火事の真相を求めて
生き物ってものは普通焼くものじゃあない。だって燃えたら熱いし、火傷してしまうだろう。だから生き物は火には恐れるしわざわざ近づいたりしないんだと思う。人間以外は。まあ、例外もあるだろうけれど、それは考えてない。私の知識の中には無いし、そんな事はどうでもいい。興味のない事だ。あくまでも私は興味がない。今はそんなことが重要な事柄ではない。人は火を使う。そしてそれを使って他の生き物を燃やす。花火なんかを持っていると、光に誘われた蛾の一匹がひらひらと飛んできたとする。そこで私は何をするか。そんなことは簡単だ。私は何の躊躇もなく蛾を燃やす。だって蛾嫌いなんだもの。あと、楽しいからという気持ちもある。理由は特にないけれど、何だか無性に火を使って遊ぶのが私は好きだ。火遊びが好きだ。むしろ愛しているとさえ言ってもいい。そう言ってしまっても過言ではない。私は火遊びが好きだ。そう、その結果火事が私の家で発生したわけだが、火事ってのはすごいな。ホントにすべて焼くんですね。家が跡形もないのですよ。こりゃあお手上げ。まいったまいった。そこで私は新しい家を建てようと考えた。家が燃えたからと言っても、土地が消え失せた訳では無い。ちゃんとそこに場所はあるんだからあとは何とかして家を建ててしまえばいいだろう。安直に私は考え、家の設計をして、自力で、一人の手で家を完成させて見せた。まあ、ひと月も持たなかったんだが、そこは私の触れて欲しくない所なので、あんまり追求しないで欲しい。私も流石に、一年丸々使って、ひと月しか住めない家じゃあ、まるで割に合わないと思ってしまったし、正直悲しくて目から涙がこぼれてしまった物だ。まあ、今となってはいい経験だったと思っている私である訳なのだが、そんなことよりも一つ気になった。火事から一年たって、今更だが思った。火事の原因は何だろうか、と。私は一切自炊をしない。そして私は電化製品をほとんどコンセントにつながない。待機電力だか何だかしらないが、もったいないので常に使わないものは引っこ抜いてある。最初に話した花火だが、そんなものはもちろん外でやる。私は馬鹿じゃあない。頭が悪いとは思うが、自分が愚かだとは思っていない。まあ、そんな事はどうでもいい事なのだが、取りあえず私は考えた。これは外部犯による放火なんじゃあないかって思った。そして行動を始めた。何をしたのかと聞かれたら、そりゃあ簡単だ。私は過去へタイムスリップする事にした。さあ、ここからが私の私による私ひとりの独壇場。門外不出の時を翔ける私はお門違いに、いる訳の無い犯人を求めて時間を遡行した。これが火事の原因になる事を知らずに、一年後の私は一年前にタイムスリップする。
一年前。私の家の前である。私は取りあえず、家の周りを散策した。
ああ、荒れている。草が伸び放題である。まるで草原だ。なんて自然溢れる庭なんだろうか。ここに住んでいる人はきっと天才なんじゃあないだろうかなんて適当な事を冗談でも考えながら、私は犯人を捜すために一通りその場所にカメラを設置する。隠しカメラって奴だ。まあ、あからさまに三脚で立てた全く隠れていないビデオカメラなのだが、そんなことはどうでもいい。犯人を一瞬でも映せばそれでいい。その場で犯人が犯行を諦めたら諦めたでそれでもいい。これで取りあえず私の仕事は終わりだ。ふう、やり遂げたぜ、お疲れ様。ん? あれれ、おかしいぞ。カメラが消えている。どういう事だ。
「まったく、誰が私の家に隠しカメラなんて置くのでしょうか。訳が分からいです。本当に困ったものです。犯人出てこい。盗撮は犯罪なんですよ。知ってますか?」
ううむ、あれは紛れもなく私の声ですね。私の声ってこんなに低かったですかね? ちょっと、まあどうでもいいか。私の作戦は失敗です。お手上げですね。
「このカメラは没収です。売り払ってやります。金にしてやります。おおっ、やったよ。何にもしないで臨時収入ゲットだよ!」
まあ、それは私が働いて買ったカメラですけれどね。結果、私は高く買って安く売ってたんですねあれは。なんて無駄な事をしていたのでしょうか。私は阿保みたいですね。がっかりです。一年前の事だからあんまり覚えてなかったようですね。これは失策です。では、次の手に出ますか。よし、そうと決まれば早速行動開始です。
私が考えた第二策目。それがこの、「ずっと自分で見張るよ大作戦」である。まあ、普通の作戦ですね、はい。まあどうでもいいですが、私はそれからずっとここで見張っています。そうです。私が今いるのは庭の草原の中です。ですが全然犯人来ませんね。欠伸が出ます。言ってしまえばすごく眠いです。帰って布団に入ろうかなぁなんて考えています。私が私の部屋に入って何が悪いんだろうか。いや、むしろ入るべきではないか? 安眠を得るために。私が私と寝るというのも、また一興というものではないだろうか。そうだ、そうだよね。
「ちょっとだけなら、いいよね。」
結果。朝、私を見た私は、目を丸くした。
「私、ドッペルゲンガーと出逢ったのに生きているよ。やはりただの都市伝説じゃあないか。私信じてたよ、この世の中にドッペルゲンガーなんていないって事を!」
私は私を見ながら思った。あれ? つまりどういう事だ。ドッペルゲンガーと言うのは、あったら死ぬというものであって、自分そっくりな人間は、ただのそっくりさんということか? そうか、そうだな。でもそうだとしたら、私はただの不法侵入の人って事ではないか? そういう事にされてしまうのではないか? いや、でもここはやっぱり私の家だ。懐かしい我が家だ。
「ふっふっふ、今から私はお前をここで倒すのさ。」
これなら私はドッペルゲンガーだ。ドッペルゲンガーは人間じゃあないから不法侵入に入らないよね。完璧な作戦だ。抜かりはない。
「な、なんだって。それじゃあ私は、これから殺されるの?」
身体をガタガタと震わせて涙を目に浮かべる私は、何やら携帯を取り出して、110番を、……ううむ、これはまずい。何がまずいって、私警察に捕まりたくなんてないよ。そんなの嫌だよ。あんまりだ。こんな事ってないだろう。自分に自分で豚箱行きにされるって、そんな経験はしたくない。そんな経験は必要ない。
「じゃ、私はこれで!」
ビッと人差し指と中指を立てて、私は部屋から速攻で逃げだした。情けない。自分の家から自分から逃げるなんて。過去の自分に勝てない私、かっこ悪いじゃあないか。
まあ、何はともあれ気付いた事は、火事の起こる日が昨日じゃあ無かったという事だ。そういえばそもそも、今日って何時なんだろう。そう思って私はそこらのコンビニに入り、日付を聞いた。それは火事の日のちょうど二日前の日付だった。