯むどころか内心歓喜していた。この世界での戦闘は今まで一、二撃で終わってしまっていた。やっと自分が苦戦出来るかもしれない相手が登場するのだ。サトルのワクワクは止まらない。
ゴブリンを使役できるほどの存在なのだから、オーガ―キングみたいな奴のゴブリン版か?それとも魔王軍か?
そんなことを考えているサトル。サトル自身は平静を装っているつもりだったが、もろに顔に出ているのであった。
「サトル君、どうしたんですか~?何だかとってもニコニコしてますね」
「えっ!そ、そうかな」
「分かるよ、サトル君。もしゴブリン以外の存在がいたら、いい組合へのアピールになるからね」
「ふっ、中々野心家じゃねえか。気に入ったぜ」
図星を指されてアタフタとするサトル。そんなこんなで少しの会話をしつつ、それでも慎重に歩み続けるサトルたち。そのまま数分歩いていると突然、モノルが足を止める。そして人差し指を立てて口に付ける。
「シッ!どうやらおでましのようだぜ。足音からして30を間違いなく超えてるぞ」
全員が緊張の面持ちで頷き、近くの木に隠れて息をひそめる。そんな中サトルは、何故ジェスチャーが前世と同じなのか疑問に思っていた。その場で待つこと3分、ついにゴブリンたちが姿を現す。それを見たノリトが驚愕の声を上げる。
「な、何だこの数は!数百匹はいるじゃないか!」
声を上げてしまったせいでゴブリンたちはこちらに気づく。
「ま、マズい!ばれちまったぞ!この数を対処できない、撤退するぞ」
「待て!撤退は無理だ!コルモの足じゃ追いつかれる!」
ゴブリンは人間に体格や知能は劣っているが、すばしっこいのだ。素早さアップがついているノリトやモノルは逃げきれるが、後衛職であまり体力もないコルモは逃げることができない。
「チッ!仕方がない。後退しながら迎え撃つぞ!」
「よし、コルモは後退しながら魔法で援護!モノルも弓とヒールで援護してくれ!サトル、僕たちでゴブリンを食い止めるぞ!」
「了解!」
流石リーダーをやっているだけあって的確な指示を仲間たちにとばしていくノリト。サトルは感心しつつ、剣を構える。構え方は前世で見たことのある、所謂正眼の構えのようなものだ。
「剣を持つとますますその剣の威圧感が増すね。右側半分は任せた!左側は僕がブロックする!」
「任せといて!」
そしてゴブリン軍団との戦闘が始まる。口火を切ったのはコルモの風魔法だ。一番得意な火魔法を使わなかったのは森の中だからだろう。
「風の精霊シルフよ、我に力を与えたまえ。ウインドカッター!」
詠唱が終わるとともにコルモの手から風の刃が繰り出されている。とってもファンタジーな光景だ。そういえば魔法って俺にも使えるのだろうか?
戦闘中にも関わらず呑気に考え事をしているサトル。しかし隣のノリトの声で現実へと引き戻される。
「いくぞ!斬撃!」
ノリトがショートソードを振り、そのままゴブリンの首を飛ばしていく。次々と斬りさく姿を見て感心するサトル。そこへ一匹のゴブリンがサトルを殴ろうと棍棒を振り上げるが
「サトル!さっさと戦闘に参加しろ!」
罵声を浴びせつつ矢を放つモノル。矢は一寸違わずゴブリンの頭に突き刺さる。
「みんな凄いなぁ。僕も頑張らなくちゃ。それじゃあ食らえ!」
サトルはそのまま無造作に剣を横薙ぎに振る。バスターソードはそのままゴブリンたちに襲い掛かり、何の抵抗もなく切り裂いていく。サトルが剣を振りきったあとには上下に両断された10匹のゴブリンがいた。
「ええ!サトル君すごいです~!」
「まさか魔力強化無しの一振りでゴブリンを真っ二つにできるとはな…」
「すごいよ、サトル君!これなら勝てる!」
勝機が見え、希望を取り戻すノリト達。サトルは魔力強化というまたも出てきた知らない単語に困惑しつつ、作業的にゴブリンたちを切り裂いた。剣を振ればそれだけでゴブリンたちが倒されていく。その姿を前世の人が見れば、某戦国アクションゲームを思い浮かべるだろう等と、どうでもいいことをサトルは考えながら斬り進んでいく。
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ゴブリン軍団を指揮する存在は苛立っていた。ゴブリン軍団の行軍が止まっているからだ。勿論ゴブリン軍団が何者かと接触し、戦闘を行っているのは知っている。しかし未だ行軍を再開していないということは、その存在にゴブリン軍が負けているからだというのは想像に難くない。
「ふん、これだから脆弱な生き物は。だがまあよい。千の軍団を止める存在とやらを見てやるか」
その存在はゴブリン軍団に行軍を止めるよう命令し、巨大な翼を使い空へと飛び立つ。行軍を止めたのは勿論自分の戦闘を邪魔されないようにするためだ。空を駆けるその存在は僅かに笑みを浮かべていた。
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サトル達が戦闘を始めてから十数分後、ついにゴブリンたちの殲滅に成功していた。だがノリトは何度も傷つき、その度にヒールされているが回復量が足らず疲労の色が濃い。モノルとコルモも魔力をほぼ使い果たし息が荒い。そんな中サトルは平然としているのだった。
「はぁはぁ。や、やったのか…?」
「足音はもう聞こえないが…おかしいな。指揮している奴がいるはずなんだが…」
「もう勘弁してくださいよ~。魔力無くなってもう戦えません~」
「確かに指揮している奴がいないね、普通は最後尾にでもいそうなもんだけど」
そこに突然、上空から巨大な物体が飛来する。木をへし折りながら着地するもの、それはドラゴンだった。ドラゴンは翼を動かすのを止めるとおもむろに喋りだす。
「うぬらが我が軍勢を破った者どもだな?どう見ても弱そうではあるがどうやって千の軍勢を…」
そう言ってドラゴンはサトル達を観察し始める。あまりの出来事に固まっていたサトル達はドラゴンの言葉で徐々に正気を取り戻す。
「どどどどどどどうするんですかこの状況!ドラゴンなんて聞いてませんよ~!」
「これはマズい…いや絶望的な状況だな。人間が勝てる相手じゃない。最低でも王国の軍隊が必要だぜ」
モノルとコルモは青ざめてその場で立ち尽くしている。ノリトもあまりの出来事にショックでいまだ動けないようだ。よし、ここは勇者らしくカッコよく決めよう。
「みんな!このまま戦ってもドラゴンには勝てない!僕が時間を稼ぐからみんなは王国まで帰って救援を!」
「サトル君!そんな無茶な!」
「そうだよ、サトル君!いくら君が力持ちでもドラゴンの相手は無理だ!」
当たり前だがノリト達は反対する。ここで時間を稼ぐなんて自殺行為だからだ。だがモノルは違った。
「いや、それが最善策だろう」
「モノル君!?」
「考えても見ろ、相手は国を滅ぼせるかもしれないドラゴンだ。この情報を一刻も早く持ち帰らなければ王国が危ない。そしてこの中で、サトルが時間を一番稼げる」
「それはそうだけど!でも!」
「コルモちゃん、ここは苦しいけど王国に戻るしかないよ。本人もそれを望んでいるんだ」
ノリトは苦々しい顔をしながらコルモに告げる。コルモは頭では分かっていても納得できていないようだ。
「…なら私も残るよ。私が一緒に行くとノリト君達が全力で走れないでしょ。それに二人の方が時間を稼げるよね?」
「コルモちゃん!自分が言ってる意味が分かってるのかい!」
「…彼女の言ってることも正しい。彼女がそう決めたなら残していこう」
「っ!」
ノリトはコルモのことが好きなのかもしれない。見捨てたくないという私情と理性がせめぎ合っている状態だ。
「ノリト!あのドラゴンがいつまで待ってくれるか分からないんだ!早くいくぞ!」
「くっ!…サトル君、コルモちゃん。君たちの英雄のことは忘れないよ…」
そう言い残し、ノリトとモノルは王国に向けて走り出した。
「ほほう、人間とは興味深い生き物だな。自己犠牲というやつか。ドラゴンのわれには関係のない話だがな」
ドラゴンが一部始終を見てそんな感想を漏らす。そんなドラゴンを無視し、サトルはコルモに話しかける。
「コルモちゃん、本当に残ってよかったの?」
「はい。私はもう誰も失いたくないんです。失うくらいなら私も一緒に…」
「そっか、でも大丈夫。ドラゴンだって僕がやっつけてやるよ!」
柄にもなくカッコつけているサトル。だがその言葉を聞いたドラゴンは怒りをあらわにする。
「人間という脆弱な種族のくせに生意気な口を叩きよって!骨の髄までドラゴンの力を教えてやろう!」
咆哮を上げるドラゴン。咆哮の終わりと同時に普通の人間であれば絶望的な戦いが火蓋を切るのであった。
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