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花火  作者: もふじ
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花火のように……

第1回なろう文芸部@競作祭 『キーワード:夏』投稿作品


本当はアニラブの方に投稿する小説なのですが、別々で投稿させていただきます!

 ドーン ドーン


 この花火が終わると、君とはきっと二度と会えない。

 君は人間で、僕は狸だから……。

 

 どうして君と出会ってしまったのだろう。


 花火はどうしてこんなにも儚いものなのだろう。



ー ー ー ー ー




 今日は人間たちが夏祭りを開催させる。屋台がたくさん並んで、いつもは暗い通りに柔らかい光が灯る。人もたくさん来て、とてもにぎわう。そして、最後には花火が打ち上げられるのだ。

 今年こそ、こんな楽しそうなことをこの狸のマル様が放っておくわけがない!! たくさん楽しんで、たくさんいたずらしてやるぞ、へへへ!

 人間の姿に化けた僕はへなっと笑いながら、指で鼻の下をこする。周りを見渡すと、ある人間達を見つけた。


 おぉ? あそこに仲の良さそうなカップルがいるな! ふむ、最初はあのカップルにしよう。よーし、いたずら開始だ!

 

「おおっと、ごめんよー!」

 僕はカップルの隣に並ぶと、彼女にぶつかったふりをして、どんっと彼の方に押してやる。

 あらら、彼女は彼の足を踏んでしまった! わざとじゃなくて、無意識に踏まれた時の方がすごく痛いよなー。へへへ、いたずら成功!

 彼らの反応を見たくて振り向くと、お互いの顔を見合って顔を赤く染めている。

 ちょっといい感じの雰囲気になってるけど、気にしなーい!


 僕はカップルから小走りで離れて、鼻歌を歌う。

 1回目のいたずらが成功して、気分はとてもいい。上機嫌で歩いていると、甘い匂いが漂ってきた。僕はいつもの癖で鼻をすんすんと動かす。

 あれ、美味しそうだなー。

 僕はわたあめを見て、よだれを垂らしそうになる。

 ふわふわしてる。食べたい。……ここは我慢せずに買うべきだな。うん、買っちゃおう!

 わたあめは少し桃色が入っていて、可愛いらしい。

 へへへ、買っちゃった! これ昔から食べてみたかったんだよなー。いたずらもしたいんだけどさ。いたずらは狸の生きがいだからね、へへへ。でも、腹が減っては戦はできぬってねー!

 僕は口を大きく開けて、ふわふわのわたあめにかぶりつく。

 パクッ

 っ!! うっまーい! 

 手を頬にあてて、つい笑みがこぼれてしまう。ふわふわしてたのに口の中に入れると溶けていくようになくなってしまう。

 甘い、美味しい! 人間はいつもこんないいものを食ってるのかー、羨ましい。

 もう一口わたあめを口に入れると、ある人間達の姿が見えた。


 おぉ? 幼い男の子が新しいわたあめを地面に落としてしまっているぞ! 僕のより大きいな。よーし、いたずら開始だ!


 僕は男の子のところに駆け寄り、ポンポンと頭をなでてやる。

「お兄ちゃんのとこっちのわたあめ、変えてよ」

 僕のわたあめを男の子に渡し、僕は落ちたわたあめを取る。

 へへへ、新しいわたあめと、ちょっと食べてしまったわたあめと変えてやった。 いたずら成功!  

 僕はさっさと逃げようと思ったら、男の子に服の裾を握られてしまう。

 げっ、まずいぞ。これは怒られるか? いたずら失敗の予感!!


「お兄ちゃん、ありがとう」

 ……何が?

 何が何だか分からないが、ニコッと笑うと男の子は手を放してくれた。

 何でお礼を言われたか分からないが、いたずらってばれてないから成功だな、へへへ!


 おぉ? またカップル登場だ! 祭りには多いなー。射的をしているが、全く当たってないようだな。よーし、いたずら開始だ!


「おじちゃん、一回いいかな?」

 射的銃を受け取ると、景品の方に視線を向ける。

 あのカップルが狙っていたのは、あれか?

 僕はあのカップルが狙っていたものに的を定める。

 カチッ

 景品に球が当たり、後ろに倒れる。

 へへへ、一発で倒してやった!

 おじちゃんは僕に賞品を渡してくれたが、彼女の方の頭に置いてやる。

 へへへ、全然取れなかった物が1発で取られて悔しいだろうな。またまた、いたずら成功!

 でも、カップルはとても嬉しそうに笑顔を見せ、喜びの声をあげている。


「ありがとうございます!」

 彼の方がそういうと、彼女の方もペコッと頭を下げた。

 ……だから何が?

 僕は首を傾げた。

 人間ってのは分かんねぇなー。いたずらされたら、喜ぶのか?

 でも、何でいたずらされたら喜ぶんだ? ……はっ! 近頃よく聞くマゾって奴か? 人間は皆マゾって奴なのか!? ……マジか。

 僕は焦るような、戸惑うような気持ちでいっぱいで、呆然としてしまう。

 じゃ、じゃあ、今からずっげー優しくしてやる。そしたら、いたずらになるだろう! 多分……。


 うーむと、悩んでいると子供の泣き声が聞こえてくた。

 おぉ? 次こそ、いたずらのできる予感!!

 声が聞こえる方に行くと、幼い女の子が母親とはぐれたようだ。よーし、いたずら開始!

 いつもなら、母親なんて探さずに一緒に遊ぶんだが……。人間はマゾ。人間はマゾ。人間はマゾ……。


 うむ。

 

「よーし、お兄ちゃんと一緒に探そうか! それっ!」

 僕は女の子を肩車してやる。女の子はワーッと叫びながら、涙を止め、きゃははと笑う。ちょっといたずら心で揺らしてやっても、女の子はキャーと叫びながらも、アハハと笑って僕を見る。


「ほら、どっちが母ちゃんを先に見つれられるか、競争だぞ!」


「うん!」

 女の子は満面の笑顔を見せると、母親を探し始めた。

 ……なんか違う気がする。


「あ、いたっ! ママー!!」

 女の子は母親を見つけ、ブンブンと手を大きく振っている。

 え、早い! 

 僕は女の子の母親が来ると、肩車から下ろしてやる。女の子は母親に抱きつきに行く。母親も女の子を強く抱きしめていた。


「本当にありがとうございます」

 母親は深々と僕に頭を下げた。女の子も僕に抱き付いてきて、お礼を言う。僕はぱちくりとまばたきをしてから、女の子の頭をくしゃくしゃと撫でながら笑った。

 けど

 ……何か違う。ムズムズする。

 僕は親子が何度もぺこぺこと頭を下げながら、去っていくのを手を振りながら見送った。

 ……今のはマゾじゃなかったってことか。違いはどこ?

 僕は切実に思い悩んで、じと目になってしまっていた。

 まぁ、失敗は成功のもとってな! へへへ!

 僕はブンブンと顔を横に振って、気持ちを入れ替える。


 次だ! 次のいたずらの源はー、どこだ、どこだー?

 おぉ? あそこにすっごく落ち込んだ様子を見せた少女! よーし、いたずら開始!

 じっとしてられなくて、僕は走って少女に駆け寄った。


「ねぇ、君どうしたの?」

 僕は少女の顔を覗き込む。少女はかなり驚いた顔を見せた。

 まずは話を聞いて、そこからいたずらに入るぞー。 へへへ!


「あ、あの……」

 少女は少し戸惑ったような表情を見せている。

 ……

 僕は少女から1歩下がる。

 あらら、警戒されているね。めんどくさいからやーめよっと!

 僕は怯える少女にニコッと笑顔を見せた。


「いや、話したくなかったらいいんだ! こんな賑やかな祭りに君の様子は場違いだったからどうしたのかなーと思っただけだから!」

 僕はじゃーね、と言って、手を振ると少女から離れていく。

 ふぅ、危ない危ない。祭りが終わるまで後数時間という短い時間を削ってしまうところだった。次のいたずらに行ってみよー! へへへ!

 チラッ

 少し振り返ってみると、また落ち込んだ様子を見せていた。

 ……でもやっぱ、気になる。僕のいたずら以外で人にそんな顔されるのは何か気に食わない。……いやいや、何考えてるんだ、僕は! 決めたことは貫かないと!


「ねぇ、君どうしたの?」

 ん?

 さっきの僕と同じセリフが聞こえたと思ったら、(いか)つい格好をした若者たちにあの少女が絡まれていた。

 むっ、元とはいえ僕のターゲットにいたずらをしようとしてる?

 若者たちは容赦なく少女に近づいていっている。少女の怖がっている顔が僕の瞳に映る。

 嫌だ、なんか嫌だな、取られるのは……


 横取りさせるのはこのマル様のプライドが傷つけられる!!


 よーし、いたずら開始!


 僕は少女の肩を持って、僕の方に引き寄せる。

「……何君ら。 僕の彼女に何か用?」

 僕がニヤッと笑って、若者たちを睨むと、若者たちは後退りをして逃げて行っちゃった! いたずら成功! 今回は大成功な感じだ!

 でも、ちょっと怖かった。少女もほっとした表情を見せていた。


「あ、ありがとうございました。すみません」

 ……次はお礼のおまけに謝罪がついてきた。何で?


「いや、僕は本能に従っただけだから」


「え?」


「何でもない」

 少女は不思議そうに見てきたが、僕は笑顔で返す。

 どうしようか、いたずら再開するかなー? さっきみたいに横取りされるのも腹立つけど……。経験上、これは結構時間がかかる。僕は少女を見ると、パリチと目が合った。少女は少し顔を赤くして、さっと視線をそらす。

 あー、でも普通にいたずらし甲斐があるかも……。

 よーし、いたずら開始!


「僕はマル! 君名前は?」

 名前を聞くときは、自分の名を述べるのが常識だよね!

 

「華夜です」


「華夜ちゃん! いい名前だね」

 僕がニコッと笑ってみせると、少女「華夜」は頬を赤らめて、ペコッとお辞儀をする。

 華夜……夜の(はな)か。本当に綺麗でいい名前だな。 


「良かったら、一緒に回らない? 僕一人で寂しかったんだー」

 イチかバチかだけど……。どうだ?

 僕はにっこりと笑いながらも、心臓がバクバク鳴っていた。華夜は少し迷った様子を見せた。

 やっぱり無理かな? 


「は、はい、私も一人なので……」

 華夜は少し悲しそうな笑顔を見せながら、頷いた。僕の胸は、何故か締め付けられた。

 隠しているのかもしれないけど、このマル様にそんな笑顔じゃ騙せないよ。

 

 君は今すごく泣きたかったのだろう?

 

 ……今はいたずらした覚えないけど、そんな顔されるといい感じがしないな。

 僕は心がモヤモヤして唇をきゅっと噛んでから、華夜の手を取って、人ごみの中へと入る。


「え!?」

 華夜は今までと比べもんにならないくらい顔を真っ赤にする。耳まで赤くなっている。

 ? 


「夏バテ? 顔赤いよ。 あ、人ごみダメな人?」

 華夜はブンブンと首を横に振ると、繋いでいる手の方に視線を移した。

 あぁ、手つなぐのって人間はカップルとかがするんだっけ?

 僕は何故か少し握る手の力をキュッと強めた。


「この人ごみの中じゃ、はぐれたら肩車をしてもらわないと見つからないよ? だから、ね?」

 ほとんど笑顔で強制してしまった気がするけど、華夜は恥ずかしそうだったけど嫌そうな顔はしなかった。

 ふぅ、良かった。またあんな顔されたらどうしようかと思った。……あれ? 何か忘れているような……。


 僕たちは一緒に色んな屋台を回った。すごく落ち込んでいた華夜も笑うようになった。何で落ち込んでたのか分からないし、もう落ち込んでいた理由を聞こうとも思わない。だって華夜の笑顔は、僕にとってとても心地のいいものだったから。思い出して、また泣きそうな顔になるのは見たくない。むしろ……


 もっと笑ってほしいな。


 ヒュー……ドーン!!

 !!?

 振り向くと、花火が上がっていた。華夜はわぁっと笑顔を咲かせている。

 でも、正直人が多くて花火は見にくかった。


「……華夜、ちょっとこっち」

 僕は華夜の手を引いて、ある場所に向かう。

 着いた場所は、狸が祀ってある神社の前の階段。ここからは花火がよく見える。僕は毎年、この祭りが始まった時からずっとここで見ているから、良く知っている。

 僕と華夜は隣に並んで座る。

 あっつ……。

 僕は汗を拭う。華夜と繋いでいる手の方から熱が伝わってくる。

 いつもと同じ場所で見ているのに、今日はやけにあつい。


 暑い  あつい  熱い


「すごい、とっても綺麗」

 華夜の目は花火が映って輝いている。最初はターゲットとしか見てなくて、ちゃんと見てなかったけど……。


「華夜は……とっても綺麗だね」

 その言葉を放った瞬間、ゾワッと焦りを感じた。僕がこの神社に住むことが決まった時に言い聞かされたあの掟。

 『人間は平等に愛せ。人間に恋することは許さぬ』


 でも、僕の声と同時に花火の音が鳴っていた事に気づく。

 あはは、いい感じに声を消してくれたな。助かった。


「ねぇ、マルくん。今なんて?」

 華夜の声に驚いて振り向くと、暗い時はあまり見えなかったけど、花火が咲いたときの華夜の顔は真っ赤に染まって見えた気がする。


「……何でもない」

 僕はニコッと笑ってみせる。

 僕は僕個人の愛を与えてはならないから、人々には平等な愛を与えないといけないから、もう言わない、言えない。

 華夜は僕が花火の方に視線を向けても、僕を見つめていた。


「華夜、花火……綺麗だよ」

 僕はただ花火を見上げながら言う。華夜はやっと花火の方に視線を向けて、うんと頷く。


 最後の大きな花火が咲いた。でも咲いた花はすぐに消えていってしまう。

 本当に一瞬だな。まだ終わらないで、咲き続けてよ。

 僕の願いと裏腹に花火は暗闇の中へと消えていってしまった。


「終わったね」

 僕が華夜に笑いかけると、華夜は繋いでいた手をギュッと強く握った。


「うん」

 華夜は膝に顔を隠す。

 拗ねる人の子みたい……。ってまだ子供か。


「おいで、華夜」

 僕はもう一度華夜の手を引く。

 きっとこれが彼女の手を引くのは最後だろう。

 そう思うと、華夜の手を握っている手に力が少し入ってしまった。華夜も強く握り返してきた。

 この手は放したくない……。


 僕は華夜を神社の本殿に連れてくると、そっと手を放す。手から熱が逃げないように強く握る。


「1つだけお願いをしてみて」


「え?」


「きっと叶うから」

 僕がニコッと笑いかけると、華夜は頷き、正しい作法で参拝をし始めた。

 華夜が両手を合わせて目を瞑ると、願い事が頭に響いてくる。


 『また、マルくんと会えますように』


 !?

 僕は華夜の願いを聞いて、ついボンと顔を赤くしてしまった。

 ……やられた。

 僕がじーっと見つめていると、華夜はできたよと言って、笑顔を見せる。

 ずるい。


「……叶うといいね」

 僕は視線をそらしながら言うと、華夜は嬉しそうにうんと頷いた。

 ……ずるい。




「……じゃあ、もう遅いし帰らないとね」

 僕は月を見上げて言う。


「そうだね」

 華夜はそう言うと、少し悲しそうに笑う。


「大丈夫、会えるよ」

 君がそれを願うならね……。

 僕は華夜の頭にポンと手を置くと、華夜は嬉しそうに頷いた。

 華夜の家はこの神社から近いらしい。僕は人の家を個人的な意思で訪ねてはいけない。だから、階段の前で方向が逆と嘘をついて、華夜と別れた。

 いたずらは失敗。そして、恋には落ちてしまうし、嘘はついてしまったし……。これはきっと罰が下される。

 でもまぁ、後悔はしてないかな……。


 もうこの姿では会えないけど、きっとまた会える。

 もう君に恋をすることも許されないけど、君を見守ることはできる。

 もう触れることはできないけれど、君のぬくもりを感じることはできないけど……。

 僕の瞳から、何かがこぼれる。止めようと思っても止まらない。こんなことは初めてだった。

 何だ……これ。水?


 止まらない 止まらない この水も この悲しさも この君への想いも……


 僕はいつもと何も変わらない夜空を見上げる。顔を上げても頬に水が伝っていく。





 あぁ、花火は儚いな。





ありがとうございました!

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