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蛙の神様

作者: 竜馬
掲載日:2016/01/29

 しとしと、雨が降る。少女は一人、膝を抱えて座り込んでいた。

 しくしく、しくしく、と。少女の伏せられた顔の下からは、嗚咽が聞こえてくる。

 体は雨に打たれ、冷え切っている。


 バシャりと、少女の近くから水たまりを踏む足音が聞こえた。

 少女は言う。


「あっち、行って……」


 すると足音の主は、こう返した。


「何で泣いてるの?」


 幼い、女の子の声だった。

 少女はそっと顔を上げる。目の前には、緑色の可愛い長靴。

 さらに上を向く。今度は、緑のレインコートが目に入った。

 さらにさらに、上を向く。そこには、水色の髪をした可愛らしい女の子の顔があった。


 そのレインコートの女の子は、手に持っていた緑の傘をくるくる回すと、にこぱっと微笑んだ。


「どうして、君は泣いているの?」


「……あなたは、誰?」


 少女は問う。


「あたしはかわずの神様だよ♪」


「か、わず?」


「そ、カエルの神様♪」


 少女は、からかわれていると思った。

 だから、少女は言った。


「あっち、行って……!」


「ケロ? あたしは、君が泣き止むまでは動かないよ♪」


 少女は無視することにした。

 顔を膝にうずめて、外界との接触を断つ。


 すると、少女に降り注ぐ雨が止んだ。

 見上げると、先ほどの神様が少女に傘をかざして立っている。


「ケロ♪」


「余計なこと、しないで……」


 少女は再び殻に閉じこもった。

 しかし、どれだけ経とうとも、この迷惑な神様は一向に立ち去ろうとしない。

 挙げ句の果てには、カエルの歌を隣で歌いだす始末。


 少女はしばらくその歌を聴いていたが、なんとこの神様、ところどころ音程を外しまくっている。


 少女は、必死に指摘したい衝動と戦いながら、神様の歌声を聴き続ける。

 すると、どうしたことだろう。気付けば、少女の口からも歌声が漏れ始めた。


 己の意思に反して歌う口に、少女は目を白黒させる。

 だが、なぜだろう。だんだん少女は楽しくなってきた。


「ケロ♪」


 歌う。神様と一緒に。

 少女は歌った。歌って、歌って、歌った。


 ふと気づくと、自分一人の歌声しか聞こえなくなっていた。

 少女は慌てて隣を見る。

 そこに、神様はいなかった。


 少女は悲しくなった。

 これで、また一人ぼっちだ。


 すると、少女の視界に、きらりと一筋の光が差した。

 見上げる。


 空の隙間からは陽の光が漏れ、少女を明るく照らし出していた。


『ケロ♪』


 少女は振り返る。

 そこには、一匹のカエルが居た。


 カエルは、体に水滴を光らせながら、ケロケロと鳴いた。

 するとどうだろう、まるで輪唱をするように、次々とカエルの鳴き声が。


『ケロケロ♪』


 少女は、目を細めて、再び空を見上げた。

 少女の口が、笑みを形作る。


 少女は、虹のかかる空の下を、カエルの歌を歌いながら、スキップで帰っていった。


 神様は見送る。さよならの輪唱が、あの少女に届くように。


「ケロ♪」


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