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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第4話:勇者と魔王の位置

勇者は、決戦予定地に立っていた。


地形は選ばれている。

視界は開け、退路もなく、

魔法と武力のどちらも最大限に作用するはずの場所。


だが、彼は宣言しなかった。


名を名乗らず、

使命を掲げず、

剣にも手をかけない。


足は止まり、姿勢は崩れていない。

戦える状態ではあるが、

戦いに入るための動作を、ひとつも行っていなかった。


問いも、投げない。


かつては、問いこそが始まりだった。

「なぜ侵すのか」

「なぜ滅ぼすのか」

「なぜ倒されねばならないのか」


だが今、勇者は沈黙している。

問いを置かないという選択を、明確に取っていた。


その対面に、魔王が姿を現す。


玉座にはいない。

だが、戦場にも立っていない。


陣の中央でも、軍の前でもなく、

かといって、退いた場所でもない。


どこにも属さない位置。

誰の指揮下にもなく、

誰の進路も塞がない距離。


魔王は命令を出さない。


進め、とも。

撃て、とも。

構えよ、とも。


沈黙は、玉座の間から持ち出され、

この場所でも、維持されていた。


二人は、互いを見ている。


視線は交わっている。

存在は、確かに認識されている。


だが、「敵として見る」ための前提が、起動しない。


敵とは、倒すべき理由を伴う存在だ。

敵とは、行為を正当化する装置でもある。


この場には、

その装置を作動させる入力が存在しなかった。


勇者は思い出している。

魔王が問いに答えなかったことを。


魔王は理解している。

勇者が、問いを投げないでいる理由を。


どちらも、相手を否定していない。

どちらも、相手を肯定してもいない。


ただ、位置だけが定まっている。


勇者は、決戦予定地にいる。

魔王は、決戦の役割から外れた場所にいる。


このズレは、誰の判断でもない。

偶然でも、策略でもない。


役割が、配置を要求しなくなった結果だった。


軍は動かず、

魔法は使われず、

宣言も、合図も、勝敗も生まれない。


二人の間にあるのは、距離だけだ。


その距離は、

近づくための理由も、

離れるための理由も、

等しく欠いていた。


歴史書は後に、こう補足する。


――この日、勇者と魔王は対峙した。

――しかし、敵対関係は確認されなかった。


なぜか。


その問いもまた、

この場所では、起動しなかった。

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