第7話:勇者の最後の問い
沈黙は、続いていた。
長さを持ち、記録され、
もはや場の性質そのものになっている。
その沈黙の中で、
勇者が、最後に一言だけ置く。
「あなたが答えないことで、
何かが壊れていますか」
声は低く、淡々としていた。
問いは鋭いが、切断しない。
責める形を取らず、
結論を要求もしない。
魔王は、答えない。
否定も、肯定も、
沈黙のまま置かれる。
だが、その問いは届いていた。
魔王は気づく。
玉座の間にも、城にも、
世界のどこにも、
破壊は生じていない。
秩序は崩れていない。
軍は解体されていない。
信仰も、王権も、存続している。
否定されたものは、何もない。
壊されたものも、何もない。
ただ一つ、
露出しているものがある。
――必要とされていない役割。
それは破壊ではなく、
剥離でもなく、
暴露ですらない。
覆われていた前提が、
そのままの形で
空気に晒されているだけだ。
魔王という存在は、
誰かが必要としたときにのみ、
意味を持つ役割だった。
今、その必要が
誰からも呼び出されていない。
勇者は、それ以上何も言わない。
最後の問いは、
答えを持たないまま
沈黙に沈む。
魔王は、言葉を失ったまま、
理解だけを深めていく。
壊れたのではない。
否定されたのでもない。
役割が、
誰にも必要とされていない状態が、
初めて可視化されただけなのだ。
沈黙は、まだ続く。
そしてこの沈黙こそが、
この世界で最も雄弁な
「何も起きていない」という証明になっていた。




