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Relation  作者: 更夜
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第七話





よく分からないが、陸に怪我はないようで良かった。

二人の戦いは一見リトと名乗った獣人さんの方が押しているように見えるが、実はかなりギリギリで弾丸を避けていたことは猫類程ではないがニンゲンよりは優れている目で分かる。

まあ、彼がそういうのを悟らせないのが上手かったから陸は全然気がついていなかったけど。

彼については、少し見当がついていた。

恐らく、彼はここの屋敷の奴隷だ。


彼が動くたびに重く鳴り響く、耳障りな鎖の音。

偶に感情を悟らせない笑顔から覗く、負の感情。


貧困街の外にあった都会の光景の端にいた人達そっくりだ。

彼もまた、ここのニンゲンに捕らわれている。


後味の悪いような思いを噛み締めながら、テーブルの下に陸を連れて潜りこんだ瞬間部屋の扉が開かれた。

ほんの少しテーブルクロスに穴を開けて、外の状況を窺う。



「あーらら。こんな所になんの御用でしょーか、奥方サマ」



「分かってるでしょ!? この屋敷に侵入者が入ったのよっ。リト、奴等はどこにいるの? 猫の獣人なら鼠の一匹や二匹を見つけて捕らえることぐらい造作もないでしょう!?」



「えー、そんなこと言われてもー侵入者がどこにいるかなんてー、そんなのオレには分っかんないデス」



「何言ってるの! あれだけ高い金を払って買ってやったんだから、その分働きなさいよ使えないわねえっ」



「別にオレが『買ってください』って頼んだわけじゃないんだけどナー」



「こっの、アタシに対してその口は何! また一週間食事無しで地下牢に閉じ込められたいの!?」



あの女だ。

警備兵を一人引き連れて、見たことがあるきつい臭いを放つ化学薬品に覆われた顔に目を見開く。

競り場で私が情報を探ろうとしたけれど、途中で陸が競り場に乱入して中断することになってしまったあの女。



「誰だ? あの厚化粧の女」



「覚えてない? 競り場で女の子を買い取った女だよ」



「見てねえ。あのさ……結構アイツやばいんじゃねえか?」



「ヤバイ、だろうね」



見ているだけで不穏な空気が漂っているのが分かって、リトとこの屋敷の貴族の女にその先が簡単に予想できてそれだけで顔を顰める。



「もう! どうでもいいからさっさと侵入者を見つけてきなさいよっ。獣人の分際でこの屋敷に飼ってもらってるんだからそれくらはなさい――なんてね」



「いきなり何?」



「お前、当番だった調理室の扉の前で倒れていたそうね。なら、その時に侵入者が入ったってことでしょう? 現に、調理人達の何人かがお前が着ていた奴隷用の上着を着た男が『執事長が呼んでいる』って調理人達を追い出したそうよ」



……ちょっと、これは本格的にまずいんじゃないの?

化粧が崩れるんじゃないかって、思わず心配してしまうくらい笑みを深くしたニンゲンの女に背筋が寒くなるのを感じた。

このニンゲンの言葉に何度もでてきた『飼う』『買う』『奴隷』と言う言葉に吐き気がするくらい苛立ったが、突然ニンゲンが叫ぶのをやめて小さな声で笑うように言った時空気が変わったように感じて、私は無意識に短槍を手の中で弄んだ。



「あっははーバレテタ。で、貴女様はオレに何をしたいのかな。ねえ? 奥方サマ」



「ふふふ。どうすると思う?」



重なる異なる種類の笑顔。

ニタニタとした笑みに何かを含んだ笑み。

ああ、これ



「使えないペットは要らないわ……死になさい」



「――くっそ……っ!」



ニンゲンが隣にいた警備兵を顎でしゃくって、その警備兵が構えた銃でトリガーに指を掛けた時に思わず飛び出してしまったのは……なんでなんだろうね。



「おい! アイツなら避けれるって」



それがね、無理なんだよ陸。

確かに、陸の鋭くて早い弾丸を避けれるならこんな警備兵の銃なんて目を瞑っていても避けれるだろうけどさ。

ニンゲンが自分達より力を持つ獣人を奴隷にするとき、ニンゲンが開発した鎖がついた特殊な首輪をはめるんだ。

その首輪には奴隷の所有者が『これだけは絶対守らせる』っていう命令をインプットしてそれを直接脳に書き込む。

首輪にこめる大抵の命令は『処分命令を受け入れる』


だから、今リトは命令に逆らえなくて避けようにも避けられないってわけ。



「お前等みたいなニンゲンがいるから戦争が起きるんだよ……糞共が」



「きゃぁああああ!! 何よこれぇ、何も見えないぃぃぃいっ」



とまあ、そういうことでついつい助けちゃうんだよ。

例え、助けた時でも膝が笑っちゃうくらい怖い猫相手でもね。



「何で……」



「い、いいいい一応助けてもらったから! そのお礼、です」



「……声とか足とか震えてなかったらかっこよかったのにな、クロ」



「うるさいよ!?」



かなり久しぶりに使ったカラス特有の能力をぶつけて、私に視界を奪われて何も見えないと叫ぶニンゲン達を柄で殴って気絶させる。

静かになったニンゲン達を部屋の隅へ引きずって片付けてから、呆然としているリトの首輪に私は手を掛けた。



「ちょっと!? 何してんのさ、下手にいじると首輪がしまってオレの首飛ぶんだけど!」



「知ってるよ。私が住んでた街の子がつけてたのを見たことがあるからね……っよし! とれた」



「何で見ただけで出来るんだよクロ……って、カラスだからか」



「そうだよー、カラスの学習能力はすごいからね」



一度見たらなんとなくどうしたらいいのかが分かる。

小さいときに見た、ピッキングが得意だった獣人がニンゲンの目を盗んで捕まってしまった仲間の首輪を爪で器用に外したのを思い出す。

と同時に、もがいて自分で首輪を外そうと首輪を引きちぎろうとした獣人の女の子首が一瞬で文字通り“跳ね上がった”ところも頭に浮かび、今更ながら上手く外せてよかったと長い息を吐く。


緊張からか、滴る汗を口元の布を下ろして拭っていると強い視線を感じた。

ぎこちなくその視線の方へ私も見ると



「な、ななな何ですか?」



「隠れるの早ぇな、アンタ」



「そこを動かないで陸、お願いだから」



その視線の持ち主は予想は出来ていたが、やっぱりリトだった。

思い出したかのように震えだす身体に、本能で近くにいた陸の後ろに隠れると苦笑されたけどわずかに身じろぎをして隠してくれない陸にそれを気にする所じゃなくて陸の腕をしっかり掴んで動かないように固定する。



「ね、君名前は?」



「……クロウェル。姓は知らないから教えられないけど」



「クロウェル、か」



なんなんだ、一体。

リトさんが私を見る目が尋常じゃないくらい輝いている。

昔、私を追いかけてきた猫の獣人達の獲物を見つけたときのギラギラした目じゃなくて好きなものを見つけた無邪気な小さい子の目みたいなキラキラした目。

陸を挟んだ状態で聞かれた名前を告げると、何度も頷きながら柔らかく口元を緩ませていた。

いつものニヤニヤした笑みじゃなくて、ふんわりとした優しい顔に驚いていると



「クロウェル、オレを君の傍に置いて……いいでしょ?」



「――うわぁあああ!!」



「お、落ち着けよクロ。首、俺の首が絞まって……」



驚いていて警戒が少し解けてしまった隙にいつの間にかかなり近くまで近づいてきていたリトが私の手を取った瞬間、思わず私は絶叫して陸の首に巻かれている赤い包帯を力強く引っ張る。

何かうめき声が聞こえたような気がしたが、それどころじゃない。

一体、どうして、なんだってこんな展開になったんだ。



「うーん。そこまで避けられるとちょっと悲しいと同時に、なんか燃えるんだけどなー」



「それ以上クロを怖がらせんじゃねええっ俺が死ぬぅぅ!!」



「何で獣型になって近づくんだよぉおおお!!」



「アンタはいい加減引っ張るのを止めろっ」



ニタニタとした笑みを浮かべながら陸が見たって行ったとおりの足先が白い黒色の猫になって陸の肩に乗ったから、陸の首の包帯を引っ張っていた私と必然的に距離が近くなるわけで。


ギャーギャー叫んで思わず陸の包帯を渾身の力を込めて握ったら、顔をを青くした陸に引き剥がされてしまった。



「ほら、こいつが敵じゃなくなったんだからさっさと行くぞ。また誰かが目を覚ましたら面倒だしな……ここの処理はどうすんだ?」



「とりあえず書類は燃やして、奥の部屋は爆破しよう」



「物騒過ぎるぞアンタ」



首根っこ掴まれた状態で簡単に作戦を決めると、引き攣った笑みで返された。

物騒だと陸によく言われるが、よく分からない。

まあそこら辺は育ちの違いが出てるんだろう……あれ?

おかしいな、一応私の育て親は優しくて穏やかな人だったんだけど。



「それじゃあオレは部屋に爆弾仕掛けておくから、君達は武器製造工場に行っておいで。この屋敷の離れがそうだよ……あ、これ工場に行くための鍵ね」



「別にいいけど、アンタはどうやって合流する気だ?」



「オレ? どうせ全部終わった後色々と面倒なことになるだろうから、ここから少し離れた街で合流した方がイインジャナイ?」



「――そうだな。じゃ、そういうことでいいかクロ」



「え、ああうん」



「それじゃあ決まり。バイバーイ、また後でねクロウェル」



ニンゲンの女から鍵を盗ってこちらに投げた後、パチンと軽やかに片目を閉じてリトは奥へ消えていった。

……あれ、



「リトが同行するのは決定事項?」



「いいだろ? アンタも早く人数を揃えたいって言ってたし。強い奴でしかも信頼できる奴を今のうちに作っておこうぜ」



「……つまり、猫の克服をしろと」



「そういうことだな。さっきみたいに猫に会うたびアンタに首絞められたらたまらねえし」



結構根に持っていたらしい陸の言葉はやけに刺々しくて、それ以上言い返すことはできなかった。



「……行こうか。リトが言ってた製造工場のところ」



「おう」



私とは対称的に軽い足取りの陸に溜め込んでいた息を吐き出すと、リトの言う奥の部屋を目指す。


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