13話
「ふぅー、至福の時だなぁ」
私が念願の苺カスタードクリームタルトを頬張っていると、ドアをドンドンと叩く音がしました。
「ナ、ナタリーさぁーん、たったいへんでーす」
ドアの外からは焦っている、アラン君の噛み噛みの言葉が聞こえてきます。
「あら、今日はいつもに増して煩いわね」
ナタリーさんはそう言いながらドアを開けると、アラン君が何も無い所で躓き、そして一気に話をしだした。
「隣国の畑に害虫が大発生!!このままだとこの町の作物も全滅しちゃいます」
焦っているアラン君とは対照的にナタリーさんは落ち着いて言いました。
「そう言えば今年は庭の畑にも、害虫が多かったわ。私は魔法で一気に焼き払って駆除したけど」
「そうです、この町にも害虫が大発生したら農作物が大打撃。だから年貢を収められない家が出るかもって、町の皆が噂しています」
アラン君はナタリーさんに助けを求めるかのように話しています。
「そうね。畑を数件とかなら私のオリジナル害虫駆除魔法でどうにかなるけど……、全部と言うと難しいわ」
私達は良案がないか考えましたが、ため息をつくばかりでした。
農作物なので、もちろん人体に無害な害虫駆除方法を考えなければなりません。
そこで私が貸し農園ではどうしていたかなと考えた時、ある樹木のことを思い出しました。ただその植物の種は見たことがないのですが、苗は見たことがあるので創造してみることにしました。
「私に考えがあるので、庭で実験してきます」
私は居ても立っても居られなくなり、庭に駆け足で出て行ったのでした。
私が参考にしようと思った植物は200種類以上の害虫に忌避効果があると言われる植物です。さらにその植物は肥料としての効果もあます。そしてさらにすごいのはスキンケアに用いられることもあるのです。
その名も『ミラクルニーム』です。
さて、このミラクルニームの苗木を元にオリジナル植物をイメージします。人や動物が食べても無害なイメージして害虫忌避には絶大な効果を発揮するイメージをしました。さらにどんな気候でも育つことをイメージします。
このイメージの植物の苗を創造して栽培に成功したら、この実を絞って摘出するとオイル上の液体が出来ました。これを希釈水として1000倍以上に薄めて使うようにします。そうすれば少ない実の量で多くの農作物を守れるからです。
この液体を『ミラクル駆除ラー原液』と命名しました。
これを1000倍に薄めて定期的に葉面散布して害虫が寄り付きにくくするのです。
『ミラクル駆除ラー原液』の実験をしたところ、見事害虫を忌避したのでした。
「ナタリーさん出来ました。名付けて『ミラクル駆除ラー原液』です」
私が樽に入った液体を見せたところ、ナタリーさんもアラン君も無言です。名前のせいかな……。
「大切なのは効果よね?ねっ、アラン?」
ナタリーさんは動揺しながら笑顔でアラン君に言ったのでした。
***
あれから『ミラクル駆除ラー原液』を、町の農作物を育てている人達に初回だけ1瓶を無料で配りました。
この『ミラクル駆除ラー原液』の効果は約5〜8日しか保たないので、5〜8日経ったらまた葉面散布する必要があります。その為次回からは購入して貰うことになりました。
あと、この樹木自体には『ミラクルクジョラーの木』と呼ぶことにしたのです。
***
そして、商人のユーグさんがユーテ(郵便鳥)で会いたいと手紙をくれたのです。『ミラクル駆除ラー原液』の件でした。
「また、大変興味深い薬を作りましたね」
ユーグさんは商人の目をしてゆっくりと言いました。
そしてユーグさんが言うには、「もっと多くの農作物を作っている人々にこの『ミラクル駆除ラー原液』の素晴らしさを伝えるべきです。そして害虫に苦しむ農民を一人でも減らすことが『ミラクル駆除ラー原液』で出来るなら素晴らしいことだと思いませんか?ですがもっと『ミラクルクジョラーの木』を増やさなければ貧困層の人達には手が出せません」などと言われたのでした。
そこでユーグさんの熱心な助言により、『ミラクル駆除ラーの原液』だけではなく、『ミラクルクジョラーの苗』も売ることになったのです。この苗には『ミラクル駆除ラー原液』のレシピを付けて販売することにしました。
さて、その後『ミラクル駆除ラー原液』を使った畑と使わなかった畑で明らかに収穫量の違いがでたのは言うまでもないことです。
そして、『ミラクル駆除ラー原液』は噂を呼び、その元となる樹木のことも噂となり緑魔法の使い手がいるのではと密かに噂となっていきました。
さらに、ユーグさんの商会で販売したミラクルクジョラーの苗は力強くスクスクと育ち『農作物の命の木』と言われるようになるのは数十年後の話です。