AIと帰り道
ようやくAIといっしょにゲームできるようになった。
それじゃあ街に戻ろうか。
「マスター、成長の珠使わないの?」
おっと、忘れていた。
「よく気づいたね、ティア。というか、成長の珠のこと知っていたの?」
「アイとリンクしていたからうちのみんなは全員マスターのプレイ状況知ってるよ!」
なるほど。
あとからくる子に教える手間が省けるようだ。
でもそれだけ待たせてるってことになるな、早く次のたまごを手に入れなくちゃ。
さっそく成長の珠Lv2を使う。
上げるのは当然筋力だ。
まだ装備できていない狼の牙のロングソードLv2の条件を満たさないとね。
「ティアの筋力もLv2になったよ!」
僕が使うと使い魔も即座に成長するようだ。
装備条件を満たしたわけだけど、すぐさま装備変更するのはやめておく。
バトルスキルが今はすべてショートソードで設定してあるのだ。
これをロングソードにすると一からバトルスキルを設定しなおさないといけない。
それにSPや素材も増えたので街で装備を見直してからのほうが効率がいいと思うのだ。
「それじゃあ街まで戻ろうか。」
「はい!」
ニコニコと笑ってるティアを見るとほっこりする。
ティアと二人(アイさんもいるから3人と言うべきか)で入り口の方角へ歩く。
なんやかんややっていたらいつのまにかボスエリアが消滅していたようで歩き出してすぐモンスターとの戦闘になった。
ボスを倒したらあまり余裕はないのか、覚えておかないと。
筋力を上げて最初に戦ったときにその変化にびっくりした。
鉄のショートソード、木のショートソードが軽いのだ。
大体今まで使っていたときの半分くらいの重さに感じる。
筋力のレベルを1から2にしただけでこの変化は大きい。
大きすぎてバランスが取りづらい。
ステータスが変わったら装備を一新したと思うべきだろう。
幸いというかなんというか、バトルスキルの動きは変わらないのでスラッシュで敵を倒していく。
初めての戦闘のティアだけど、その動きは初めてとは思えない。
もじゃもじゃした熊の手の鋭い爪はスパイダーを一撃で倒すほどの強さだ。
敏捷が低いせいかその動きは僕と比べると大人と子供くらい遅いのだけど、スパイダーの糸攻撃も腕で振り払ってノーダメージで対処している。
「ティア、バトルスキルとかは使えるの?」
通常攻撃しかしていないようなので聞いてみる。
使い魔はPTメンバーとして数えるようだから使えなかったら辛い。
「使い魔だとバトルスキルは使えないみたいです。攻撃に属性を加えることはできますけどマスターのSPを使っちゃいますよ?」
バトルスキルは使えないのか。でも属性を加えて自由な動きの攻撃ができるのはプレイヤー以上のメリットがないか?
『使い魔はPTメンバーとして数えられますがPT人数によるダンジョンの強化には数えられないためバトルスキルがなくともダメージ不足にはならないと思われます。』
アイさんが補足してくれた。
なるほど、プレイヤーと使い魔をうまく組み合わせてPTを組むのがいいんだな。
もっとも、僕はなるべくならうちの子たちとだけでPTを組みたいのだけど。
「わかった。必要なときにはSPを気にせず攻撃してくれていいよ。なにかあったら指示するから。」
「は~い、マスター」
いい返事だ。
そしてこういう判断ができるようになったことを嬉しく思う。
AIパッケージを買ってきたばかりのころは自己判断というものが全然できなかった。
人のアバウトな命令に対して答えを検索する、ということはデフォルトで出来るしAI拡張セットという市販品を使えばすぐにでも細かなやりとりができるようになる。
それこそゲームの世界くらいなら人としゃべっているかのように柔軟な受け答えができるようになるのだ。
しかしその決まっている受け答えが気に入らない場合、どうするか。
答えは自分でその受け答えを設定するのだ。
少しずつ経験を積み重ね、徐々に柔軟な受け答えをするようになっていくAI。
それは子供が成長するようなもので、当然すべてが思った通りになるものでもない。
アイさんで10年、ティアは8年。
そんな風に育った彼女たちは今まさに、僕のゲーム仲間としてここにいる。




