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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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終章:その後の世界 1.呼称の消失

年代順に並べられた文書を追っていくと、

ある語が、説明もなく薄くなっていくのが分かる。


最初に変化が現れたのは王国の公文書だった。

「魔王討伐計画」「魔王脅威評価」といった見出しが、

ある年を境に用いられなくなる。

代わりに現れるのは、「周辺情勢」「治安状況」といった、

輪郭の曖昧な語だけだった。


誰かが削除を命じた形跡はない。

朱書きも、訂正印も残っていない。

ただ、次の文書から、その語が使われなくなった。


教会の記録も同様だった。

巡察報告書から「討伐対象」という表現が消え、

使命は「継続中」とだけ記される。

対象を失った使命は、それでも否定されず、

ただ指し示す先を失っていった。


教育用の年表では、さらに静かな変化が起きる。

かつて「魔王出現」「勇者召命」と書かれていた欄が、

版を重ねるごとに縮まり、

やがて空白のまま次の年代へと進むようになる。


理由はどこにも書かれていない。

説明も、弁明も、総括もない。


それは否定されたからではなかった。

解決されたからでもない。


ただ、その語を使う理由が、

誰の中にも見当たらなくなっただけだった。


呼称とは、存在を示す言葉ではない。

役割が参照され続けるかどうかで、

生き残るか、消えるかが決まる。


参照されなくなった瞬間、

呼称は争いもなく、静かに、

文書の余白へと溶けていった。

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