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キラキラ商店のキララさん

作者: 法田波佳





 ぽてぽて、ぽてぽて、足の音。


 キラキラ、キラキラ、金の粉。


 ぱたぱた、ぱたぱた、はたきの音。


 キラキラ、キラキラ、金の音。


 キラキラ商店のキララさん、今日も元気に営業中。




 動物たちがたくさん住む、深い森の奥。そこに、一軒の小さな家がありました。


 チョコレートみたいなレンガを組み合わせてできた家は、屋根はトマトのような赤色。煙突は、ひまわりのような黄色です。


 その家の玄関には、こんな看板がかかっています。


『何でもござれのキラキラ商店』


 そうです、ここは、巷で有名なあの、キララさんの営むお店なのです。



 キララさんは、小さな小さな妖精さんです。大きさは、大人の人間の手のひらぐらい。ポニーテールにした髪は、夏の小麦畑のような金色。目も、陽だまりのような金色。背中に生えた羽も、金貨のような金色です。


 そんな、金色づくしのキララさん。実は、キララさんの体にはもう一つ金色があります。


 それは、キララさんから出てくる粉。不思議なことにキララさんは、動くたびに金色の粉が体から出てくるのです。


 だから、お店の中は金の粉だらけ。あっちへふらり、こっちへふらり。キララさんが動くたび、金の粉が出てきてしまいます。


 そんなキララさん、実はとっても綺麗好き。だから、お店の中もいつもピカピカにしておきたい!


 なので、営業中のキララさんは、いつもはたきを片手に飛び回っています。


 あっちへぱたぱた。


 こっちへぱたぱた。


 そのたび、金の粉がふわりふわりと舞い降ります。

 終わることがない掃除。キララさんの時間のほとんどは、お店の掃除で埋め尽くされています。


 そんなキララさんのお店ですが、品ぞろえは森一!

 パンやケーキなどの食べ物から、ワンピースや靴といった衣料品、お化粧品までさまざまです。

 今日も、キララさんのお店は朝から元気に営業中。はてさて、今日はどんなお客さんが来ることやら・・・・・・。





 カラン、コロン、と扉につけてあるベルが鳴ります。そのあとにつづくのは、はーい!というキララさんの元気な声。


 玄関を見ると、そこにいたのは、一人の妖精さんでした。

 初めて来るお客さんである妖精さんは、大きさはキララさんと同じくらい。けれど、見た目は大きく違っていました。

 キララさんが金色で明るく輝いているのなら、その妖精さんは、灰色でどんより曇っています。

 髪の毛は、艶のないぱさぱさしたネズミ色。目の色も、曇り空のような灰色。着ているワンピースまでもが、暗い紺色でした。


 番台で売り上げをつけていたキララさん。鉛筆を机の上に置くと、そんな妖精さんに、近づいていきます。

 ふわり、ふわり。金の粉が空中に舞います。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


 明るく問いかけるキララさん。けれど、妖精さんはおどおどとあたりを見回すだけで何もしゃべりません。キララさんは困ってしまいました。このお店には何でも置いてあります。だけど、お客さんが何が欲しいかわからないんじゃ、品物を出してきようがありません。


 困ったキララさんは、まずは妖精さんと仲良くなることにしました。ひょっとすると、打ち解けてくれれば、話す気になってくれるかもしれません。


「はじめてですよね?私、キララといいます。ここの店長なんです。あなたのお名前は?」


 妖精さんは、キララさんの声に、びくりと肩を大きく飛び上がらせました。どうやら、声が大きすぎてしまったみたいです。もう一度、今度は気をつけて話しかけてみます。


「なんていうお名前ですか?」


「・・・・・・クララ」


 今度は答えてくれました。

 クララ。その名前を聞いて、キララさんは嬉しくなってしまいました。キララさんと一文字しか違わないではありませんか!しかも、妖精の女の子と会うのはこれが初めてなのです。なんて素敵なことでしょう!


「よろしくね、クララ」


 キララさんは、にっこり笑顔を浮かべて手を差し出します。仲良しの握手です。

 ですが、クララはそんなキララさんからふいっと目をそらしてしまいます。その手も、体の前で固く握られています。まるで、握手を拒むかのように。


「あ、握手嫌いだった?」


 キララさんは、慌てて手を引っ込めます。クララは、キララさんの言葉を聞いて、慌てて首を横に振りました。

 どういうことなのでしょう。嫌いでないなら、握手をしてくれればいいのに。

 そんな気持ちが顔に出ていたのでしょうか。クララは、キララさんの顔を見てバツが悪そうに、また視線を逸らしてしまいました。


「・・・・・・私、汚いから」


 ぽつり。葉っぱについた雨が地面に落ちるみたいに、一言だけ呟かれます。それを聞いてキララさん、違う!と大きな声を出してしまいました。また、びくりと大きく体が跳ねます。


「び、びっくりさせてごめんなさい。でも違うよ!汚くなんかないよ!何でそんなこと言うの?」


 慌ててキララさんは謝ります。そして、不思議に思って問いかけました。

 クララは、困ったように眉間にしわを寄せています。そのピンク色の唇は、色が赤くなるぐらいギュッと噛みしめられていました。


 やがて、ぽつり、ぽつり、とクララが話し始めます。


 クララは、空からやってきた妖精なのだそうです。

 空の妖精は、鳥の落とした羽から生まれてきます。

 空を飛ぶのが何より得意な空の妖精は、不思議な空の色を持って生まれてきます。青空の色、夕焼け空の色、夜空の色、朝焼けの色・・・・・・。空の妖精は、自分の目や髪、羽を自分の好きな時に、好きな空の色に変えられるのです。

 けれど、クララの髪や目、羽は、生まれた時からずっと曇り空の色でした。

 どんよりとした灰色。いつしかクララは、ほかの仲間たちから『汚いクララ』と言われるようになりました。



「・・・・・・ひどいっ」


 話を聞き終わったキララさん。その口からは思わず、そんな言葉が飛び出していました。

 それを聞いてクララは、ありがとうと力なさげに微笑みます。


「それで、お空にいづらくなっちゃって、逃げてたんです。そしたら、この森にやってきていて。お店があったから・・・・・・」


 寂しくて、つい入ってしまっただけなんです。ごめんなさい。

 そう言って、クララは頭を下げます。長いネズミ色の髪が、ぱさりと垂れました。


 キララさんの心は、悔しさでいっぱいでした。クララをどこにも居場所がなくさせた空の妖精たちにも。それから、今クララに謝らせている自分自身にも。


 何か、何か力になれないだろうか。キララさんは必死で考えます。ここは、何でもござれのキラキラ商店です。お客様を、手ぶらで帰らせるなんてこと、あってはならないのです。


「ん~!ん~!んん~!」


 必死で必死で考えて、はた、とある考えが浮かびました。自分でも天才!と思ってしまうぐらいのいい考えに、ついつい笑顔が浮かんでしまいます。


「本当にすみませんでした。私、もう帰りますので・・・・・・」


 そうしている間にも、クララは帰ろうとしています。

 玄関扉のノブに手をかけたクララ。そんな彼女を、キララさんは慌てて止めます。


「待って!」


 ノブにかかったクララの手に、キララさんの手が重なります。その手は、陽だまりのように温かでした。

 びっくりしたクララは、思わずノブから手を離してしまいます。そして、キララさんの手からもがいて逃れようとしました。ですが、ぎゅっと力を込めて、キララさんは離さないようにがんばります。ふわり、ふわり、また金の粉が舞いました。


「待って!私、思いついたの!あなたを元気にする方法!」


「え・・・・・・?」


 必死で逃げようともがいていたクララ。キララさんの言葉を聞いて、その動きをぴたりと止めました。そして、不思議そうにキララさんを見つめます。


「なんでもござれのキラキラ商店にまかせてくださいなっ」


 にっと歯を見せてキララさんは笑います。それは、キララさんお得意の太陽のような笑顔でした。




 キララさんが持ってきたのは、キララさんたちがすっぽり入ってしまうほど大きなドラム缶でした。中には、水が入っています。その下には、火がついた薪もありました。

 これをどうするのだろう。クララは不思議な気持ちで見つめます。

 するとキララさん、クララにこの中に入ってと言いました。


「この中に!」


 びっくりしたクララは、思わず聞き返してしまいます。そんなクララには気にもせず、キララさんは当然といった風に胸を張ります。


「いいからいいから!」


 クララの羽が生えた背中を押して、入るよう促します。

 しばらくはしぶっていたクララでしたが、抵抗するのにも疲れてきて、とうとう水の中に入ってしまいました。


 ざぶん!


 大きな水の音が店内に響きます。熱そうにめらめらと燃える火に対して、水はちょうどいい温かさでした。

 クララをお湯に入れ終えたキララさん。次は、ぱたぱたと羽ばたいて、そのドラム缶の上まで行きます。そして、その上でくるくると回り始めます。


 くるり、くるりら、くるくるり。


 はらり、はらりら、はらはらり。


 キララさんが回るたび、金の粉が降ってきます。下にいるクララからは、まるで金色の雨が降ってきているように見えました。


 くるり、くるりら、くるくるり。


 はらり、はらりら、はらはらり。


 くくるり、くくらら、くくるるり。


 ははらり、ははらら、ははららり。


 何度も何度も回ります。


 そうして何十回も回った後、キララさんは、お湯から出るようにクララに言いました。

 お湯から羽ばたいて出たクララさん。そばにあった鏡を見てびっくりしてしまいました。

 クララさんが着ていた紺色のワンピースに、キララさんの金の粉がたっくさんついていたのです。それは、よく晴れた日の夜の、満天の星空のようでした。

 ワンピースだけではありません。クララのネズミ色の髪にも、曇り空のような羽にも、金の粉はついています。


「すごい!」


 思わず、大きな声が出ました。

 それを聞いたキララさん、得意顔で、えっへんと胸をそらします。


「あの水にはね、何かをくっつきやすくする成分が入ってるの。だから、その粉もしばらくは取れないと思うわ」


 それを聞いてクララはがっかりしてしまいました。もうずっとこのままかと思っていたのです。もし、もうこの金の粉が取れないなら、汚いと言われることもないでしょうに。

 目に見えてがっかりするクララ。そんなクララに、キララさんは微笑みかけます。


「これは、クララの勇気を出しやすくするためのおまじない。でも、おまじないは本当の力じゃないから。あなたの本当の力で、・・・・・・言葉で、空の妖精たちをぎゃふんと言わせちゃいなさい!」


 絶対、わかってくれるから。そう言って、キララさんはまたお得意の太陽のような笑顔を浮かべます。


 クララは、しばらく考え込んでいましたが、やがてキララさんに向かって大きくうなずきました。


「ありがとう!私、ちゃんとみんなと話してみる。ちゃんと、向き合ってみる!」


 今度は、クララも太陽のような笑顔でした。

 キララさんとクララ。お互い、顔を見合わせて嬉しそうに笑います。


 けらけら、ははは。その笑い声は、家を飛び出して、遠くまで聞こえてゆきました。





「キララさん、お代は?」


 お見送りに店の外に出たキララさんに、クララが問いかけます。

 それを聞いたキララさんは、んーとしばらく考え込んだ後、にっこり笑顔を見せました。


「お代は今度!空のみんなと仲直りできたら、またお店に来て!」


 そのときは、何かたっかいもの売りつけちゃうから!

 最後におどけて付け加えたキララさんに、クララは声をたてて笑ってしまいました。


「わかった!今度は、空のみんないっぱい連れてやってくるからね」


 クララは、そう言いながら空へと飛び立っていきます。

 ふわり、ふわりと羽ばたく羽は、真っ直ぐに空へと向かってゆきました。






 


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