第六話:鍋パ
山田くんは無事に帰ってきた。アパートで見つかった鉢植えから指紋が出なかったせいだ。凶器の鈍器も見つかっておらず、証拠不十分で釈放されたらしかった。
アタシを襲った犯人も捕まっていない。いったいいつ部屋に忍び込んでいたのか、考えただけでもゾッとする。ドアはすでに新しいものと交換され、もちろん鍵も変えた。
「良かったすね、怪我がなくて」
山田くんが無事帰ってきたことを祝して、アタシの部屋で彼と山田くんと三人で鍋パーティーを行った。貧乏な山田くんはよく食べた。最近肥え気味な彼もよく食べた。事件のショックが尾を引いているアタシもよく食べた。
「でもその事件、ぼくの新しい短編に似てるなぁ。来月の雑誌に載るやつで、タイトルは『迷子荘の惨劇』ていうんすけど」
「へえ、どんなの?」
彼がすかさず身を乗り出す。アタシはほろ酔い気味の顔をしかめた。
「山田くん、きみ、タイトルに激しく独創性が欠けてない?」
「いいんす。それが、ぼくのスタンスなんです」
「それで許されるのか」
「で、内容は?」
「ホラーっす。迷子荘っていう別荘で六日七晩パーティが開かれるんすけど、夜な夜な人が殺されるんです。その殺人者が、主にベッドの下に隠れて獲物がかかるのを待つんすよ」
アタシと彼は思わずベッドを振り向いた。その隙に山田くんが肉をかっらさらう。
「でも妙な気分すね。何でそんなに、ぼくの小説に似た事件が起こるんだろう」
「妙っていうか、不気味じゃない? もしかしたら自分の小説を読んでいる人の中に犯人がいるかもしれないんだよ」
「でも、新しい小説はまだ公表されてないんすから」
「あ、そうかぁ……」
妙と言えば、鉢植えをアパートに持ってきたのもやはり山田くんではなかったらしい。
花屋の店主と口論したのも、商品の花を勝手に手にとって匂いを嗅いでいたところを怒られた、というだけのことだったそうだ。浮浪者呼ばわりされて、つい怒鳴り返してしまったのだ。そりゃ、何日も風呂に入ってなきゃね……。
「そういえば、『ゴッホは見た』の犯人は誰なの?」
「分からないんす。別荘が燃やされて、絵も一緒に焼けちゃうんで」
「え?」
「ああ、あの最後は圧巻だよな。炎の中に犯人を見ながらも、ゴッホは煙にまかれて意識が遠のく――」
「え?」
なんだか釈然としないまま解散となった。あまりに釈然としなかったので、ホクホク顔の山田くんから材料費を巻き上げてやった。
その腹いせというわけでもなかろうが、自分の部屋へ帰るさい、山田くんが高らかに言い放った。
「ぼく、もう新作のアイデアがあるんすよ。この前のアリさんを見ていて思い浮かんだんす。タイトルは『口裂け女VS口裂け女』!」
アタシは青筋浮かべてその尻を蹴飛ばしてやった。