10話
「ここですか?大きいですね」
私は唖然と塔を見上げながら言いました。この赤いレンガ造りの塔は『ギルド塔』と呼ばれる塔で、銀行付きの依頼斡旋所です。仕事も戦闘系・生産系・生活系などあらゆる仕事を斡旋しています。
「さて、中にはいるわよ」
意気込みながらナタリーさんは言いました。私は置いて行かれないように気合いをいれて付いて行くのでした。
ギルド塔に来たわけは、銀行にお金を預けるためです。そのためにはギルドに登録しなければなりません。
ギルド塔の中は混んでいます。ナタリーさんが言うには、小さな町のギルドにしては清潔でキレイな方だと教えてくれました。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
ギルドの受付のひとは結構キレイな人でした。
「ギルドへ登録と銀行にお金を預けたいのですが……」
私は緊張しながら答えます。
「ギルドへの加入登録と預金手続きでよろしいでしょうか?」
ギルドのお姉さんは微笑んで問いかけてきました。
「はい」
全ての手続きが短時間で終わり、最後に登録事項と注意事項の紙と登録書がわりのペンダントを渡され手続きは終わります。
このペンダントは『登録ペンダント』と呼ばれていて、小さな水晶が付いており、水晶に魔力を流すと登録した情報がホログラフィーのように空間に立体的に見えるようになります。ただ魔力を流しただけでは自分にしか登録内容は見えず、他人に見せるためには「情報公開」と念じて魔力を流すことで他人にも登録情報を見せることが出来るのです。そして、魔力の違いで落としたとしても本人以外には扱えないので登録者に成り済ましたり預金を引き出したりは出来ません。だけど再発行にはお金がかかるそうです。
登録内容は名前・年齢・職業・属性・預金額でゲームのようなレベルはありません。登録する職業は多岐にわたり自由なので、私は魔法栽培師と登録しました。
依頼には目安で難度があり、簡単1〜10・普通1〜10・難関1〜10と30段階に別れています。もちろん難度の高い依頼を受けてもいいが、特別な理由がなく依頼が遂行出来なかった時には違約金がかかり、ギルドからの信頼度も落ち依頼を受けられなくなる場合もあるのです。魔力の識別で登録されているので、違う人に成り済まして再度登録することは出来ません。
「登録終わりました」
私が安心した顔でナタリーさんに報告します。
「よかったわね。さてこれで、ギルドでの用事は終わったわね。あっ、ペンダントの水晶は何にしたの?」
ナタリーさんが興味津々という顔で聞いてきました。そうです、ギルド登録ペンダントの水晶はお金を払えば好きな水晶が選べるのです。
「せっかくだから、腕輪とお揃いのモスアゲートにしました」
私はペンダントを手に取りナタリーさんに見せた。
「モスアゲートにしたの?ルティアにとってモスアゲートは特別な水晶になるかもね」
ナタリーさんが何と無しに言った言葉が、私のモスアゲートの水晶への拘りを強くさせて行ったのでした。
「特別な水晶か……」
私の呟きはナタリーさんに聞こえることはなかったのです。
***
帰りにお店や露天見て回りましたが、断然甘味類の食べ物が少ないことに気が付きました。そして、私は美味しいスウィーツが食べたいと言うことで、手軽にできて健康にもいいあれをつくることにします。
家に帰り庭の隅で緑魔法を使い、あれを創りだすために集中してイメージをして手に魔力を込めると一本の苗木が光輝く粒子から現れました。
私はこのサンシュユの木を苗木から植えたことがあり、苗木のイメージが出来たことと緑魔法に慣れてきたことでサンシュユの苗木はイメージのどおり創造出来たのです。
「あとは、苗木を植えて成長させると……」
樹木は植物の中でも成長に年月がかかる物なので、緑魔法で成長させるのも時間と魔力を多く使い大変だと知識が言っています。
なので、苗木を土に植えて気合いを入れ土と苗木に魔力を流しこみ、数時間をかけて育てるとなんと立派なサンシュユの木が立っているのでした。
そのサンシュユの木の小枝を一本切り、ヘトヘトになりながらキッチンへと行きました。
***
キッチンではナタリーさんが夕食の準備を始めています。今日の夕食はトマトベースのスープのようです。トマトの美味しそうな匂いがキッチンに充満していました。
「あっナタリーさん、牛乳ありますか?」
私はナタリーさんにヘトヘトになりながら言います。
「大丈夫?牛乳は缶の中にまだあるけど……」
「大丈夫です。ちょっと魔力の使い過ぎました」
ナタリーさんはちょっと呆れながら30㎝台のミルク缶を渡してくれました。このミルク缶には、冷却の魔法陣が刻まれていて牛乳が冷たく保存できるのです。これはアラン君が製作した缶で、私が水筒をもらった時にナタリーさんが作らせていました。
私は小さな陶器の壷に牛乳を入れ、その中に小枝をいれ壷をキッチンの端に置きます。
「何作ったの?」
ナタリーさんが私の行動を見て、困惑した顔で聞いてきたのです。
「明日の夜には美味しいものが出来ると思います。だから何も聞かずに、壷のフタを開けないで置いておいてください」
私はニッコリ笑顔で言いました。