蛙の神様
しとしと、雨が降る。少女は一人、膝を抱えて座り込んでいた。
しくしく、しくしく、と。少女の伏せられた顔の下からは、嗚咽が聞こえてくる。
体は雨に打たれ、冷え切っている。
バシャりと、少女の近くから水たまりを踏む足音が聞こえた。
少女は言う。
「あっち、行って……」
すると足音の主は、こう返した。
「何で泣いてるの?」
幼い、女の子の声だった。
少女はそっと顔を上げる。目の前には、緑色の可愛い長靴。
さらに上を向く。今度は、緑のレインコートが目に入った。
さらにさらに、上を向く。そこには、水色の髪をした可愛らしい女の子の顔があった。
そのレインコートの女の子は、手に持っていた緑の傘をくるくる回すと、にこぱっと微笑んだ。
「どうして、君は泣いているの?」
「……あなたは、誰?」
少女は問う。
「あたしは蛙の神様だよ♪」
「か、わず?」
「そ、カエルの神様♪」
少女は、からかわれていると思った。
だから、少女は言った。
「あっち、行って……!」
「ケロ? あたしは、君が泣き止むまでは動かないよ♪」
少女は無視することにした。
顔を膝にうずめて、外界との接触を断つ。
すると、少女に降り注ぐ雨が止んだ。
見上げると、先ほどの神様が少女に傘をかざして立っている。
「ケロ♪」
「余計なこと、しないで……」
少女は再び殻に閉じこもった。
しかし、どれだけ経とうとも、この迷惑な神様は一向に立ち去ろうとしない。
挙げ句の果てには、カエルの歌を隣で歌いだす始末。
少女はしばらくその歌を聴いていたが、なんとこの神様、ところどころ音程を外しまくっている。
少女は、必死に指摘したい衝動と戦いながら、神様の歌声を聴き続ける。
すると、どうしたことだろう。気付けば、少女の口からも歌声が漏れ始めた。
己の意思に反して歌う口に、少女は目を白黒させる。
だが、なぜだろう。だんだん少女は楽しくなってきた。
「ケロ♪」
歌う。神様と一緒に。
少女は歌った。歌って、歌って、歌った。
ふと気づくと、自分一人の歌声しか聞こえなくなっていた。
少女は慌てて隣を見る。
そこに、神様はいなかった。
少女は悲しくなった。
これで、また一人ぼっちだ。
すると、少女の視界に、きらりと一筋の光が差した。
見上げる。
空の隙間からは陽の光が漏れ、少女を明るく照らし出していた。
『ケロ♪』
少女は振り返る。
そこには、一匹のカエルが居た。
カエルは、体に水滴を光らせながら、ケロケロと鳴いた。
するとどうだろう、まるで輪唱をするように、次々とカエルの鳴き声が。
『ケロケロ♪』
少女は、目を細めて、再び空を見上げた。
少女の口が、笑みを形作る。
少女は、虹のかかる空の下を、カエルの歌を歌いながら、スキップで帰っていった。
神様は見送る。さよならの輪唱が、あの少女に届くように。
「ケロ♪」




