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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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2. 勇者という称号の風化

かつて「勇者」と呼ばれた人物は、

英雄譚として語られなくなった。


武勲がない。

勝利がない。

敗北さえ、記録されていない。


物語に必要な起伏が、最初から存在しなかったためだ。


年代記の編纂が進むにつれ、

勇者に割かれる紙幅は目に見えて減っていく。

最初は逸話が削られ、

次に行動記録が省かれ、

最後には、名前そのものが残らなくなった。


教科書には、次のような一文だけが残る。


「勇者と呼ばれた人物が存在したが、

その役割は明確に定義されていない」


この文は、説明でも評価でもない。

疑問を残すための記述ですらない。

単に、そう書く以外の方法がなかった結果だった。


子どもたちは、その勇者の名を覚えない。

問い返すこともない。

覚える必要がないからだ。


試験に出ることもなく、

物語として語られることもなく、

日常に参照される場面が存在しない。


結果として、忘却は意図されずに起きる。


勇者の称号は、

失効も、剥奪もされていない。

誰かが無効を宣言したわけでもない。


ただ、参照されなくなった。


役割を必要としない世界では、

称号は自然に重さを失う。

音もなく、抵抗もなく、

言葉は意味を携えたまま、

使われない語へと変わっていった。

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