AIとはじめての迷宮
南の大門に戻ってきた。
さっきの門番さんを見つけたので声をかけてみよう。
「門番さん、さっきはありがとうございました。」
『おう、君はさっきの。探索者登録は済んだかい?』
「はい、おかげさまで。それでこの先の迷宮を勧められたのですがどんな迷宮なのか教えてもらえませんか?」
『ふむ...この先には草原迷宮、森林迷宮、岩山迷宮、湖畔迷宮などがあるが初めていくのなら草原迷宮がいいだろう。生息しているのは主にワイルドラビットとグリーンスライムだ。夜になるとワイルドドックが現れるから注意しろよ。』
「そうなのですか、じゃあ草原迷宮にいってみます。」
頭を下げつつ門を通ろうとしたところで、門番さんに呼び止められた。
『そうだ、互いに名乗っていなかったな。俺はオルドンというんだ。君は?』
門番さんの頭の上のキャラネームが 門番 から オルドン に変わった。
「そうでしたね。僕はアキトっていいます。今後ともよろしくお願いします。」
『アキトか。無事に帰って来いよ。』
「はい。」
ほんと、ただの門番とは思えないな。
これからどんなNPCと出会うのかという期待と共に、門を出た。
ドームをしばらく歩くとウィンドウが開いた。
内容はどの迷宮に移動するかというものだが、草原迷宮Lv1と森林迷宮Lv1が明るく表示されている。岩山迷宮Lv1と湖畔迷宮Lv1がグレー表示だった。
「アイさん。グレー表示の意味は?」
『迷宮の情報を得たことで表示されましたが開放条件を達成しておらず転移は不可能という表示です。』
「そっか。あの会話がいわゆるクエストだったわけか。」
『クエストと言えばクエストですね。で、マスターはどちらにいきますか?』
「そりゃあ草原迷宮だよ。せっかく勧められたんだしね。」
そして僕は転移した。
草原迷宮は迷宮と名が付いているが壁で仕切られていたりするわけではなく、低木がまばらに生える以外は見渡す限りの草原で、上は空であった。どれくらいの広さなのか。
ワープポイントは半径2メートルほどの少し盛り上がった岩だった。その上にいる場合に街へのワープウィンドウが開くようだ。
数メートルほど先に半透明で緑色なバスケットボールが跳ねていた。
表示はグリーンスライム。あれを倒せばいいのか。
腰の剣を抜き、近寄ってみる。
グリーンスライムは跳ねているばかりで近寄ってはこない。どうやら相手から襲ってこないタイプのようだ。
敵は1体のようだしバトルスキルなしで戦ってみる。
剣のあたる位置まで近づき、思いっきり斬りかかる。
ぐにゃんっと手ごたえを感じたが剣はすり抜け、スライムのHPが4割ほど減る。
HPバーの動きを見ている隙にスライムがこちらに跳ねてきた。敵対状態になったようだ。
どれくらいダメージを受けるか避けずに当たってみたら僕のHPが1割ほど減った。
初めての敵としてはこんなものだろう。
あとは攻撃を避けつつ2回斬りつけたら倒せた。
SPが20増えたがドロップはなかった。お金が貰える分、あまりアイテムは貰えないタイプのゲームのようだ。
戦闘を終え、周囲を見渡してみる。
近くの低木の上になにかアイコンが見えた。
近寄ってみるとウィンドウが開いた。
採集しますか? はい/いいえ
残り 1回
情緒ってものがないな。簡単なのはいいんだけどさ。
ポーン 木の枝Lv1 を取得しました。
採集したらアイコンが消えた。
木の枝か。こんなのでも武器にできるんだろうか?
思い立ったので試してみる。
レシピはショートスピアにしてみよう、イメージ的には簡素な木の槍になるだろう。
木のショートスピアLv1 木の枝を削った短槍。装備制限:筋力Lv1
剣を戻し装備してみるが、どう見ても採集ポイントの木の枝より長い槍になった。雑だ。
と、なにかが跳ねる音が近づいてきた。
あわててそちらを見るとグリーンスライムが2匹近寄ってくるのだ。
「手を出すまで襲ってこないんじゃなかったのか!?」
『アイテム作成を行うと周囲の敵を引き寄せます。注意してください。』
そんなペナルティあるのかよ!
近すぎて武器を戻す時間はない、この槍で戦うしかないようだ。
危なかった。
2匹にはさみ撃ちになり、後退しながら正面に集めるまでにHPが4割ほどになってしまった。
木のショートスピアでのダメージ自体は悪くなかったのだが、ダンボール並に軽くてうまく扱えなかったのだ。
それでもなんとか倒した。
ついでにスライムゼリーLv1というアイテムが1個手に入ったし結果オーライとしておこう。
「油断大敵だなぁ。HPを回復しなくちゃ。自然回復はするの?」
『迷宮の中での自然回復は通常ありません。迷宮から出れば時間で回復します。』
「そっか。じゃあ一度戻ろう。」
こうして、初めての迷宮探索は10メートルほど進んだだけで終わった。




