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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第3話:勇者の最初の問い

沈黙は、すでに十分に長かった。

だが、それは膠着ではなく、

何かを待っている沈黙でもなかった。


ただ、音が生じていない状態が続いていた。


やがて、勇者が口を開く。


声は低くも高くもなく、

玉座の間にちょうど届く大きさで、

余計な感情を伴っていなかった。


「あなたは、

 いまも“倒されるべき存在”ですか」


それは、攻撃ではなかった。

挑発でもない。

確認ですらない。


問いでありながら、

答えを引き出すための形をしていなかった。


魔王は、その言葉を聞いた瞬間、

身体を強張らせることも、

笑うことも、

怒ることもできなかった。


即答ができない。


否定すれば、

自らが積み上げてきた存在理由――

恐怖され、討たれ、世界を動かしてきたという

過去そのものを否定することになる。


肯定すれば、

必ず次の問いが生まれる。


――では、なぜ倒しに来ないのか。

――なぜ剣を抜かないのか。

――なぜ、この場が決戦になっていないのか。


その問いに、

今度は自分が答えられなくなる。


魔王は理解する。


この問いは、

どちらの選択肢にも立たせないために

発せられている。


肯定も否定も、

「前提に立つ」行為である。


だが今、

その前提自体が共有されていない。


勇者は、

魔王を裁こうとしていない。

世界のために決着をつけようともしていない。


ただ、

「それは、いまも成り立っていますか」

と、世界に向けて問いを置いているだけだった。


魔王は沈黙する。


それは敗北ではない。

拒絶でもない。

思考停止ですらなかった。


どの言葉も、

自分を正しい位置に戻してくれないことを、

魔王は初めて理解していた。


玉座の間には、

再び音が消える。


そしてこの沈黙は、

まだ、始まったばかりだった。

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