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藍色の空

藍色の空 ~第4章~

作者: ジョンジ
掲載日:2025/10/14

冬の空が静かに息をひそめるころ、藍の心にも新しい季節が訪れようとしていた。

クリスマスの夜に交わした約束、それはただの言葉ではなく、藍の世界に“灯り”をともす小さな奇跡だった。

孤独と嘘を抱えながらも、誰かを信じてみたい――。

そんな彼女の想いが、初詣という新しい時間の中で、少しずつ色を帯びていく。


この章は、「藍が藍らしさを取り戻すための第一歩」を描いています。

寒い冬の空の下、かすかな温もりに触れる物語をどうか感じてください。

挿絵(By みてみん)


年が明けた朝。

窓の外は薄い光に包まれていて、屋根の上に積もった雪が静かに溶けていた。

藍はカーテンを開け、白く曇る息を見つめる。

夜のアルバイトを終えた身体は少し重かったが、胸の奥には、どこか温かいものが残っていた。


――初詣、空汰と行く約束。

あの日、駅前で交わした「約束な」という言葉が、何度も心の中で響いていた。


鏡の前に立ち、マフラーを巻く。

藍色のコートは去年、安い古着屋で見つけたもの。

でも今日は、少しだけ“特別な服”に思えた。


外に出ると、吐く息が空に溶ける。

駅へ向かう道の途中、雪を踏む音が小さく響いた。

足元の冷たさよりも、胸の鼓動のほうが強く感じられた。



神社の鳥居の前。

赤い大きな門をくぐる人々の声と、甘酒の匂いが漂っている。

藍が立ち止まると、境内の奥から空汰が手を振っていた。


「おーい、藍!」

その声を聞いた瞬間、胸の奥の不安が少し溶けていく。


空汰はマフラーを首に巻き、手には小さな紙袋を持っていた。

「遅くなったけど、あけおめ。今年もよろしくな」

「うん……あけましておめでとう」


視線を合わせるたびに、言葉がうまく出てこない。

周りのざわめきが遠くなり、二人の間だけが、まるで雪の中のように静かだった。


「ほら、行こう。お参り、並ぼ」



長い列の先に見える本殿。

藍はポケットの中の小銭をぎゅっと握りしめた。

「何お願いするの?」と空汰が聞く。

「……秘密」

藍は少し笑った。


彼の隣に立っているだけで、不思議と心が軽くなる。

自分の中の“嘘”も“痛み”も、すべて雪の下に埋めてしまえる気がした。


やがて順番が来て、鈴の音が鳴る。

藍は深く頭を下げ、目を閉じた。

――どうか、誰かのために笑える自分でいられますように。

――どうか、空汰が夢を叶えられますように。


目を開けると、隣の空汰が真剣な顔で手を合わせていた。

その横顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。



参拝を終えると、境内の屋台通りを歩いた。

湯気を上げるたい焼き、金色に焼けた串団子、甘い香りのする綿あめ。

「藍、これ食う?」

空汰が渡したのは、湯気の立つ焼き芋。


「熱いよ、気をつけろよ」

そう言いながら笑う彼の手が、かすかに藍の指先に触れた。

その瞬間、心の奥で何かが跳ねた。


「……ありがとう」

それしか言えなかった。

でもその言葉に、今のすべての気持ちが込められていた。



人混みを抜け、少し離れた川辺まで歩いた。

雪がまだ残る土手に、淡い冬の日差しが差し込む。

空汰がポケットからお守りを取り出した。


「これ、渡したかったんだ。合格祈願ってやつ」

「え、でも……私、受験生じゃないよ?」

「知ってる。けどさ、藍も頑張ってるだろ。バイトとか、妹のこととか。

だから、“自分を信じるため”のお守り」


藍は言葉を失った。

胸が熱くなり、喉が詰まる。

「……ありがとう」

絞り出すように呟いた声は、冬の風に溶けた。


空汰が微笑んだ。

「来年の初詣も、一緒に来ような」

「……うん、絶対」


ふと、川面に映る空の色を見上げる。

それは、どこまでも澄んだ藍色だった。

悲しみも後悔も、少しずつその色に溶けていくように思えた。


――この空の下で、私は少しだけ強くなれる気がする。


藍はそっと目を閉じた。

新しい一年が、静かに始まっていた。

この第4章では、藍が「他者に心を開くこと」を少しずつ学んでいきます。

孤独や罪悪感と向き合いながらも、空汰の存在が彼女の中に“希望”という色を滲ませていく。

冬の冷たい空気の中に、ほんの少しの温もりを見つけた――そんな一篇です。

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