表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Relation  作者: 更夜
4/26

第四話


「陸、私の部屋に来たのはいいけどお父さんはどうするの? 私はこの街でもう少し調べてからすぐに違う街にいくつもり。だから、父親に今の内に会っておかないと暫く所かもう会えなくなるかもよ?」



「別にいい。そんな猶予もねえだろ」



「ま、私の金銭的事情だとそうなんだけどね」



さっきの競りの情報じゃあ核心的なことは分からなかったから、もう少し詳しく調べていかないといけない。

残っている日数は後二泊。

でも、今日はもう遅いから特に何も出来ないだろうから結局のところ後一泊。

あと一泊で出来ることはかなり少ないだろうけど、やるしかない。



「明日の早朝に、この国で一番って言われてる貴族の屋敷に忍び込むから準備しておいてね」



「おう……おお!? 貴族の屋敷に忍び込む!? 何で」



「競りの時にちょっと聞いたんだけど、その貴族って軍に武器提供してるらしいからちょっと情報集めついでに引っ掻き回しに行こう」



「……アンタって何気なくとんでもねえこと言い出すよな」



「そう? それじゃ、とりあえず今日は解散。夜が明ける頃、ここの宿の前で待ってて。武器と顔を隠す用の布もちゃんと持ってくるように」



「ああ」



違う宿で泊まると言って宿を探しに行った陸を見送って、私は自分の部屋に戻った。

宿に置いてあった地図を拝借してその貴族の屋敷の場所を確認する。

多分、この屋敷の持ち主は私が競りで話した化粧臭かったニンゲンの女の夫だろう。

この国には王と言うよりかはかなり力を持っている貴族が納めている。

その下に下級貴族や、裕福な民が仕えているという状況なのだ。

だから、武器を他国に配給できるほどの力を持った貴族は実質一つしかない。



「大分召使に対して扱いが酷いって評判みたいだし、上手くすれば使用人の人もこっちに引き込めるかもしれない」



上手くいけば、だけど。

まずは屋敷を探って情報を得て、余裕があれば武器の生産を少しの間でも中断できるようなナニカを起こせばいい。

何にしよう。

狐の獣人みたいに炎が出せたら楽だけど、生憎カラスの私にはそんな能力はない。

私の能力は、鳥類に強弱はあれど共通にある風を起こすこととカラス特有の一時的に相手の視界を奪うということだけだ。



「この能力と陸の銃の腕前で出来る妨害ってなんだろ」



……特に大したことはできない気がする。

予測だけど。



「屋敷の構造があんまり分かんない以上、作戦を決めるだけ無駄っていうか寧ろ邪魔かな」



予定外のことが起こって動けなくなるのも嫌だし。

まだ陸がどういう動きをするのかが分かってないから明日はそれも確認しておこう。

大まかに明日すべきことを決めると、そのまま倒れこむようにベッドに入り込む。

そのまま静かに目を閉じた。



「最初の一手だから、絶対に成功させないと」



全てはこれからだ。

そのまま意識をゆっくり沈めていった。



























「あれ、以外と早いね陸」



「……アンタ早過ぎだろ!? 絶対俺来んの早かったとか思ってたのに」



まだ薄暗い時間に目が覚めた私は昨日の内に準備していた荷物を引っつかんで宿を出る。

まだ夜も明けて間もないからきっと陸もまだ来ていないだろうと思っていたのに、宿の外壁に背を預けて空を見上げている陸がいた。

少し驚いたが、陸も私がこんなに早く来るとは思っていなかったようで声を上げて驚いている陸に思わず笑ってしまう。



「鳥は朝が早いから。それよりも陸、都合がいいことに今日この国はお祭りらしいよ」



「祭り? ……ああ、そういえば建国記念日だって酒場で騒いでたな」



「ほとんどの人が国の中央にある広場に集中してるらしいから、きっと屋敷の中の警備も手薄だよ。今の内にさっさと片付けてしまおう」



「ああ」



軽く頷いて銃の調子を見た陸に軽く笑いかけた後、自分も槍の調子を軽く刃の側面を指で弾いて確かめてから陸に小さな荷物と一緒に槍も預ける。



「は? アンタ何する気……っ」



意識を手から翼へ。

イメージを黒く。

突然吹き上がった突風に言葉を詰まらせて瞼を堅く閉じた陸が再び開けた時、私を見て目を見開いて驚いているのに私は苦笑した。

全く、何度も言ってるのに。



「だから、私は獣人なんだって。陸も言ってたじゃない。私はカラスの獣人なんだからニンゲンの姿からカラスになれるのは当たり前でしょ?」



「それは……そうかもしれねえけど、初めて見たんだから驚いても仕方ないだろ!?」



そういうものか。

なんとなく納得しながら、久しぶりになったカラスの身体を確かめるように翼を何度か羽ばたかせる。


最近はニンゲンの街ばっかり通っていってたから、姿を頻繁に入れ替えることができなくてずっとニンゲンの姿をしていた。

別に両方とも私の姿なわけだから、どっちの姿でいても生活に支障はないけどあまり姿を入れ替えないと入れ替わっていない方の姿になった時中々その姿に慣れないことがある。

うん、大丈夫問題ない。



「この姿だと、持てる荷物も限られてるしカラスが荷物を持ってるのはちょっと見た目的にもおかしいから。それお願いね」



「別にいいけど、何でその姿になったんだよ。それも計画か?」



「うん。まずは私が屋敷に行って、外の警備の様子や進入できそうな所探してくるから陸は屋敷近くの路地で待ってて」



「了解」



陸が頷いたのを確認して、私は空へ飛び上がる。

久しぶりの空にかなりふらついたがすぐに慣れて上手く風に乗りながら街の端にある屋敷に辿りつく。


基本カラスの敵といえば猛禽類である鷹やフクロウだけど、獣人だったら理性はあるから敵対すれば殺されるかもしれないが食われはしない。

獣人じゃなくても遭遇率は少ないし、カラスよりも簡単に手が入る獲物がいるから滅多に襲われることはない。

他にも蛇に卵を食べられたり同種類のカラスに襲われたりするらしいが、それは私には関係ない。

同じカラスに襲われても勝てる自信があるしね。



屋敷の上を不自然にならない程度に旋回しながら屋敷の警備を窺う。

警備の人数は予想通り祭りの為か人数は少数だった。

これなら進入は楽そうだ。


正面の門に二人。

庭に巡回する警備員が五人。

あ、



「あそこは手薄だな」



警備員が一人だけ立っているだけの質素なドアを見つけて、近くの屋根に止まるとその警備員を観察する。

武装もかなり簡単なもので、拳銃のようなものしか所持していないからこのニンゲン一人ならどうにでもなりそうだ。

その扉から料理人のようなニンゲンが出入りしているのを見て、調理場の裏側だろうと簡単に推測して屋根から飛び去って陸を探しにいく。

陸はすぐに見つかって路地にあったゴミ箱の蓋の上に降りたけど……陸の反応がない。



「陸? 侵入口見つけたよ……って、何でそんなにびっくりしてるのさ。銃下げて、危ないよ」



「え、あ、ああ。そういえば今はカラスの姿だったなアンタ」



声を掛けた瞬間に瞳孔を開いて銃口を私に向けた陸に平静を装ったけど、私もかなり驚いた。

――こういうのが、ニンゲンと獣人の違いなのか……いや、止めておこう。

差別を失くすためのテロを起こそうとしている者が、差別的な考えをおこすなんて矛盾にもほどがある。

あまり獣人と関わりがなかったニンゲンにとっては普通の反応なのかもしれない。

これから慣れてくれるだろう。


貧困街育ちの所為かニンゲンに対しての差別心が私にもまだ残っていたということを再確認して、歪んだ思いを頭の隅へ追いやる。

本格的に計画を開始する前に私もどうにかしないとね。

こんな思いを持った奴が反乱を起こして新たな王を建てた所で、その先どうなるかなんてたかが知れている。



「調理場の扉の警備が手薄だったんだ。警備員一人くらいなら私達でもどうにでもなると思うから、そこから入ろう」



「分かった」



陸を先導しながら、屋敷へ向かう。

外壁に沿って歩きながら頃合を見計らって庭園内に進入する。

あのニンゲンの女の趣味なのか、派手な色をした花やハート型や薔薇型に整えられた葉が悪趣味なくらい所狭しと並んでいた。

お陰でその草陰に隠れている私達は見つかることもなく先程見つけた調理場の扉へとたどり着くことが出来た。



「あいつ、か」



「そう。どうする? 私がカラスになって背後から近づこうか?」



「いや、俺に任せてくれ」



そういうなり、陸は懐から銃を取り出すと一度弾を抜いて形状が普通の弾とは違う弾丸を装弾して最近開発されて生産数がかなり限られているサイレンサーをつける。

こんなレアものを持ってるということは、やっぱり陸は自分の国で結構裕福な方だったんだろう。

どことなく、陸の身の上を察しながら私は黙って見届ける。

サイレンサーを付け終わった後、そのまま構えて狙いを定めてトリガーを引く。

音の無い弾丸はそのまま警備員の胸にぶち当たり、警備員は声を上げる間もなく地に伏した。

倒れた警備員を調べると、息もしてるしかなりゆっくりだが脈もあって驚きに見開いた目が今にも閉じそうになっている。



「何をしたの?」



「睡眠薬が入ったプラスチック弾。それだけだと効くのが遅いから、改良して麻酔もいれてる。今は動かねえだけだけど、しばらくしたら寝るだろ」



「へー、結構便利だね」



「まあな。じゃ、行こうぜ」



得意気に笑って先を促す陸に笑い返してから私達は調理場へ忍び込んだ。
















「おい、仕込んでいた肉はどこだ! 用意しとけって言ったろ!?」



「ここにあります!」



「ねえ、お出しする予定だった三十年もののワインは?」



「え? それならあの子が用意してたはず……」



準備で忙しいのか怒鳴り声やら慌しく動き回る足音が大きめな部屋に鳴り響く。

入ってすぐの隅にあった調理台の影に隠れこんだのはいいものの、これからどうやって先へ進もうか。



「どうする? ここから先は無計画なんだけど」



「……アンタ、よくそれで王レベルの貴族の家に忍び込もうとか思ったな」



「思い切りの良さは一級品だからね、私」



「それを世間では無鉄砲って言うんだよ馬鹿――仕方ねえな、俺がなんとかしてやるからここでちょっと待ってろ」



「え、陸!? ……行っちゃった」



小声で呼びかけても陸は振り返りもせずに、この部屋に入る時に使用したドアから外へ出て行ってしまった。

ここで待ってろって言われたけど、一体陸はどうするつもりなんだ。

騒ぐ胸を押さえつけて、いざとなったら私がここにいる全員の視界を奪って陸を連れて逃げよう。

そんなことを考えながら息を殺して潜んでいると



「おい、執事長がお前等を呼んでいるぞ! 一体何をした貴様等」



「執事長様がですか? 一体何が……すみません、失礼します」



荒々しく調理場のドアが開かれて、身体が跳ね上がる。

部屋に入ってきたのは警備兵で、帽子を深く被っているからか顔はよく見えなかったが――どこか聞いた事があるような声をしていた。

扉の開け方と同様に声も荒々しくて、声を掛けられた料理人達は身体を強張らせて自分達が何かしたものかと首を傾げながら部屋を出て行く。


ニンゲンが減って良かったと息を吐いたが……一難去ってまた一難。

私に近づいてくるニンゲンどうしよう。


迷いの無いしっかりとした足取りで私が隠れている調理台に歩み寄るニンゲンに、冷たい汗が私の頬をなぞった。



――相手は一人。


どうする、いっそカラスの姿になって逃げる?

でも、そうしたら陸を置いていくことになる。

……殺る、か?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ