部屋の片付け、明日から
ども、オレ様、魔王ッス。
お初のヒトは、以後お見知りおきを。
魔王らしく、夢はドーンと世界征服ッス!
世界をこの手にするために、じゃじゃーんと降臨、魔王城どーん、モンスター大解放でいざ侵略開始~、ってのが5、6年前。
で、オレ様の夢の成就を阻むべく、世界各国から、我こそが勇者!って老若男女が、魔王城目指してかなりたくさん来ていたみたいッス。
各地のモンスターから、逐一、
「勇者Aが隣の村まできてますよー」
「森の中で勇者B一行を撃破しました(`・ω・´)」
「勇者と女魔法使いの痴話げんか!? 自滅パーティー発見!」
って、報告が来るんスけど、城近くの町まで辿り着いたのは、その内の10%くらい、城内まで来られたのは、10%のうちの4%くらい、オレ様の1コ前の中ボスとの対戦でその4%も消え……
オレ様的には勇者の「ゆ」の字も見ていないから、『来ていたみたい』と言う曖昧な表現をせざるを得ないコトをここにお詫びするッス。
世界征服したいなら、勇者が来ないほうが都合がいいだろう、ってご意見を多方面からいただくッスけど、勇者とのバトルなしで手にした世界なんて、種のないスイカみたいなモンだと思わないッスか?
食べるのはラクだけど、なんか物足りなくないッスか?
だから、辛抱強く待ってたんスよ、オレ様のところまで辿り着く勇者が現れるのを。
で、ついに1週間前、勇者登場ッス。
鋼のオノ装備で。
あり得ないッしょ!?
初めてやって来た勇者は、そんな残念なヤツだったんスけど、なんやかんやあって、今、2代目魔王城に居候してるッス。
なんやかんやに関しては、『世界征服、明日から』を参照ッス。
「あ、それは捨てちゃダメッス。」
「これは?」
「当然ダメッスよ。見ればわかるッしょ?」
「わかんねぇから聞いてんだよっ!」
頭にバンダナを巻き、目にゴーグル、口元を白い三角巾で覆った不審人物、彼がくだんの勇者ッス。
居候するにあたり、7階の1室を提供したんスが、ちょーっと物が多いってだけで、汚部屋だといちゃもんをつけ、大騒ぎしてるッス。
「ちょーっと物が多いだけ、だぁ? 片付けても片付けても、部屋の全容が見えてこねぇじゃねぇか! どう見てもゴミだ、ってモンも、捨てるな捨てるなって……」
「ゴミとは失礼ッスね! どれも大切な物ッスよっ!」
「これは?」
「小学生時代に、初めて100点とった答案用紙ッス。」
「……これは?」
「激レア欲しさに買いまくった、どっきりまんチョコのカード。ここにあるのは、激レア以外のカード、500枚くらいッスかねー。」
「…………これは?」
「つい最近、教会のコとはんぶんこして食べたクッキーの空き袋……」
「魔王らしくねぇほのぼのエピソードだなぁ、おいっ!」
「いやぁ、それほどでもないッスよー。」
「ほめてねぇよっ!」
勇者はでっかいため息をつき、落ち着いた口調で言った。
「大切だ、って言うなら、ちゃんと整理しろよ。」
「う……」
「部屋の隅にこんな風に放置してたら、知らないヤツからしたら、ゴミにしか見えねぇんだぜ?」
「…………」
ぐうの音も出ないって、こういうコトなんスね。
「……わかったッス。ちょっと片付けてみるッス。」
「よーし。じゃあ……」
勇者は、いつの間に用意したのか、3つの箱をオレ様の前に置いた。
「『いる物』はこの箱、『いらない物』はこっち、『保留』はいるかいらないか迷う物を入れる。まずはそっからだな。」
「へー。これなら出来そうな気がするッス。やってみるッス!」
「……なんとなく、そうなるかなぁとは思ってたけど……」
18時30分
魔王城は夕食の時間ッス。
配膳を手伝いながら、1コ前の中ボスことイッコマエ・ノ・チューボスに愚痴りだす勇者。
「全部『いる物』もしくは『保留』に分類したんだぜ、コイツ。」
「まあ、片付けようと思っただけでも進歩ですよ。ねえ、魔王さん。」
「さすがイッコマエさん。オレ様のコトわかってるッス。」
「基本、コイツには甘いけど、こと片付けに関しては、輪をかけて甘いよな、イッコマエさん。なんで?」
「私自身が片付け苦手なもので、強く言えないんですよねぇ……」
席につき、手を合わせて、
「いただきまーす。」
慣れないコトをしたおかげで、いつもより空腹で、イッコマエさんのおいしい料理がさらにおいしい。
「勇者さんはお幾つですか?」
「俺? 21だけど。」
「若いですね。若い方にはわからないかも知れませんが、長く生きていると、色々な思い出や思い入れが多くなって、その分、捨て難い物も増えてしまうものなんです。まあ、その度合いは、個人によりますが。」
「……なるほどな。俺も1番最初に買った盾、もう使えないのになんか捨てられなくて、未だに持ってるからな。」
「『お鍋のふた』じゃないッスか。百戦錬磨過ぎる傷みっぷりッスよ。下取り不可ッス。」
「だよな。思い出、思い入れ、か。」
感慨深げにボロボロの鍋のふたを眺める勇者。
「20年そこそこしか生きてない俺にも、そういう物があるんだから、長く生きてりゃ……そういや魔王って幾つ?」
「19ッス。」
「ああ、10万飛んで19才とかってヤツ?」
「んにゃ、ピチピチの19才ッス。」
「年下だったのかよっ!? それであの溜め込み様はヤバいだろ。このままだと、汚部屋どころか、汚屋敷まっしぐらだぞ!」
「大袈裟ッスねー。だいたい、魔王城なんスから、ちょっとくらい汚れててもいいんスよ。ピッカピカできらびやか~だったら、あれ? シンデレラ城?って間違われるかもじゃないッスか。」
「灰かぶりって意味なら、間違っちゃいねぇけどな。」
「シンデレラ城のほうが集客力あるッスかねぇ……」
「……やめておけ。魔王を名乗っていたいならな。」
「あれ? 寝ちゃったッスか?」
食器を片付けて食卓に戻ってみると、勇者が椅子にもたれて寝ていた。
「ほぼⅠ日中、部屋の掃除をしていたから、疲れたんでしょうね。」
持ってきた毛布を勇者にかけながらイッコマエさんが言う。
「魔王さんも頑張りましたね。チラッと覗いてみましたが、ヒトが入れるスペースができていて、驚きました。」
「散らばっていた物をひとまとめにしてみたら、割とスッキリしたッスよね。懐かしい物もいっぱい出てきて、ちょっと楽しかったッス。」
「あ、和製モンスター時計メダル! ありましたねー、そんなのも。」
「オレ様的には、ちゃんとこの部屋に仕舞ってあるじゃん(どこにあるかはわからないケド)って感覚だったんスけど、他人からみたら、ほったらかし? いらない物? ゴミだろ?って状態だったんだなって、今回知ったッス。」
「そうですねー。勇者さんがちゃんと保管してるからゴミ扱いされずにいますが、その辺りに放置されていたら、即ポイですからね、あのお鍋のふた。」
「大切なモンならちゃんと整理しろ、って言われて、返す言葉がなかったッス。誰の目から見ても大切な物なんだ、ってわかる扱い方をしないと、ゴミ扱いされても仕方ないし、ゴミ扱いされたら、その物がかわいそうだ、って。そう思ったら片づけようって思えたッス。」
「だから頑張れたんですね。よかったですね、魔王さん。」
そう言ったイッコマエさんの顔は、なんか嬉しそうだった。
よかったですね、の真意はよくわかんなかったッスけど、イッコマエさんの笑顔を見て、オレ様もなんか嬉しくなった。
「あ、そうだ!」
「どうしました?」
「あのさ……」
勇者を起こさないように、イッコマエさんにソッと耳打ち。
「……いいですね。お手伝いします。」
「……俺が寝ている間にもう少し片付けて、驚かせようとした、と。」
「そうなんス。驚いたッスか?」
「そりゃもう。」
勇者は人差し指と中指でひたいを抑え、
「確保できてたスペースが消え、見えてた床が消え、廊下にまで溢れるガラクタの山を見れば、驚くってのっ!」
一気に怒りを爆発させた。
「驚きッスよねー。片付けようと思って、色々引っ張り出してくると、思い出話で盛り上がっちゃって、楽しくなって、次々と引っ張り出してきたら、いつの間にかこんな状態に……ッスよねー、イッコマエさん。」
「はい、驚きです。片付け前より散らかるとは……」
「……とことん、片付けに向いてねぇのな、2人とも。」
怒りを通り越し、諦めモードの勇者。
「私、そろそろ朝食の支度を。」
「あ、オレ様も手伝うッス!」
「ちょっ……この状態のまま逃げんな、コラーっ!!!」
朝食ができるまでの間に、廊下にあった荷物の山を1人で片付けた勇者。
すごいッス。
これはもう才能ッしょ!
適材適所、餅は餅屋、掃除は勇者ッスね。
「勇者は掃除屋じゃねぇんだよっ!」
2代目魔王城での征服生活は、まだ、始まったばかりっ!ッス。
またなんかあったら、報告するッスね~。