1話
「フッフッ〜、苺が赤くみずみずしい。美味しそう」
苺を大事そうに一つ一つ摘むと籠に入れ行きました。このままでも美味しいが、さらに美味しく食べるため頭の中では苺菓子レシピが舞っています。
休日には、この貸し農園で趣味の園芸を楽しむことが多いいです。そして、料理も趣味なので農園でとれた野菜や果物などを良く調理します。
今日もいつもの休日のように、一日が穏やかに過ぎていくものだと私はこの時まで思っていました。
「さて、帰って苺のお菓子つくるかな」
私は苺の入った藤の籠を持ちながら駐車場に向かっていると、突然黄金の光に体が包まれたのです。
***
目覚めた時には、何もない白い世界にいました。
『白い世界』
それが、その空間で最初に思った感想です。数分経つと現れた眩しい黄金の光の玉が語りかけてきました。
「キミには異世界に行ってもらう。緑の魔法の知識と才能を授けよう。この魔法は植物を操ること、植物を創造出来ること、どんな植物でも育てることができる。異世界でキミの助けになるだろう。では、良い人生を……」
私はまた目が眩むような光に包まれて意識をうしなってしまったのです。
* **
私は今、自分の髪の色が変わったとや体が縮んだことなどは、取り敢えず考えるのを止めて、この鳥の鳴声が響く森の中を歩いています。鏡がないし確認しようがないからです。
町や村を発見できることを、祈りながら数時間歩いていると湖が見えて来ました。
湖の側で、自分の容姿を確認してみると白銀の髪は腰までありサラサラストレートで目はエメラルドの宝石のような緑色のパッチリ二重、陶器のようななめらかで白い肌、天使の様に可愛らしい十二歳くらいの少女が湖の水面に映っていたのです。私は自分の姿に、思わずため息をついてしまいました。
可愛くなって若返ってどうしろと?さらに黄金の光の玉が夢ではなく本当のことなら、ここ異世界だよね?これからどうやって生きて行けばいいの……。
この異世界に来るという予想外の事態に今になって不安が襲ってきたのです。
私は途方に暮れて自分の膝を抱えて座り小さくなっていると、横から話しかけられ驚いてその人を見上げました。
「貴女こんな所で座り込んでどうしたの?迷子にでもなったのかしら?私は紅蓮の魔女ことナタリー・ルクレールよ」
その女性はローブを着た炎のように紅い髪と目が印象的な迫力美人でした。私は思わず目に涙をためながら立ち上がり、これまでの出来事を話し聞いて貰ったのです。ナタリーさんは話を最後まで聞き終わると呟くように私に言いました。
「貴女、渡り人なのね」
「渡り人……?渡り人ってなんですか?」
私が質問するとナタリーさんが丁寧に渡り人について教えてくれました。渡り人とは神様が世界の均衡を保つために、色々な異世界から数十年に一人の割合で異世界人をこの世界に連れてくるということ、あと渡り人はこの世界に来る時に姿を変えられてしまうことです。
「この国では渡り人は、知らない知識や技術を持っているので比較的優遇されていると思うわ。そして、この世界の人より魔力量が多いいのよ。こんなこと言うのは心苦しいのだけど、渡り人で元の世界に帰った人はいないと言われているわ」
ナタリーさんは最後の言葉を悲しそうな目で私を見て言いました。元の世界に帰れないことは予想していたのですが、家族や友達に二度と会えないのは悲しいです。そして次の瞬間、あれと思ったのが予想外に自分の名前の記憶がない事に今やっと気が付きました。
「あの……、名前が……」
私は動揺してしどろもどろになりながら言葉を発します。
「あっ、忘れていたわ。ごめんなさい。名前の記憶も渡り人は無くなるのよ」
ナタリーさんは顔を曇らせながら教えてくれました。
「名前どうしよう……かな……」
「じゃあ、私が名付けてもいいかしら?」
「お願いします。私の名前付けてください」
私はこちらの名前などわからないのでナタリーさんに名前を付けてもらうことにしたのです。ナタリーさんは数分考えてから、私に可愛い名前を付けてくれました。
「ルティアってどうかしら?あと貴女この世界で行くとこないでしょ?だからこの世界のことや魔法について勉強してみたらどうかと思うの。手っ取り早く私の弟子になれば住むところとか困らないと思うけどどうかしら?」
初めて会った私にここまでしてくれるナタリーさんなら信じられると思い、弟子になることに決めました。弟子になるならとナタリーさんは家名ルクレールを私に名乗ようにと言ってくれたので、私の名前はルティア・ルクレールになったのです。
ナタリーさんの助けで住む所も決まり私はちょっと明るくなった自分の未来を感じたのでした。
訂正しました。指摘がありましたので『種を作り出せる』と言う表現を止めて、『植物を創造出来る』と言う表現に変更します。