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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第6話:解散できない終わり

戦闘は、起きなかった。


その事実は、誰の目にも明らかだった。

だが同時に、それだけでは何も決められなかった。


撤退命令が出せない。


敗北していないからだ。

勝利していないからでもある。


だが、継続命令も出せない。

継続していると呼べる出来事が、

何一つ発生していないからだった。


各勢力は、沈黙のまま判断を下す。


まず、王国。


王国軍上層部は、この一日を

「衝突回避が達成された事例」として扱った。


兵力は保持された。

民間被害はゼロ。

外交的な非難も発生していない。


進軍しなかったことは、臆病ではなく、

合理的判断として記録される。


「危機は存在したが、

制御された形で解消された」


その文言が、報告書に添えられる。


次に、教会。


教会にとって、奇跡が起きなかったことは

失敗ではない。


奇跡とは、必要とされた時にのみ顕現するもの。


この日、奇跡が要請されなかったという事実は、

世界が耐え得る状態にあったことを示す。


よって、この日は

「試練の継続」として整理される。


終わったのではない。

ただ、終わる理由が提示されなかっただけ。


祈祷文は閉じられず、

次の章に持ち越される。


最後に、魔王軍。


魔王軍の記録は、最も簡潔だった。


侵攻は行われていない。

だが、侵攻準備も解除されていない。


敵対行為が観測されていない以上、

発動条件は依然として未達。


よって、結論は一つしかない。


「侵攻準備、継続」


撤退ではない。

失敗でもない。


ただ、次の判断が

今日ではなかった、というだけだ。


三勢力の判断は、互いに矛盾していない。


そして、奇妙な一致点を持っていた。


誰も、この日を「失敗」と呼ばなかった。


誰も、誤りを認めなかった。

誰も、責任を取らなかった。


なぜなら、

何かを誤るほどの行為が

行われていないからだ。


決戦は終わった。


だが、解散は宣言されない。


兵はそのまま帰還する。

だが「帰った」とは記録されない。


祈りは解かれる。

だが「中止」とは書かれない。


準備は維持される。

だが「開始」は遠ざかる。


終わったのに、終わっていない。


続いているのに、進んでいない。


この日以降、

誰も「決戦は失敗した」とは言わなくなる。


代わりに、こう言われる。


――あの日は、問題が起きなかった。


それは安心の言葉であり、

同時に、

何も終わらせなかったという宣告でもあった。

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