第七部・締め
魔王は、敗北していない。
勇者も、勝利していない。
剣は振るわれず、
魔法も発動せず、
宣言も、撤回も、行われなかった。
戦闘は発生しなかった。
結論は出なかった。
沈黙だけが、継続した。
玉座の間には、
依然として二つの存在があった。
敵としても、味方としても定義されないまま、
ただ同じ時間を共有している。
世界は、それを異変として扱ったが、
破綻としては記録しなかった。
失敗でも、成功でもなく、
ただ「経過」として処理した。
だからこの出来事には、
終わりを示す語が存在しない。
決着も、解決も、和解も、
どれも成立しなかった。
残ったのは、
語られなかった時間だけだった。
魔王の沈黙は、
世界が彼に問いを投げ返さなかった
初めての時間だった。
恐れも、対抗も、期待も向けられず、
ただ答えを待たれることすらない状態。
その沈黙は、
この世界で最も長く、
そして誰にも破れなかった沈黙として
記録された。
後に歴史編纂者は、
この章の末尾に、
ただ一行を残している。
――このとき、
世界は初めて、
「魔王が何もしない時間」を
そのまま受け入れた。
それが終わりだったのか、
始まりだったのかを、
誰も定義しなかったまま。




