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『屁理屈ばかりの勇者は、世界を口論で救う』  作者: 南蛇井


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序章 まだ何も起きていない世界 1. 世界の静的説明(叙述)

世界は、動いていないわけではなかった。

だが、出来事として数えられる変化が、ほとんど存在しなかった。


魔王は存在している。これは否定されていない。

王国の監視記録にも、魔王城の位置と存在は正確に記されている。ただし、その項目に付された侵攻記録は、数十年にわたって更新されていなかった。空白ではない。「変化なし」という同じ文言が、年ごとに律儀に並んでいる。


王国軍は健在だった。兵舎は整い、訓練は定期的に行われる。演習計画も精密で、仮想敵は常に設定されている。だが、実戦経験者の名簿は年々薄くなっていく。引退とともに欄が消え、補充されることはない。剣は磨かれ続けるが、血を知る者は減っていった。


教会もまた、変わらず鐘を鳴らす。

毎週の説教で使命は語られる。世界を守ること、悪に備えること、信仰を保つこと。だが、具体的な危機の名は挙げられない。「迫り来る脅威」は抽象のまま扱われ、「いずれ来る試練」は日付を持たない。信徒たちは頷くが、想像すべき対象を与えられてはいなかった。


市井の人々は平穏に暮らしている。畑は耕され、市は開かれ、季節は巡る。会話の中に恐怖はない。だが、言葉の端々に仮定形が残る。

「もし魔王が動いたら」

「その時は勇者が現れるだろう」

誰も、その続きを語らない。仮定は仮定のまま宙に浮き、現実に接続されない。


世界は安定している。

だがそれは、結論に到達した安定ではなく、問いが宙づりにされたまま保たれている状態だった。

何も起きていないことが、最も正確な記述として、静かに積み重なっていく。

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