過去を引き継ぐ者
天辺からジリジリと焼き付く太陽の光を疎ましく思い、黒い世界を仄かに照らす月の光に恋焦がれるようになったのは、彼が両親から『アザの称号』を受け継いでからの事だった。
幼い頃から暗示のように言い聞かされてきた『使徒』の伝承に、合ったこともない神様を崇めて、世界を守ってるなんて自己満足でしかないと、ザンカは正直うんざりしていた。しかし、宿命がなんだ、運命がなんだと、腐っていた時期があったからこそ、今のザンカがあるとも言えた。
だが、両親たちは主である神を見知っていたからこそ、信じて待てたんじゃないだろうか。
ザンカは今でもそう思うのだ。
突然、闇の女神が眠りについたと、両親が呟いた時の事をザンカは覚えている。幼いながらも世界が変わる瞬間を感じたのだ。
なぜ、闇の女神が眠りについたのか。
口々に騒いで途方に暮れる使徒達だったが、闇の女神は使徒の中でも、ごく一部の者に血を与えていた。『アザの称号』だ。彼女はアザの者にだけ報せを送っていた。
『闇が消えても光がある』
そう、この世は双生神が治める世界なのだ。降臨した光の女神は見目麗しく、闇の女神とよく似ていた。双子なのだから当然だ。しかし、なぜか使徒たちは畏怖した。
光の中に闇がある。
彼女が主を陥れたのではないか。血がざわめいたのだ。
使徒達は皆、存在価値を認めて欲しいと願っていた。それは、ザンカと同世代の使徒たちは特にそうだと言える。
ザンカの両親は二人共アザの者だったが、中でも千年近く生きたとされ長命だ。だから疲れたのだろう。息子に血を継がせると、呆気なく天命を終えた。
しかし、時代は変化するのを止めてはくれない。この世界を作り守護する神の御使いである使徒だが、時が経過するごとに一人、また一人と消えていく。彼らに染み付いているはずの信じる思いが、どんどん薄らいでいくのを、誰も止めることはできなかった。




