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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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56/62

第八部の締め

決戦は、敗北でも勝利でもなかった。

引き分けですらない。


それは、

定義されなかったまま、保存された出来事だった。


剣は振るわれず、

魔法は起動せず、

軍は配置されたまま、帰る理由を持たなかった。


それでも世界は壊れなかった。


都市は立ち、

畑は実り、

子どもは育ち、

記録官は翌日の文書を書いた。


何も失われていない。

少なくとも、数えられるものは。


ただ一つ、静かに失効した前提がある。


世界は、

出来事が起きれば物語が進む、

という前提。


この日、出来事はあった。

だが物語は、進まなかった。


原因も、結末も、

英雄の名も、魔王の敗北も、

どこにも結びつかなかった。


それは失敗ではない。

成功でもない。


「語るための枠組み」が、

適用されなかっただけだ。


以後、世界は続く。

戦争も、和平も、改革も、

以前と同じ言葉で記述される。


だがその底に、

一つの沈黙が沈殿する。


――物語は、

必ず進まなければならないのか。


誰も答えない。

否定もされない。


ただ、あの日を境に、

世界は進行を“前提としない”形で、

存続するようになった。


決戦は終わらなかった。

始まりもしなかった。


未定義のまま保存されたその一点は、

世界が物語であることをやめた

最初の、そして誰にも命名されなかった瞬間だった。

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