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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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第4話:違和感の蓄積

王国中枢と教会本部には、毎日、報告が届く。

その多くは些細で、処理手順も定まっている。だがこの時期、分類に困る報告が目立ち始めていた。


結界未発動。

出動見送り。

交戦なし。


それらは別々の地域から届いているにもかかわらず、内容が驚くほど似通っている。

共通点は一つだけだった。


勇者が、そこにいた。


会議の場で、その名が何度も読み上げられる。

しかし、誰も「問題行動」という言葉を使えない。


王国側の官僚が、書類をめくりながら言う。


「成果がないとは言えません。

 被害は出ていない。情勢は安定しています」


事実だった。

討伐は行われていないが、被害も出ていない。

命令は実行されていないが、違反も存在しない。


教会側の代表は、慎重に言葉を選ぶ。


「信仰が揺らいでいる証拠も、現時点ではありません。

 祈りは行われ、教義も否定されていない」


魔法は発動していないが、信仰は失われていない。

少なくとも、数字の上では。


沈黙が落ちる。


誰かが「異常だ」と言えば、その理由を説明しなければならない。

だが、説明に使える被害が存在しない。


勇者本人は、会議に呼ばれていなかった。

だが彼の不在が、かえって存在感を強めている。


「彼は、何をしたのか」


誰かがそう呟いたが、答えは出ない。


命令を否定していない。

魔法を妨害していない。

戦闘を止めたわけでもない。


ただ、問いを投げただけだ。


「その理解は、共有されていますか?」


会議室の誰もが、その問いを正確に再現できた。

それほどまでに、印象に残っていた。


だが同時に、その問いが何を壊したのかを、誰も説明できない。


王国は、秩序が保たれていると判断する。

教会は、教義が維持されていると結論づける。


結果として、何も決まらない。


違和感だけが残る。


この段階で、誰も勇者を危険視していなかった。

むしろ、扱いに困る存在として、棚上げされただけだった。


後年、歴史編纂者はこの会議について、短く記している。


この時、問題は認識されていた。

ただし、それを問題として扱う手続きが存在しなかった。


違和感は、蓄積される。

だがそれは、破裂するまで記録されない。

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