４話
「ルティア、読み書きは出来きそう？」
目の前の本の表紙を見てギョッとした私にナタリーさんが物思わしげな様子で聞いて来ました。私は何故か読めてしまった本の題名『これを読め！魔法の基礎がわかるぞ！第一巻』を手に取り、もう一度見てみます。
えっ何故驚いたかって、いやけして本の題名に目を丸くしたのではなく本の題名の文字が読めたことに衝撃を受けます。だって、記号のような文字が読めて意味もわかるからです。
「あの、この本の題名は『これを読め！魔法の基礎がわかるぞ！第一巻』で、あっていますか？」
テーブル越しにいるナタリーさんの目を見て力強く言いました。ナタリーさんは目をパチクリさせて何回が頷いた後、安心したような顔をしていつもの笑顔になりました。
「ふっふっふっ、文字が読めたようね？」
「はい、何故か見たことのない文字ですけど読めました。どうしてかなぁ……？」
「まぁ原理はわからないけど、ルティアが文字を読めて良かったわ」
私が最後に呟いた小さな声に答えるようにナタリーさんが言います。
「文字が読めたということは、文字も書けるかも。ルティアこの紙に、このペンで名前を書いてみなさい」
「書いてみます」
ナタリーさんは紙をテーブルに置いてから、羽ペンを私に渡してくれたのです。
私は心を躍らせペンを取り、紙に『ルティア・ルクレール』と名前を書きました。名前の最後の一文字を書き終わり、ナタリーさんに見てもらいます。
「よかったわ。書かれてある文字、きちんと『ルティア・ルクレール』と読めるわよ」
私はやっと自分が、ちゃんと文字を書けることに気が付き歓喜したのです。私を見て、ナタリーさんが微笑ましく思っていたとは知らず大げさなくらい喜んでいました。
そんな私の喜びに終止符を打ったのは、けたたましいくらいに叩かれるドアの音でした。
「ししょぉーうぅー！開けて下さぁーい！！聞いてくださぁーい！」
そんな声とバンバンと外から、ドアを叩く音が聞こえています。
ナタリーさんが「うるさいわね。今開けるから、ちょっと静かにしなさい」などとドアの外に聞こえるように言いました。
ドアをナタリーさんが開けると、赤い髪とオレンジ色の目をしたカッコいいと言うよりは可愛い感じの、１６歳くらいの男の子が慌てたように、家の中に入ってきます。
「師匠、聞いてくださいよ。学校の課題でオリジナル魔道具を作ることになったのです。でも、何もアイデアが出なくて困っていて……。あと二十日したら授業中に発表しなきゃならないし……。あぁぁぁー、僕はどうしたらいいのだー！！！」
矢継ぎ早に捲し立てると柴犬のような大きな瞳でナタリーさんを見ていました。そして、私に気付き私にも柴犬のような大きな瞳を向けてきます。
「あれ、キミ……誰？」
柴犬君はやっと正気付いたようで私を見ながら呟いたのです。
「私の弟子でルティア・ルクレールよ。こっちがアラン・マコーリー」
それに対して柴犬もといアラン君は「僕のことも弟子だって紹介して下さい」とか言っている。そしてナタリーさんに「あんたが子供の頃ちょっと魔法教えただけだから弟子しゃないわ」と言われアラン君は撃沈されていました。ナタリーさんはアラン君に「はやく自己紹介しなさい」と言いながらアラン君の頭を軽くはたいています。
「見苦しいところを見せてすいません。魔法学校に通っているアラン・マコーリーです。よろしく」
こっちを向きながらアラン君に姿勢良くお辞儀をされました。
「2日前からナタリーさんの弟子なったルティア・ルクレールです。よろしくお願いします」
私も例に漏れずアラン君にお辞儀したのでした。アラン君はそんな私を見て「可愛いけど年齢が……」とか言っていたのは聞かなかったことにしました。
＊ ＊＊
一息付くために椅子に座り、私とアラン君が紅茶を飲んでいるとナタリーさんが一言呟いたのです。
「オリジナルの魔道具のアイデアね」
「はい。あと二十日しかなくて……」
アラン君はナタリーさんに向けて瞳をウルウルさせています。
「アイデアか……、ルティアは何かいいアイデアないかしら？」
ナタリーさんが私に聞いてきました。アイデアは出したいが気持ちは、魔法をまだ教えて貰っていないので何とも言えませんと言う感じです。だって、どんなことが出来るのか、まだわからないと思いました。
「ボタンを押すと、温かくなったり冷たくなったりするコップとか……」
私はティーカップに視線を向けて言ってみます。
「あーそれイイ！！じゃあその辺で考えてみるよ」
アラン君は何度も私に御礼を言うとさって行きました。台風の目のような人でしたよね？あと、アイデアはあんな安易な物でいいのでしょうか？
数日後にアラン君からボタンを押すと暖かくなったり冷たくなったりする水筒を貰いました。
そしてこの冷温水筒はアラン君の学校で流行ったのはまた別の話です。
