17話
高く聳え立つ城壁の門を通るとそこは別世界でした。
石畳の道を馬車が音を響かせながらゆっくりと走る、その馬車から見える光景はレンガ造りの風情ある建物が立ち並び、活気がある八百屋やパン屋なども洒落た建物に入っていました。そして街角のパブからは陽気な音楽が漏れ聞こえ行き交う人々も楽しませています。
店の先の果物やアクセサリーなどに目移りしそうになりながらも我慢して、最初に向かうのはギルドと決めているのです。そこに地図やギルド提携の店の情報があるからでした。そして王都を入って直にユーグさん達とは別れました。これから私とサクラの本当の旅が始まるのです。
石造りの塔は蔦で覆われ今では街の人々に『緑の塔』と親しみをこめて呼ばれています。この『緑の塔』こそが、王都のギルドです。因にこの街の名前はウバロコーラと言います。ウバロコーラの地図を買う為にギルドの受付へ行くと感じの良い女性が対応してくれました。
「ウバロコーラの地図と提携店の地図で宜しいですか?」
女性は優しそうな笑顔で言います。
「はい、幾らですか?」
「ウバロコーラの地図は500ガレットで、ギルド提携店の地図は無料になります」
500ガレットって地図にしては安いのか高いのかわからないや……必要だから買いますけどね。ギルド提携店の地図が無料なのは嬉しい誤算です。
「お願いします」
私は500ガレットを、受付の女性に渡しました。
「では登録ペンダントにウバロコーラの地図とギルド提携店の地図を登録しますのでお客様の登録ペンダントを出して頂けますか?」
私が急いで登録ペンダントを出すと、女性は黄色の水晶に私の登録ペンダントをかざしています。これは登録ペンダントに地図の情報を登録しているのです。地図情報を登録ペンダントに登録すると自分の登録した内容を見るときと同じく、登録ペンダントの水晶に魔力を流すと地図の情報がホログラフィーのように空間に見えるようになります。
「登録が終わりました、登録ペンダントをお返しいたしますね」
「ありがとうございました」
私が御礼を言うと受付の女性も「ありがとうございました。また何かございましたらお越し下さいませ」と言われ、私はギルドを後にした。
私はさっそく地図情報を見ることにしました。登録ペンダントの水晶に魔力を流すとウバロコーラの地図にギルド提携店は星印が付いています。私は宿屋の情報だけを見るため『宿屋検索』と言うと、ギルド提携の宿屋のみに星印が付きました。そして、検索された宿屋の中で比較的キレイで安く風呂とトイレ付きの部屋がある『ロッドさんの宿屋』に行くことにしたのです。
***
ロッドさんの宿屋の紹介文には『家族経営のアットホームで暖かい感じの宿屋です』と書いてあります。
「すいませーん。泊まりたいのですが」
「あら初めての方かしら、朝食と夕食付きで一泊30ガレットになります」
「はい、ギルド提携店の地図を見て来ました」
私は30ガレット渡しながら笑顔で言いました。
「沢山の提携店の中から、うちの宿を選んでくれてありがとね。じゃあ、ココに名前を書いてくれるかしら」
笑顔で言う女将さんから羽ペンを借りると、宿屋帳簿にルティア・ルクレールと名前を記入したのです。
宿屋の部屋は、シンプルな木製のベッドと机と棚が置かれていました。お洒落な感じではありませんが、掃除が行き届いており清潔感があります。
私はさっそくお風呂に入ることにしました。旅の間は水を魔法で出して体を拭くだけだったので、暖かいお風呂に入れるのはとても嬉しいです。
お風呂に入った後は、街を見て回ることにしました。最初に行くのはこの国最大の露天市場です。人で賑わっており品物も豊富そして値段も手頃な物が揃っていて、呼び込みの元気の良いかけ声がそこら中に満ちていて活気あります。
美味しそうな果物を数種類買いました。食べてみて美味しかったら自分でも栽培してみようと思います。この露天市場でホワイトビネガーを見つけました。そうですお酢ですよ。おもわず大人買いで10本も買ってしまいました。お酢は料理だけではなく掃除に洗濯にも使えますしね。
魔石を売る露天があり、私は数種類の魔石を買いました。魔石とは魔法を閉じ込めた石のことです。魔石の原石は黒い色をしており、特殊な呪文でこの原石に魔法を閉じ込めると魔石に属性印が付きます。魔石の種類は属性の数だけあり、特殊属性の魔石になると値段が一桁違うと言われているのです。基本属性の魔石はそれだけ魔法を混められる人が多いので、比較的安く手に入るのでした。
宿に帰り洗濯物をすることにしました。インフィニットポシェットから50㎝四方の箱を取り出します。そこに火と風と水の魔石をセットして洗濯物と洗剤を入れると、洗濯物の乾燥までやってくれる魔道具です。今日はそこにホワイトビネガーにハーブを漬けた液をいれます。そうすると柔軟剤の代わりになり、いつもはゴワゴワしていた洗濯物がふんわりと仕上がりました。因にこの魔道具の名前は洗濯ボックスで、アラン君に作ってもらった物です。
洗濯物が終わると、夕食を食べるため宿の食堂に行くことにしました。鳥肉のスープとパンとサラダでデザートに果物も付いています。スープの中の鳥肉は噛めば噛むほど味がありとても美味しかったです。
さて、部屋に帰るとサクラが露天で買った果物が食べたいと言うので濃い紫色の手のひらくらいの星の形をした果物を上げました。これはプチスターと言い味は甘酸っぱい感じです。
一緒に夕食が食べられないのは可哀想だけど、サクラは美味しい果物やデザートが食べられればいいと言ってくれました。