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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第七部:魔王と勇者  第1話:想定されていた決戦

魔王城の玉座の間は、高い天井を持っていた。

梁や柱には、かつての戦勝と敗北が浮彫として刻まれている。

英雄が斬り伏せられ、魔獣が討たれ、都市が燃え、王が跪く。

それらはすべて「過去の出来事」として整然と配置されていた。


埃は積もっていない。

床も玉座も、定期的に磨かれている。

だが、新しく加えられた装飾は一つもなかった。

この空間は、手入れはされているが、更新されていない。


勇者は単身で城門を越えた。


警戒はあった。

見張りは配置され、通路には魔力の反応が走る。

だが迎撃はない。

矢も、魔法も、警告の声すら上がらなかった。


魔王軍の内部記録では、

「勇者来訪」は異常事態として分類されなかった。


侵攻ではない。

撤退でもない。

宣戦布告も、交渉要請も伴っていない。


そのため、警戒レベルは据え置かれたままになる。


玉座の間に至るまで、

勇者は誰にも止められなかった。

かといって、歓迎もされていない。


戦闘は、起こるはずのものだった。


魔王と勇者が相対すれば、

剣が抜かれ、魔力が奔流し、

世界は決着へと向かう。

それは、誰もが疑わなかった前提である。


しかし今回、

その「発生条件」を説明できる者はいなかった。


勇者は何も宣言していない。

魔王も、まだ動いていない。


ただ、想定だけが存在していた。


起こるはずの決戦。

起こらない理由の記されていない、決戦。


玉座の間は静かだった。

過去の戦争だけが、壁に刻まれたまま、

現在を見下ろしていた。

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