第1話 終わりと、はじまり
「いや……ルカ……死なないで……」
どんなに両手で必死に、押さえても、押さえても。
とどまることなく溢れ出す赤。
(本当に……これは……ルカの血……?)
降り積もったばかりの白い雪も、花嫁のために仕立てられた白いドレスも、震える白い指先も、みるみる赤く染められていく。
「……リアっ」
彼は迷わなかった。
王座を狙う反逆者だと言われた男が、私の名を呼び、振り返りもせず前に立った。
矢が放たれたのは──その直後だった。
「……ねぇ……目ぇ、開けて……?」
自分の声なのに、酷く遠い。
冷たいのは、雪なのか。
腕の中で失われていく体温なのか。
彼の吐息は、もう、白くならない。睫毛に落ちた雪だけが、重たそうに残ったまま。
彼の瞳は──もう、私を映していなかった。
隣にいて、と。
それだけ言えればよかった。
たったそれだけが、言えなかった。
涙で何も見えない。強く噛んだ唇から血が滲む。
「……私はどうなってもいい」
「ルカを……ルカを、返して……」
この結婚が、すべての間違いだった。
私が──
ルカリウスを王に選ばなかったから。
彼は死んだ。
──その瞬間。
右手首に焼けるような強い痛みが走った。
血に染まった手首に、赤い痣が浮かび上がる。この世のものではないように、毒々しく脈を打つ。
次の瞬間、満月が鈍く光る。代償を払え、と嘲笑っているかのようだった。
世界が、そこで途切れた。
◇◇◇
──目を開けると、そこはルカリウスが死ぬ一年前の世界だった。
今度こそ、私は彼を選ぶ。
たとえ──この命と引き換えでも。




