とりっく・あんど・とりーと?
番外編と言いますか、なんと言いますか。
ほんの少し、ええ、本当に、ほんのすこーしだけBL風味な感じです。
ちょっとしたそういうのでも一切受け付けません、と言う方は、すみません、この話はスルーしてください。
全然平気、むしろウェルカム、と言う方には、だいぶ物足りないと思われます。
つまりその、なんや……
中途半端やなぁ!
そんな感じで、お読みください。
「ただい……失礼しました。」
バイトから帰ってきた勇者は、一旦開けたドアを閉めかけた。
「せっかく帰ってきたのに、ソッコー逃げるとは何ごとッスか。」
「ドアを開けた先に、カボチャ頭の浮かれたヤツがいたから、帰るトコ間違ったかと。」
ドアを後ろ手で閉め、改めてただいまと律儀に言う勇者。
「カボチャ頭まではいいとして、浮かれたヤツとは失礼ッスね。今日が何の日か知らないんスか?」
外したカボチャのかぶり物を小脇に抱え、魔王が詰め寄る。
「ハロウィンだろ?」
「知ってるのにその反応ッスか? ハロウィンは浮かれるものと相場が決まってるッス。このカボチャ頭を作るのに、オレ様がどれだけ苦労したわかるッスか? 種から丹精込めて育てたカボチャなんスよ。」
「知らねぇし、種から栽培って、ヒマだなぁ、おいっ!」
「イッコマエさんの畑の一画を借りて、完璧な農業指導の下、育てられた逸品ッス。」
「何でもやるなぁ、あのヒト……」
感心を通り越し、尊敬すら覚える。
「でも、ハロウィン知ってるなら話は早いッス。トリック・オア・トリート?」
「苦労して作ったカボチャはかぶらねぇのかよ。」
「意外と重いからもういいッス。で、どっちッスか? トリック・オア・トリート?」
「急に言われても、なんも持ってねぇよ。」
「じゃあ、イタズラ決定ーっ!」
スッと勇者に近付く魔王
「!?」
唇に触れる柔らかな感触
「ハッピーハロウィン♪」
ゾクッとするほど妖艶な笑みでイタズラっぽく言って、魔王は離れた。
「な……」
(なんだ? 今の……)
自分の身に何が起きたのか、にわかに理解できず、途惑う勇者。
唇に残る感覚に、顔がカァっと熱くなり、鼓動が早くなる。
(お、落ち着け。相手は魔王、魔族だ。もしかしたら魔族のハロウィンはこれがフツーなのかも知んねぇし……)
「あ、イッコマエさん。」
猫のエサを手にしたイッコマエが食堂から出てくる。
「見て見て、カボチャ頭ッスよー。」
「上手くできましたね、魔王さん。あ、お帰りでしたか、勇者さん。バイト、お疲れさまでした。」
「あ、おう、ただいま。」
魔王はカボチャを抱えたまま、イッコマエに尋ねる
「イッコマエさん、イッコマエさん、トリック・オア・トリート?」
(! イッコマエさんにも同じコトするようなら、アレは魔族特有のハロウィンってコトだよな?)
ジッと2人の様子をうかがう勇者。
「そうですねぇ。もうすぐ夕食ですから、お菓子はその後でよろしいですか?」
「マジッスか? 楽しみッス! あ、ニャンズにごはんあげてくるッス。」
イッコマエからエサを受け取り、魔王がニャンズルームに消えると同時に、勇者は思わず声を上げる。
「なんの参考にもなりゃしねぇよっ!」
「ど、どうしましたか、勇者さん?」
「な、なんでもねぇ! 着替えてくるっ!」
「あ、はい。いってらっしゃい。」
7階の自室へと足早に向かう勇者を、不思議そうに見送るイッコマエ。
入れ替わるように、魔王がニャンズルームから出てくる。
「あのカボチャ、子ニャンに大人気だったからプレゼントしてきたッス。あれ? 勇者は?」
「着替えに行きましたよ。なぜか少し怒っていらしたような、うろたえていらしたような……」
「ああ、お菓子くれなかったからイタズラしたせいッスかね。」
「なるほど。一体何をしたんです?」
「んー……内緒ッス!」
「?」
魔王が勇者にしたイタズラの真意は、魔王のみぞ知る。