表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/62

第5話:沈黙の発生

魔王は、言葉を探した。


命令。

宣戦。

脅迫。

正当化。


どれも、かつては容易だった。

発すれば世界が応じ、

対抗が生まれ、

物語が前に進んだ。


だが今、それらの語は

喉の奥で形を結ばない。


命令には、従わせる前提が必要だった。

宣戦には、戦争状態という合意が要った。

脅迫には、恐れられているという確信が要る。

正当化には、否定される可能性が不可欠だった。


そのすべてが、ここにはない。


勇者は待っている。

剣に手を掛けることもなく、

沈黙を破るための身振りすら見せない。


急かさない。

期待もしない。


沈黙を破る理由だけを、

魔王の側に残している。


そして、その理由が

見つからないまま、

時間だけが積もっていく。


ここで、沈黙が発生する。


それは拒絶ではない。

思考の放棄でもない。


むしろ逆だった。


答えを生成するための前提が、

魔王の内部から、静かに失われていた。


問いに応じる座標が消え、

肯定も否定も、

どちらにも立てない。


魔王は、言葉を選んでいるのではない。

選べる言葉が、もはや存在しない。


沈黙は、結果ではない。

現象だ。


この世界で初めて、

魔王という存在が

「発話不能」という状態に置かれた瞬間だった。


勇者は、それを見届ける。


何も記さず、

何も断じず、

ただ沈黙が続くことを許容する。


後に歴史編纂者は、

この時をこう書き留めることになる。


――この沈黙こそが、

この世界で最も長く、

最も正確な記録であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ