表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/62

第4話:魔王の違和感

夜の玉座の間は、昼よりも広く感じられた。

高い天井に灯る魔法灯は抑えられ、影が柱の根元に溜まっている。ここは本来、威圧と沈黙のための空間だった。


魔王は玉座に腰を下ろし、静かに報告書をめくっていた。

前線、戦略、補給、内政。

どれも形式は整っている。


問題なし。

異常なし。

情勢は安定。


同じ言葉が、違う筆跡で繰り返されている。魔王はその一致に、奇妙な感覚を覚えた。かつて、このような報告が並ぶことはなかった。


自分が存在する限り、世界は必ず反応した。

恐怖が生まれ、王国は軍を整え、教会は英雄を語った。

勇者とは、魔王がいるから生まれるものだった。


魔王はその循環を疑ったことがない。

それは役割であり、秩序であり、世界の呼吸のようなものだった。


だが、今――

人間側の報告には、焦りも混乱も記されていない。

英雄の名も、決戦の準備も、噂としてすら上がってこない。


魔王は書類から目を離し、広間の奥を見る。

そこには何もない。ただ、長い歴史の中で、自分が何度も座ってきた玉座があるだけだ。


倒される存在として、

恐れられる対象として、

世界の運動を始める起点として。


――その前提が、どこにも書かれていない。


魔王は気づく。

今回は、誰も自分を基準に動いていない。

自分は、想定されていない。


怒りは湧かなかった。

危機感も、まだ輪郭を持たない。


それは違和感だった。

長く当たり前だと思っていた床が、わずかに軋む感触。


魔王は、誰に聞かせるでもなく、低く呟く。


我が存在は、

いつから前提になったのだ。


それは問いだった。

確認でも、抗議でもない。


ただ、世界に対して初めて投げかけられた、

魔王自身の疑問だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ