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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第5話:一致する結論

本章において、三つの最終報告が並置される。

同一の出来事を扱っているわけではない。

互いに言及も参照もしていない。

それでも、章として置かれた瞬間、否応なく比較される。


王国文書(中央治安総括)


王国内の治安は、概ね安定している。

武力衝突の発生件数は低水準を維持。

特筆すべき混乱は確認されていない。


なお、安定の要因については、

現時点では明確な分析結果を得ていない。


教会文書(使命進行状況報告)


教会の使命は、滞りなく継続中である。

各地の信仰状態に大きな動揺は認められない。

奇跡・魔法の発現状況については、

引き続き経過観察とする。


成果の定量的把握は、

現段階では困難である。


魔王軍文書(侵攻準備概況)


侵攻準備は計画通り進行中である。

人間側に顕著な弱体化は確認されていないが、

同時に警戒強化の兆候も見られない。


進捗評価については、

今後の情勢変化を待つ必要がある。


三つの文書は、それぞれ正確だった。

観測された事実のみが記され、

断定できないことは断定されていない。


虚偽はない。

誇張もない。

意図的な隠蔽も見当たらない。


そして、すべての末尾には、ほぼ同じ結語が置かれている。


現状は概ね順調である。


理由は書かれていない。

成果も、原因も、主体も存在しない。


ただ、「順調」という評価だけが、

前提として共有されている。


それは合意された言葉ではなかった。

誰かが定義した概念でもなかった。


それでも、この語は便利だった。

説明を省き、疑問を先送りし、

決断を必要としない。


読者だけが気づく。


誰も嘘をついていない。

だが誰も、

何が起きているかを書いていない。


起きていないのか。

書けないのか。

あるいは、書く必要がないと判断されたのか。


「順調」という語は、

この時代において最も強固な共通認識だった。


それは結論であり、

同時に、思考を停止させる装置でもあった。


こうして第三部は終わる。

出来事ではなく、

評価だけが一致したまま。


世界は安定している。

少なくとも、

そう書かれた文書の数だけは、

疑いようもなく揃っていた。

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