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第7話 甘くない祝福


ローゼリアの視線は、小公爵ではなく玉座へ向いていた。


アルヴァリオン・ヴァル・ノクティス王。この国の頂点に立つ、吸血族の最高峰。絶対的権力者だ。


玉座に腰かけたまま腕を組み、静かに娘を見下ろしている。怒りはない。失望もない。ただ──測っている。王として。統治者として。血を継がせる者として。その視線は情を含まない。


ローゼリアはゆっくりと一礼し、玉座へ歩み寄った。


ざわめきが広がりかけ、すぐに消えた。王の前では、誰も声を上げない。この広間は、王の呼吸で保たれている。


「お父様、少し……お耳を」


甘さはない。王の目が、わずかに細まる。娘を見る目ではない。報告を受ける、統治者の目だ。


王がゆっくりと身を屈める。広間の視線が、一斉に二人へ集まった。ローゼリアは王の耳元へ唇を寄せる。囁きは短い。落としたのは石ではなく──刃だ。


「彼は、北境の血族と密かに通じています。証拠は私の書斎の封印書簡に」


王の呼吸が止まった。燭台の炎も、弦の音も、宮殿ごと静止したような三秒。王は瞬きすらしなかった。


「……確かか」


低く威厳のある声色。父ではなく王の声だ。


「ええ。以前は、脅されていました」


未来と現在。真実の順序を、入れ替えただけ。


王のわずかな沈黙。その間、誰も視線を逸らさなかった。


やがて、ゆっくりと身を起こす。その動きだけで、緊迫した空気が走る。玉座の背後に控える近衛が、無言のまま姿勢を正す。


王の視線が、小公爵へ落ちる。公爵家、血筋、政略、王家の存続、北境との均衡。すべてを秤に乗せる。そして──


「本日の婚約発表は──延期とする」


シャンデリアの光の下、広間が一瞬だけ静止した。次の瞬間、ざわめきが爆ぜた。貴族たちの視線が一斉に小公爵へ向かった。


小公爵は崩れない。背筋も、笑みも、そのまま。品位を守る。それが高位貴族の矜持だ。袖口で、深紅のルビーのカフスが光を反射する。祝いの赤。今は、血の色に見えた。


小公爵の瞳が、ゆっくりとローゼリアを射抜く。怒りでもない。焦りでもない。逃がさない色だ。


王は続ける。


「北境との不穏な繋がりが事実であれば、王家として看過はできぬ」


情ではない。政治だ。そのあと、ほんの一瞬だけ娘を見る。わずかな甘さ。しかし、公私を交えない。


「調査が終わるまで、身柄は王宮内にて拘束する」


それで十分だった。盤は、動いた。


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