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冬の最涯  作者: 直弥
第三話「分キ点」
12/19

1コマ目

 ある冬の明朝。ようやく空が白み始めていた時間帯。辺りには誰も見当たらず、二輪車や四輪車も走っていないような静かな街並みの中を駆ける少女がいた。胸にメーカーのロゴが入ったウィンドブレーカーを羽織って、ボリュームのあるポニーテールを揺らしながら。小学生にしては大人びているが、高校生ではないだろうという稚い顔つき。息は乱れていなかったし汗もほとんどかいていなかったが、火照った頬はわずかに色付いていた。そんな彼女が、

「ん?」

 突然に、脚を止めた。何やら奇妙な音―金属を擦るような―を聴いて。

 ――なんだろ?

 好奇心とも言えない当然至極の疑問で、少女はふらっと、音のする方に近付いて行った。角を曲がると、そこはマンションの駐輪場。自転車とバイクが、およそ四対一の割合で停められている。その内の、一台の中型バイクの前に、男が一人しゃがみこみ、何やら作業していた。

 ――なんだ。

 少女が踵を返そうとしたところで。男が振り返った。ドライバーを手にした男の目は血走っていて。まともでないことは一瞬で知れた。関わってはいけない。少女の頭の中で激しく警鐘が鳴る。しかし身体の反応が追いつかなかった。

「あっ」

 男は少女の咽喉にドライバーを突き立て、引き抜いた、突き立て、引き抜いた。そして走り去っていく。

「かっ、ああっ、あ」

 人を呼び集めるだけの悲鳴を上げることも出来ぬまま、少女は崩れ落ちた。

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