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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第四部:勇者の評判 副題:問いが噂になる 第1話:噂としての勇者

王都の市場では、野菜の値段と天気の話の合間に、勇者の名が出る。

決まって、誰かがこう切り出す。


「で、あの勇者は、結局何をしたんだ?」


問いはいつも同じ形をしている。

そして、答えが出ないことも、皆が知っている。


戦果はない。

討伐数も、武勇譚も、歌にできる逸話も残っていない。

だから話題は、必ず評価から始まる。


「何もしない英雄だろ」

商人が言う。「でもな、あれ以来、街は静かだ。剣を振らなくても守られるなら、それでいい」


別の男が鼻で笑う。

「話が長いだけの人さ。敵に説教して、結局帰ってくる。腹は満たされない」


市場の外れでは、声を潜めた意見もある。

「あの人は危ない。正しいと思ってたことが、急に分からなくなる。あれは不安を呼ぶ」


誰も事実を否定しない。

勇者が剣を振るわなかったことも、

戦が起きていないことも、

問いを返すばかりだったことも。


ただ、意味づけだけが違っている。


同じ話は、地方の酒場でも繰り返される。

木の杯を傾けながら、農民は言う。


「英雄ってのは、何かを倒すもんだろ?」

「じゃあ、倒さなくて済んでる今は、どうなんだ?」

「それが英雄の仕事なら、俺にもできる」


笑いが起きる。

だが、すぐに消える。

誰も、その先を続けられない。


宿屋の談話室では、旅人が噂を持ち寄る。

地域ごとに呼び名が少しずつ違う。


「沈黙の勇者」

「考えさせる男」

「剣を持たない厄介者」


呼び名が増えるほど、像はぼやけていく。


奇妙なのは、反論が成立しないことだった。

誰かが勇者を持ち上げても、

誰かが貶しても、

決定的に間違っているとは言えない。


彼は確かに何もしていない。

そして確かに、何も起きていない。


噂は結論に辿り着かず、

だからこそ長く尾を引く。


人々は勇者について語りながら、

いつの間にか、自分たちの期待について話している。


英雄とは何か。

平和とは、何の結果なのか。


答えは出ない。

だが、問いだけが残る。


王都でも、地方でも、宿屋でも、

勇者は不在のまま、評判だけが歩き回っていた。


そして誰も気づかない。

その噂話そのものが、

この世界で最も長く続いている「出来事」になりつつあることに。

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