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女の子に、告白されました。

作者: 梶谷研

初めて恋愛ものを書いてみました。お見苦しいところがあると思いますが、よろしければご覧いただけると幸いです。

 「好きです付き合ってください」


 それが俺の人生のなかで初めて女子に告白された日だった。

 彼女とは同じクラスで、時々SNSで会話をするぐらいの仲だった。すれ違ったときに挨拶を交わし、偶然タイミングが良かったら少し話すぐぐらいの、ごく平凡な友達だと思っている。


 その子に、突然、しかも誰もいない道路で。


 最初、教室で「今日一緒に帰ろうよ」と言われたときから少し疑問は感じていた。いつもなら彼女は数人の友達と一緒に帰っている。その友達が今日休んでいたわけでもないのに、なぜ自分と帰ろうなんて思ったのだろうか、と。

 告白は自分の空耳、単なる聞き間違いだと思ったのだが、俺に対する彼女の真剣そうな視線と頬を赤らめた表情からするとそれは違うと確信させられた。

 いつからだろうか。彼女がそんな風に俺を見ていたのだろう。


 告白されるなんて初めてのことで、何と返したらよいのかわからない。彼女のほうが恥ずかしいはずなのに、なぜか自分まで恥ずかしくなってきた。俺の顔は今、彼女にどのように写っているのだろうか。――顔真っ赤っかだと、恥ずかしいな。

 確かに、俺だって彼女のことが好きだ。だが、それは友達ということであって、別にそんな、付き合いたいとは思ってもいなかった。


 ――ただ、気にはなっていた。何となく、「今なにしてるんだろーなー」だったり、「今日は授業中よく寝てたなぁ~」なんてことを、ぼーっとしているときに考えていたりした。でも、それは「好き」ということなのかな。それが分からない自分はお子様なのかもしれない。


 何と答えたらいいのか。冷たい風がブレザーの隙間に入り込んできた。沈黙が身体を冷やす。手袋もはめていない手先は赤くなり、冷たすぎて感覚がない。鼻にはツーンと痛みを感じる。だが、顔はとても熱い。それは彼女も同じだろうか。


「返事はいつでも待ってるから」


「え、ちょっと……」


 そう言うとくるりと振り返り、走り去っていってしまった。

 突然逃げるように走り去っていったので驚き、追いかけようとしたが寒すぎて身体が動かない。手を伸ばしたにしても届かなかった。声も上げることできず、彼女はすこし先の交差点で折れ、姿が見えなくなてしまった。

 走り去っていくその背中を俺はずっと見ていた。――なぜだろう、少し心配になった。怒っているのだろうか、それとも泣いているのだろうか。頭の中で先程の強い視線の顔が浮かぶ。




 とある日、雪が降った。

 商店街や家の近くのケーキ屋さんには人が入り浸り、常に箱をもって出てくる人々がみられる。この季節も何度目だろう。去年も見たこの光景が、懐かしく感じられる。


 用事を済ませて家に帰って来た。入ると温かい空気が身体を包む――かと思ったが、暖房も照明はついておらず、人の気配がない。机の上に書置きがある。どうやら家族は出かけに行ったみたいだ。手荷物を机の上に置き、ソファーに座る。自然と机の上にあったテレビのリモコンに手が伸びた。電源ボタンを画面に向けて押す。映ったのはニュースだった。堅苦しい政治の話はしておらず、去年に引き続き今年も同じ日に大雪になったということが話題にされている。確かに、去年の今も雪が降っていた。着ていたコートを脱ぐ。そしたら肩の上に乗っていた雪がぽとりと、床に落ちた。するとジュワッと水滴に変わり、ただの水に変わってしまう。それを眺めていると、ふと携帯電話がぶるぶると振動しだした。脱いだコートのポケットから抜き出し、確認する。姉からだった。俺がどこにいるかという質問と、母と一緒に買い物しているが、何か要るものはないかという内容のメールである。手慣れた指さばきで返事を返すと、画面をもとの状態に戻す。するとそこに、数字の1を示した一つの赤い通知がメールのアプリケーションの右上に表示されている。それを開く。差出人は彼女だった。


 告白されてから三日。まだ答えは出せていない。自分なりに必死に考えてはいるのだが、どうも自分の心のなかが分からなくなっているのだ。このことを友達に相談するのもいいと思ったのだが、もてはやされて自分のちゃんとした気持ちが余計にわからなくなったりするのは嫌だと思ったのだ。かといって答えは出ていないのだが。


 その後もメールでのやり取りは続けていた。告白された当日にはその場で答えを出せなかったことを謝ると、返事も数分後には届いた。どうやら怒ってはいないようで、ゆっくり気持ちの整理ができてから、また返事を下さい、という、優しい彼女らしいというか、いたってこれまでと変わらない文面で少し安心していた自分がいた。次の日の学校ではすれ違っても挨拶を交わすことができなかった。なんというか、気まずい感じになってしまう。でも、俺はそれが少し嫌だった。


 そんな日が過ぎていく。彼女は昨日までしか見ていない。今日は休日、学校がなかったのだ。いつも通り、彼女が今何をしているのかが気になった。だが、これまでとは違うことも考えていた自分がいることに気付く。あの子は俺のことが好きなのか、俺は――、と、今まで考えたこともないことが頭の中をよぎるのだ。そして、あの日以来彼女の顔を忘れられなくなっている。授業中には常に彼女が気になって仕方がない。


 なぜだか緊張しながら彼女のメールを開く。中身をみるとそれはこれまでと変わらない、普通の会話だけだった。なぜかそれを確認すると、大きなため息が出ていた。

 ソファーにごろんと寝転がる。そろそろ自分の答えを出さなきゃ、と少し焦っている俺もいるのは分かっていた。このまま答えを出さずにうやむやにはできない。だけど、本当に彼女が好きなのかがまだわからないのだ。この、胸をぎゅっと締め付けられるように苦しいのはなぜだろう、体調は悪くないのだが。


 これだけ悩んだのはいつぶりだろうか。いや、まずこの十数年の間にこれだけ悩んだことがあっただろうか。

 好きというのはつまり何なのだろうか。片手に持っている携帯のインターネットアプリに「好き 意味」と打ち込み、検索する。画面には誰でも知っているような意味や英訳が並んでいた。自分が探し求めている答えはない。そう気付くと、俺は携帯の電源を落とした。ソファーの上に転がっていたクッションに顔をぐりぐりと押し付ける。目の前は真っ暗で、テレビの音が耳で聴きとれるだけの空間となった。


 自分は、本当に彼女が好きなのか。


 分からない。


 でも頭の中は彼女ばかりで覆い尽くされている。


 これが、「好き」ってことなのかな?


 思いふけっていると、玄関の方でインターホンが鳴った。姉も両親も買い物しているとなると、宅配便の人か、と思い、カウンターから印鑑を取り出して玄関に小走りした。だが目の前にいたのは姉だった。


「あれ姉ちゃん買い物は?」


「終わったけど、なんか二人でどっか行ってくるって言って荷物預けられたぁ~」


 両手にスーパーの袋や洋服の入った紙袋を玄関内にどさりと置くと、とてもだるそうな顔をして言った。


「そうなんだ」


「まったく、あの二人ほんと、何年経っても仲いいわよねぇ~」


「そうだね、寒いでしょ? 早く入って」


 玄関を閉め、荷物をキッチンに運び込む。食材や缶詰などを仕分け、適当な場所へと直していると、姉がリビングから話しかけてきた。


「お前、彼女いるの?」


 思わず吹き出しそうになったが、それは抑えた。なんというか、タイミングが良いのか悪いのか。


「…いないよ?」


「嘘だな」


「いやほんといないって」


 なぜ突然そんなことを訊くのだろうか。

 確か姉にはボーイフレンドがいない。いや、いた、と言ったほうが正しいのだろう。振られたらしいが、その時部屋で大泣きしていたことを言うと怒られるので何も言わないようにしている。


「お前は鈍感なところがあるからね~」


「鈍感じゃねえし」


 確信はないが、そうであってほしい。

 俺は買ってきた物の整理をするとリビングに行き、姉の視界に入る椅子に座る。


「じゃあさ、好きな人いるの?」


「いやそれは……」


「いるのか?」


「いや、よくわからない」


「は?」


 なぜだか、姉には相談してもいい気がした。だから、俺の口から彼女のことを言った。告白されたことも言った。その様子をみて姉はにやにやと、面白そうに聞いている。


「なぁんだ~。好きな人いんじゃん」


「だから俺は本当にあいつのことが」


「でも、ずっと気になるんでしょ?」


 遮るように言われた。ずかずかと何でも物申す姉だからこんなのはいつものことだ。


「まあそうだけどさ…、何ていうんだろ、大好き! ってわけでもないんだ。ただの友達ではないというか、でも気になるというか」


「それじゃあ好きってことなんじゃね?」


 ぽけっとした表情で姉が言った。軽々しい感じで言われたのでそこまで信じてはいない。


「うーん、どうなんだろうな」


「それさ、絶対お前その子のことすきだよ」


「…あいつじゃなくて?」


「お前だよ。その子はあんたに告ったんだから好きに決まってるじゃない」


 話は続く。


「それにさ、好きじゃない人のことを毎日考えている人なんてあんまりいないよ。その子のこと、あんたは純粋にどうみてるの?」


「ふつーに、友達だけど」


「なら、他の女子の友達が今何してるか、考えたりするのか?」


「……いや」


「なら好きなんだろ」


 そんな単純なことで決められてたまるか、と思ったが、でも姉の言っていることはおかしくない。普通に彼女を友達だとしてみているのなら、いつも何しているのかを考えたり、こうやって悩んだりはしないと思う。

 だが、俺の表情は未だ曇ったままだ。それを察した姉がさらに尋ねてくる。


「まだ他に何か引っかかることでもあんのか?」


「…なんて言うんだろうね、初めて告られたからわからないんだけど、もし付き合ったらその後のあいつの対応とか態度とか、変わっちゃうのかな」


 なんて小さく、些細なことなんだろう、と自分でも思う。だけど、今の彼女じゃなくなってしまったら、俺は「好き」ではなくなる。


 その質問に対して、姉は大きなため息をついて答えた。


「あんたさぁ……、そういうのはその二人がどう付き合っていくかによって変わるんじゃないの。あんたがそんな考えしてちゃ、そりゃその子も変わっちゃうだろーね。だけど、今のままがいいのなら愛してやるってもんじゃないの。そうすれば自然といい方向へ向かうと私は思うけど。てか、そんな可愛くて優しい子あんたにゃあもったいねえか」


 最後の言葉にすこしムッとした。別に自分に満点をつけるほど自信はない。顔も性格も平均的だと思っている。それくらいはあると信じて生きているから。


 でも、姉の言う通りだ。


 自分の接し方によって人の対応も変わる。なら自分が変えなければいいのだ。だけど、それができるだろうか。付き合うということは、男としてあの子を幸せにしてあげないといけない。だけど――。


「何か、深く考えすぎじゃねえの?」


「え?」


「単純に訊く。だからあんたはイエスかノーで答えなさい。あんたは彼女が好きなのか?」


「…イエス」


「告白されたことはなかったこととして、もし付き合えるのならあんたは付き合いたいですか?」


「ちょっとまって、」


「イエスかノー」


「……イエス」


「ほら、答え出たじゃん」


「そんな単純に決められないよ」


「でも、その子を好きって思ったら好きなんだよ。好きじゃなかったらあんたはさっきノーって答えてたはずよ。だけどイエスだった。好きだというのに理由ばっかつけてても意味ないでしょうが」


「…………、」


「好き」ということに理由をつけてばかりでは意味がない――。


「付き合ってから知ることもいっぱいあるのよ」


 経験の多い姉なら、どんなことを知っているのか。


「…そうなんだ」


 彼女はどうだろう。何か自分の知らない趣味や好きなものがあるのだろうか。誰もが知らない彼女のこと――。


 ――ああ、そういうことか。


 こうやって、頭の中に自然と彼女が浮かぶ。何をしているのか気になる。


 それは、もう俺は彼女のことが「好き」だということではないか。


 なぜかなんてわからない。それに今言われたではないか、「好き」に理由を付ける必要はないと。なら、俺にはなにもないのかもしれない。何となく、という言い方もおかしくはないだろう。


「……何となく、自分の気持ちがわかった気がするよ」


「で、結局、好きなのか?」


「好きだ」


「よくできた」


 謎に褒められ、少し照れる。はっきり言った自分の声が心の中で繰り返されると、言っちまったと言いそうになった。


「それでそれで、いつ返事返すの」


「え…、どうしよかな。とりあえず返事を返してから考えてみようかな……」


「ああん、もう三日も待たせてるんでしょ? 遅いわよ。その子がかわいそう」


 そう言って姉は俺の携帯電話を取り上げ、スパスパと文字を打ち込んだかと思うとすぐにそうしてしまった。

 何を送ったのかを見ると、そこには「返事返します。駅前で待ってます」という文章が表示されている。


「お、おい! なんてことを……!」


「チキンになりたくなかったら行ってきなさい! 文章だけで済ましていいと思ってんの!」


 脱いでいたコートを投げつけられ、玄関へと誘導される。


「ちょっ、ちょっと待って心の準備が…」


「そんなの歩きながら準備しろ!」


 外に押し出された。凍えるような風が身体を冷やす。バタンと音を立てて閉められた扉からは鍵を閉める音が聞こえた。


「くっそ…、なんて勝手な…」


 携帯の画面をもう一度見る。すると丁度「わかりました。すぐ行きます」という返事が返ってきていた。もう後戻りはできない。


 でも、ありがとう。


 まさか相談してこんなことになるとは思ってもいなかったが、どうやら俺は自身の本心を彼女に言えそうだ。

 投げつけられたコートを羽織り、すぐさま駅に向かう。彼女のほうが家から近いので俺は遅れての到着になるだろう。できるだけ早くいかなければ。そう思うと足が前に出た。


 雪の中、俺は歩道であろう場所を雪に足を取られながら走っている。段々と駅に近づくにつれ、緊張しているのが分かる。でも、表情は笑顔だ。走り続ける。白い息が目の前に吐かれるが、それが消える前に走り抜けていく。息切れをしても、走り続けた。待っていてくれ。

 ようやくの思いで駅前にたどり着いた。一旦呼吸を整えようと膝に手をつき、呼吸を繰り返す。数秒間休憩すると、顔をばっと上げた。すると、目の前に彼女がいた。


「おあっ!」


 驚いて思わず声を上げてしまう。彼女も同じように声を上げていた。彼女と目が合う。私服の彼女を見るのは初めてだろうか。思わず息をのんだ。似合う洋服によって可愛らしさが余計に表現されている。


「こ、こんばんわ」


「あ、はい……」


 気まずい。彼女は弱く息を吐くように声を出したが、俺には何と言ったのかがよくわからなかった。


「っ……」


 彼女も俺を見る。――言わなければ。だがそう心は決心しているのになぜか声が出ない。

 周りには人がわんさかいる。時間帯も関係あるが、今日は一段と多い気がする。その人の流れる壁の隅っこで二人は何も話さず、仁王立ちしていた。

 自分の気持ちを言わなきゃ――、この寒い中、せっかく出てきてくれた彼女に申し訳ない。もしかしたら用事があったのかもしれないのに、何も言わずに帰ってもらうなんて言うのは可哀想だ。こんな時期に家から彼女を抜き出した俺が最悪の人間になる。

 でも、決心したはずなのに。


 ――恥ずかしい。


 彼女のほうがもっと恥ずかしかったであろうに、自分は何をそんなに縮こまっているのだろうか。そんなことを考えていると――。


「ちょっと、歩こうよ。寒いし、ここら辺は人通り多いからさ」


 彼女なりの、気配りというかやさしさなのだろう。俺はこくりと頷き、その場を動く。

 彼女の横に並んで、何も話さずに歩き出した。すると俺は誰かもわからない酔っぱらったおじさんの肩にぶつかった。突然のことで身体が横に倒れそうになるが、足で耐えた。彼女の身体にはぶつからずに済んだが、おかげで手に触れてしまった。「あ~ごめんごめん、けがない? まったく、社長は飲み過ぎなんですよ…」と、若い男性が心配をしてくれたのか声をかけてくれた。「大丈夫ですよ」と俺は返すと、「ごめんね。デート中に」と、彼女に目を当てて、男は足早に去っていった。


「大丈夫?」


 と彼女も声をかけてくれる。ちょっとぶつかっただけなので全く痛みはないし、問題ない。先程の言葉は気にしていないようだった。「大丈夫だよ」と答えると、また歩き出した。


 彼女の手は、冷たかった。


 詳しく言うと手の甲に当たった。いつもなら手袋をつけているはずなのだが、今日はつけていないようで、もしかしたら急いで家を出てきてくれたのかもしれない。首は曲げずに視線だけで彼女の手を見た。細くてはりのある肌色の彼女の手だ。だが自分よりは冷たく、氷のように冷えている。


「どうしたの?」


 自分の手を見られていることに気付いたのか、彼女が言った。それに俺はいつの間にか、首をよじって眺めていたらしい。


「何でもない」


 すぐさま進行方向に首をひねり、視線を下に向けた。「そう」と彼女は短く答える。

 いつ言えばいいのだろう。というか自分はこの気持ちを素直に言えるだろうか。

 すぐそこにいるのに、何も伝えられていないじゃないか。

 こうなるのなら、まだメールで返した方がましだった、と考えてしまうが、いや、それじゃあダメなんだ、と心の中で葛藤が生じる。心の中は大会議だ。

 すると、ふと彼女が止まり、呟いた。


「ねえ」


 それをはっきり聞き取った俺は彼女の数歩先で止まり、「なに?」と振り返る。


「きれいね」


 何が、と言おうとしたが、その意味はすぐにわかった。イルミネーションだ。この時期は光り輝くものに特に綺麗に感じる。

 いつの間にか気付かないうちに全然知らない方向へと来ていた。通学路や自分の行動範囲とからは少し離れた場所なのかかもしれない。駅から少し離れた公園のようだ。キラキラと何色もの色が輝く電球が点滅しあい、いつもの街並みより煌びやかにみせる。イルミネーションをこうも間近に見るのはいつぶりだろう。いつもは学校や幼児の帰り際に横目で流すぐらいだった。だが、こんなにも綺麗だったとは。


「そうだね」


「あ、あれみて」


 二人は周りに圧巻され、視線を合わすどころか上下左右、いろんな方向へと視線を向けていた。


「こういうのって別にどうでもいいとか思ってたけど、意外にいいね」


「俺もそう思う」


 寒い中ベンチに座ったのもいつぶりだろう。積もっていた雪を掃って座ったので、少し湿った感覚がお尻に残る。彼女といると、「いつぶりだろう」と思うことがあったり、「初めて」が多い気がする。それが新鮮で、とても楽しい。

 そこから会話がなくなった。俺も彼女も、光に目をやっている。だが、俺はまた、忘れかけていた心の中での葛藤が始まっていた。


「わたしさ、君のこと、最初はこんなにも好きじゃなかったんだ。どちらかというと、嫌いだったのかも」


 突然喋り始めたかと思うと、急に自分のことが嫌いだったといわれて驚いた。


「でもね、少しずつ話し始めて、なんていうんだろうね。こう、私の中での君が変わったっていうのかな。嫌いじゃなくなって、普通に友達な感じになって、そして…好きになった」


 俺は黙って、彼女の話す様子を見る。少し照れくさそうに彼女は笑った。


「君のことを好きになっているのに気づいたときは自分でも驚いたよ。なんで君なのか、なんで最初嫌いだったのにこんなにも、ってね」


「…………、」


「それでね、思い切って告白しちゃった」


 視線を合わせて、にこりと笑みを見せる。


「君が私のこと好きなのかどうかなんてしらないけど、本当に私は好きだった。だから、言えただけでうれしくて、泣いちゃった」


 ――ああ、あの、走っていったときは泣いていたのか。と、俺はその時の後姿を思い出した。今でも彼女の後姿を鮮明に覚えている。


「ごめんね、あの時は突然帰っちゃって。私もどうかしてたよ、泣くなんて思ってもなかったから」


「別にいいよ。俺もどうしたらいいのかわからなくて止められなかった。ごめんな」


 ううん、君が謝らなくていいよ、と彼女は言う。なんて優しいのだろうと、心の中がぎゅっとなった。


 ちゃんと、伝えなきゃ。


 ずっと、頭の中でその言葉が反芻されていた。それが、今、消えかかろうとしている。


「……俺、告白されてからずっと悩んでた。俺が告白されるなんて思ってもなかったし、まず君とは普通の友達だと思ってたから」


 今度は彼女が俺の顔を見ている。立場が逆になってしまった。これでは後にも引けない、


「……ずっと君のことが気になってた。学校でいるときも、家にいるときも。なんでなんだろーな、とか思ってたけど答えは出なかった。でも、これが好きってことなのかもしれない」


「……そうだったんだ」


「うん。だけど、今の自分の気持ちがよくわからなくなったんだ。だから、一人相談できそうな人に相談してみた。でも相談しても、わからないことはいっぱいある」


 真剣な目つきで俺を見ている。その顔、表情はあの時を思い出させてくれた。


「でも、わかったことが一つあった」


 それは――。



「俺は、君が好きだ」



 彼女は大きく目を見開いていた。

 顔のあたりがものすごく熱く感じる。――言ってしまった。心のなかがそれでいっぱいになる。恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい。心臓が爆発しそうだ。

 もうここまで来たら、ちゃんと言わなきゃ――。



「俺と――、付き合ってください」






 ――今日はホワイトクリスマス。

 街中には手をつないだ男女二人組で歩いている姿をよく見かける。街の中はクリスマスツリーや電気装飾がたくさんあり、暗い夜を照らす。そしてその黒く塗りつぶされた空から降り落ちてくる白い粒は、まるで街全体の空を華やかに飾り付けてくれている。


 神の授けた一日。それが今日。


 時代も変わり、たくさんの物があふれている、流行りは常に変動し、それが街を埋め尽くす時もある。

 だが、「純粋な愛」というのは変わらない。それが街にはびこる限り、この日は永遠に訪れるだろう。

読んでいただきありがとうございます。


この作品は思いつきと、近々クリスマスになるので書いてみたくなりました。半分書き終わったとき、とても恥ずかしくてそこから書いているだけで胸がキュンキュンしていました。ラストとか、もーベッドでごろごろしてました。セリフを書く時が一番緊張しましたね。


今のところ、登場人物には誰にも名前を付けていません。これはあえての表現方法として試してみました。時々他で連載しているキャラの名前を打ったのをバックスペースで消していたのも記憶にあります……。


視点は男の子、相手は女の子に設定しているのですが、名前の部分に自分と好きな子の名を当てはめるととてもキュンキュンします。作者はそれをして一度読み返しました。視点が女の子になると相手の話し方が少しおかしくなるかもしれません。


最後に一言。

恋愛ものって、いいね。


ブクマ、お気に入り、感想、とても参考になるし書くことへの励みになります! こんな自分ですがよろしければコメント、評価頂けたら嬉しいです!

今後ともよろしくお願いします!!!!

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