表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

レベル上げ、明日から

 「はぁ……どうやってレベル上げすっかなぁ。」

 勇者の爆弾発言に、イッコマエさんと顔を見合わせる。

 「おお、勇者よ。基本中の基本、チュートリアルすら必要ないレベルの上げ方に疑問を抱くとは何事ッスか!」

 「ここに移転して1週間、掃除ばかりしていたから、そのせいで忘れてしまったのでは……」

 「モンスター倒して経験値稼いでレベル上げ、ってのはわかってるっての! それ以外の方法ってねぇのかな、って思ってさ。」

 「おお、勇者よ。ラクしてレベル上げしようとは情けないッス!」

 「そ・う・じゃ・ね・ぇ・よ!」

 頭のてっぺんから鷲づかみにされた。

 「なんつーか、レベル上げだの、カネ稼ぎだののために倒されるモンスターが、気の毒な気がしてさ。前々から思ってたんだけど、世界を明るく豊かにして征服~、なんて言ってる魔王見てたら、なおさら戦いにくく思えてきて。」

 「勇者さん……」

 「だから、レベル上げるのに他の方法があれば、って思っ……」

 「ないッス。」

 「即答!?」

 勇者は別の意見を求めるように、イッコマエさんのほうを見たが、イッコマエさんは、首を横に振ってみせた。

 「勇者レベルを上げたいのなら、モンスターと戦うしかないですね。何のレベルでもいいなら色々あると思いますが。」

 「何のレベルでもいいって、どういうこと?」

 「例えば……」

 イッコマエさんの目配せを受け、オレ様は、部屋の隅からゴミ箱を持って来て、勇者の前でひっくり返した。

 「ちょっ、何やってんだよ!」

 勇者はすぐさまほうきとちりとりを持って来て、実に手早くゴミを回収した。


テレレッレッレー

 

 「ん? 何の音だ?」


掃除屋レベルが上がった!

すばやさが1上がった!

城の清潔感が2上がった!

魔王城らしさは5下がった!


名前:残念

職業:掃除屋 レベル13



 「レベルアップの様子を可視化してみました。このように、掃除や片付けをすれば、掃除屋レベルを上げることはできます。」

 「待て待て待て、勝手に掃除屋に転職させんなっ! いつの間にかレベル上がってるしっ!」


テレレッレッレー


ツッコミ師レベルが上がった!

滑舌が2上がった!

スキル『エセ関西弁』を覚えた!


名前:残念

職業:ツッコミ師 レベル8

 

 「おっ、スキル修得したッス。」

 「職業:ツッコミ師って、なんやねんっ!」

 「早速使いこなしてますよ。」

 「残念……恐ろしい子っ!」

 「だから、俺の名前は『残念』じゃねぇ! もうええわっ!」

 「ども、ありがとうございました~……さて、マジレスするとッスねぇ……」

 「急に素に戻るなよ……」

 なぜかガクッと膝を折った勇者。

もうええわっ、って言われたからネタ終了させたのに、素に戻るなとか、なかなか扱いが難しいッスね。

 「自分がモンスターにやられた時を思い出してみるッス。HP 0、バッタリ倒れる、気が付くと教会。」

 「ああ、そうだな。」

 「モンスターもそれと同じッス。冒険者達に倒される。HP 0、魔教会に転送されて、復活。HP 0は、瀕死であって、完全に死んじゃってるワケじゃないってことッスね、人間もモンスターも。」

 「それで時々、『モンスターが起き上がって仲間になりたそうに』ってことが起こるのか。」

 「そういうことッス。しかも、世知辛い人間界の教会と違って、無料で復活させてもらえるッス。」

 「うわぁ、いいな、それ。」

 「冒険者達と戦うのがモンスター達のお仕事ッスから、気にする必要ないッス。」

 「……ちょっとこれ読んでみ?」

 「『自宅周辺の弱いモンスター虐殺しまくって強くなった勇者』誰ッスか、こんなこと言ってるのは。」

 「お前だよ、お前! 超初期の段階でお前が言ったんだよ! この虐殺発言で、ちょっとモンスターと戦うの気が引けたんだぞ!」

 「発言を撤回してお詫びするッス。」

 「撤回しても、発言した事実は消えねぇんだからな!」

 「撤回しなきゃしないで怒るくせに……人間って面倒ッスね。」

 「ええ。ですから、失言防止の6つの「た」を意識して発言しましょうね、魔王さん。」


テレレッレッレー


魔王の政治家レベルが上がった!

中ボスの秘書レベルが上がった!


 「いよいよワケわからん話になるから、やめろ。」

 「了解ッス。冒険者達と戦って倒されるのがモンスターのお仕事だから、遠慮はいらない、ってコトで納得ッスか?」

 「あ、うん。もう1ついいか? モンスター倒すと、カネ落とすだろ? あれ、なんか喝上げで奪い取ったみたいな感じでスッキリしないんだけど。」

 「あれは、ちゃんと戦ってきました、って証なんス。以前、冒険者達と戦ってもいないのに、『ボコられて(働いて)きましたー。お給料くださーい。』ってウソつく、悪いモンスターがいたんスよ。」

 「……モンスターにいいとか悪いとか。」

 「その不正防止のために、HPが0になったら、おカネが落ちるシステムになってて、戦ってきたのがわかるようにしたんス。」

 「落とすの、カネじゃなくてもよくね? 戦った証拠になればいいんだろ? 石ころとか小枝とか。なんでわざわざ冒険者達に有利になるようなものを?」

 「……勇者さんは、どっちサイドのヒトなんですか。」

 「……うん、自分でもちょっとわからなくなってきた。」

 「魔界では最も価値のないモノなんスよ、あれ。それが、人間界では貨幣として使われててビックリしたッス。だから、心おきなく拾ってOKッス。」

 「なんか信じらんねぇ話だけど、そういうことだったのか。解説、ありがとな。」

 「どういたしましてッス。ところで……」

 イッコマエさんと一緒に勇者に詰め寄る。

 「なんで今さらレベル上げッスか?」

 「えっ? なんでって、俺、勇者だし。」

 「レベルアップして、いずれは魔王さんと戦うつもりだということですか?」

 「ん? まあそんな日もくるかもな。一応、そのために着いてきたワケだし。」

 「……そのために、着いてきた……?」

 「魔王さん、これは……」

 ジリジリと勇者から遠ざかる。

 「有望な勇者が来なかったら、また例の小芝居するんだろ? そん時に……あれ? なんで2人ともそんな遠巻きに……」

 「あ、もしもし、チカクノ警察ッスか? ウチに勇者を騙る不法侵入者がいるッス!」

 「えっ、何? 何言ってんだ?」

 「うまいコト言って住み着いて、実はオレ様を狙っていたんス! 捕まえにきてくださいッス!」

 「ちょっ、なに勘違いしてんだよ! 電話貸せっ!」

 取られそうになるスマホをイッコマエさんにパス。

 「事態は一刻を争います! 住所は……」

 「イッコマエさんも落ち着いてくれよ! 魔王と戦うったって、本気でじゃねぇっての!」

 イッコマエさんが魔王城の場所を告げる前に、勇者はスマホを奪い取り、通話を終わらせた。

 「外部との連絡手段が絶たれたッス!」

 「すみません、魔王さん! 私が油断したために…っ!」

 「だから、落ち着いて最後まで聞けって! だいたい、警察呼ぶまでもなく、俺なんか余裕で倒せるだろ? お前らなら。」

 「……それもそうッスね。」

 「そうでしたね。すっかり取り乱してしまいました。」

 「冷静になってくれてよかっ……」

 「伝説の剣はおろか、武器を持たぬ勇者なぞ、雑魚同然ッス。」

 「魔王さんの手を煩わせるまでもありません。ここは私が。」

 「冷静のベクトルがちがーうっ! あ、もしもしチカクノ警察さん? 魔王と中ボスに囲まれててヤバいんだけど、えっ? 勇者を騙る不法侵入者の件で手一杯? その勇者は俺のことで、あーっ、ややこしいっ!」

 「勇者さん、覚悟っ!」

 「わーっ、マジ待っ……」


プツッ ツーツーツー……

 「どうした? また不法侵入者の通報か?」

 「いえ、今度は魔王と中ボスがどうこう、って。」

 「イタズラ電話だな。前の不法侵入者通報も今のも。」

 「ですよね。」



 「魔王と勇者のバトルショー用のレベル上げッスかー。それならそうと言ってくれれば……」

 唯一の装備、ボロボロのお鍋のフタでイッコマエさんの攻撃を防御し、HP 1でギリギリ踏みとどまった勇者が、壁にめり込んだまま、こちらを睨んだ。

 「言った。いや、言いかけたところで、通報されるわ、攻撃されるわで今に至りますが、何か?」

 「誠に遺憾であり、今後、このようなことが起こらぬよう努めてまいる所存であるッス。」

 「この度は、大変申し訳ありませんでした。」

 深々と頭を下げ、勇者を壁から救出し、回復魔法を施す。

 「まぁ、誤解されるような言い方した俺も悪いよな。スンマセンでした。」

 ひどい目にあったのに、自分にも非があったと言えるなんて、なかなかできた人間ッスね、このヒト。

 残念なくらいまっすぐでバカ正直な性格。

 裏表なんかないし、ヒトを騙せるような器用さもない。

 裏切りなんてするようなヤツじゃない、ってわかっていたハズだったのに、簡単に疑ってしまった自分が恥ずかしいッス。

 「あー、ホント恥ずかしいわ。」

 「えっ」

 「装備、鍋のフタだけで、とっさだったけど、イッコマエさんにまであんなに見事に吹っ飛ばされるとは。やっぱレベル上げ必要だな。」

 「あ、ああ、そっちの話ッスか。」

 ビックリした。

 心読まれたかと思ったッス。

 「バトルシーンの演技だけなら、レベル上げの必要はないのでは?」

 「演技とはいえ、一瞬で決着つくようじゃつまらないじゃん。何より、カッコわりぃし……」

 あ、そういうの、気にするんスね。

 ちょっと冷やかすように言ってみる。

 「そうッスねー。オレ様も1割程度の力で勝っちゃうようじゃ、さすがに手応えなさ過ぎッスからねー。オレ様の力、半分くらいは引き出せるように、レベル上げに勤しんでくださいッス。」

 「言ってろ言ってろ。100%で戦わざるを得ないくらいまでレベル上げてやるからな!」

 「それは大変ですね。我々も負けないよう、今まで以上に健康に気をつけないと。差し当たって、お昼にしましょうか。」



 「よしっ! じゃあ、ちょっと行ってくる。」

 「ほーい、お気をつけてッス。」

 昼食後、勇者はさっそく出かけて行った。

 「あれ? もう行っちゃいました? 勇者さん。」

 「今さっき出て行ったッス。少し胃を休めてからでもいいッスのにね。」

 「それもそうなんですが、これ……」

 イッコマエさんがオレ様に見せてきたのは、

 「なんッスか? この木の端材。」

 「勇者さんがめり込んで壊れた壁の欠片に混ざって落ちていたんですが、勇者さんのお鍋のフタ『だったもの』ではないかと。」

 「あー、そうみたいッスね。持ち手の面影がかろうじてこの辺に。ここまで壊れたら、盾としても、お鍋のフタとしても使えないッスね。」

 「ですよね。唯一の装備品だったこれもなくなって、勇者さん、完全な丸腰で出かけたのかな、と。」

 「あ。」

 光の速さで出て行ったからよく見ていなかったッスけど……

 「いやいやまさか。鎧とか兜は日常的に身につけているもんじゃないッスから。武器は伝説の剣入手後、全部売ったって言ってたッスけど……ほ、ほら、お鍋のフタも、はじめて買った物だから捨てがたくて持ってるってだけで、別の盾があるんじゃないッスか? オレ様達が知らないだけで、色々持ってると思うッスよ、たぶん……」

 「『普通』の勇者なら、ね。でも『あの』勇者さんですよ?」

 「ある意味、勇者過ぎる勇者ッスからね……」

 しばし沈黙が流れる。

 「魔王城まで単身で乗り込んできたくらいの能力はあるし、ヤバくなったら、戻ってくるッしょ。」

 「そうですよね。HP 0になる前に戻ってきますよね。」

ピンポーン

 「……お客さんッスか?」

 「はい、どちら様ですか?」

 イッコマエさんがインターホン越しに応対する。

 『あ、イッコマエさん? シューバンですー、お世話になってますー。』

 「ああ、シューバンさん。」

 訪問者は、魔王城周辺で冒険者達を待ち受けるモンスター、終盤の強敵こと、シューバンノキョウテキ、通称シューバンさん。

 「どうぞお入り下さい。」

 『あー、すみませんー。ちょっと手が塞がってるんで、申し訳ないんですが、開けてもらっていいですかー?』

 「?」

 イッコマエさんが扉を開ける。

 そこそこ大きい魔王城の玄関口が、シューバンさんの巨躯で塞がれる。

 「あー、どうもありがとうございますー。あー、魔王さん、ご無沙汰してますー。」

 「お久しぶりッス、シューバンさん。なんかあった……ッスね……」

 シューバンさんがその大きな体を屈めた瞬間、全てを理解した。

 ピンチになっても、どうにかして戻って来るとは思っていたけど、まさか……

 「おいこら、勇者、大型モンスターにお姫様抱っこされてご帰還とは何事ッスかーっ!」

 シューバンさんが抱えていたのは、装備品なし、着の身着のまま、HP 0の勇者だった。

 「エンカウントしたから戦ったんですけどー、攻撃態勢に入ってから気付いたんですよー。あれ、このヒト、完全に丸腰だ、って。さすがに丸腰のヒト相手はマズいと思ったんですけどー、止まらないじゃないですかー、攻撃態勢に入っちゃったら-。そんな時に限って会心の一撃出ちゃうし-。」

 「お察しします……」

 「倒しちゃったんですけどー、何か言いたそうに起き上がったから聞いたらー『魔王城に運んでくれ』ってー。」

 「お手数をおかけして申し訳ないッス。あ、そのヒトはその辺に転がしといていいッス。」

 シューバンさんはヨイショと膝をつき、勇者をそっと床に下ろした。

 「ありがとうございます、シューバンさん。これ、お礼と言ってはなんですが、ちょっと作り過ぎたサンドイッチ、よかったら……」

 「いいんですかー? ありがとうございます-。久しぶりだなー、イッコマエさんのごはん-。」

 「オレ様からもあとで改めてお礼するッス。どうも、あざーっしたー。」

 「どういたしまして-。ではこれで、失礼しますー。」

 シューバンさんを見送り、足元の勇者を見下ろす。

 「ったく、もぉ~。」

 サクッと蘇生させ、

 「ほら、起きるッスよ、残念勇者。」

 頬をペチペチ叩く。

 「う……あ、ただいま。」

 「ただいま、じゃないッスよ! なんで散歩に行くような軽装で、レベル上げに向かうんスか!」

 「家の近くだから、それほど強いヤツいないだろうと思って。なのに、なんで終盤に出てくるようなヤツがいたんだ?」

 「家は家でも、オレ様の家の近くだからッスよ。」

 「え? なんで? お前ん家の周辺だけ、あんな強いヤツいるって、不具合かなにか?」

 「……オレ様が誰だか、忘れてないッスか?」

 「……魔王?」

 「そうッス、魔王ッス。魔王の家ってコトは、魔王城。魔王城周辺といえば、物語も終盤。そこに、初期の弱いモンスターが出るほうが不具合ッス。」

 「あ、そっか。家の近くならモンスターも弱いから丸腰でもいけるかなぁと思ったんだよなー。武器も防具もなしで、どうやってモンスターと戦おう?」

 「……武器も防具もなし?」

 「今まで使っていた物はどうしたんですか?」

 「置いて来ちゃったんだよね-、前の魔王城に。バトルショーの後、部屋片付ける時、邪魔だったから装備品一式外して、そのまま。」

 「……久々に来ましたね、勇者さんの残念仕様。」

 「仕方ないッスね。オレ様が装備品一式プレゼントするッス。」



 そうび

  疾風の三角巾

  勇気のエプロン

  邪気のほうき

  オリハルコンのちりとり


 「どうッスか? バッチリッしょ!」

 「完璧なチョイスです、魔王さん!」

 「それっぽいネーミングでごまかされると思うなよっ! 掃除屋装備じゃねぇかっ!」

 「今なら『風の谷のマスク』もお付けするッス。」

 「腐海に行けとっ!?」

 「大丈夫、あつらえたようにピッタリです、勇者さん!」

 「全っ然嬉しくねぇよッ! もうえぇわっ!」


テレレッレッレー

掃除屋レベルが上がった!

ツッコミ師レベルが上がった!

漫才トリオレベルが上がった!


 


 

  




 





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ