名の影
米袋は家の中央に戦利品のように鎮座していた。
カジヴァーは涙の残る目で、まるで聖なるものに触れるかのように米粒を撫でていた。
彼女にとって、それはただの食糧ではなかった。
最も幼く、最も弱いと思われていた息子が、すでに生き残る者の魂を宿している――その証だった。
一方、ブリセンは黙り込んでいた。
彼は複雑な眼差しでシエルを見つめる。
――危うい遊びをしているな、弟よ。
――サンウィでは、何もかもが危険だ。
シエルは顔を上げず、手帳に書き続けながら答えた。
彼は前日の出来事を一つ残らず記していた。
交わされた言葉、人々の反応、こわばった顔。
だが家の外では、サンウィがざわめいていた。
闇市で人々が囁く。
――ガキが…値下がりを予言した。
――百枚が…一袋に化けた。
――モルト、あの太った商人を辱めたのさ。
やがて酒場や路地裏でも、その名が流れ始めた。
シエル・ダークネス。
それはまだただの囁きにすぎなかった。
だがすでに、警戒の耳がそれを拾っていた。
喧騒から遠く離れた煙たい部屋で、モルトは激昂していた。
拳で卓を叩きながら。
――ガキめ! あのネズミが俺を皆の前で笑いものにしやがった!
その影で、痩せた長身の男が不気味に笑った。
鋭い眼光が暗闇に光る。
――ならばネズミじゃない。蛇だ。蛇は……育つ前に頭を潰すものだ。
その頃、シエルは迫り来る嵐をまだ知らなかった。
夜、彼は再び外に出て歩いた。
蒼白な月光がサンウィを照らしていた。
彼は最初の袋を与えてくれたあの髭の老人の前に立ち止まった。
――約束を守ったな、と老人は笑った。
――契約は契約です、とシエルは答えた。
――自分が何をしたか、分かっているか?
――米袋を得た。
老人は首を振った。
――いや。お前は戦を始めたのだ。しかも……沈黙の戦いほど、命を奪う戦はない。
シエルは沈黙した。
だが心の奥では理解していた。
市場で発した言葉も、手帳に刻んだ一行も、彼を子供から遠ざけていくことを。
その夜、眠りにつく前に、彼は最後の一文を記した。
名は武器だ。その名が広まるとき、仲間も敵も同時に引き寄せられる。
そしてサンウィの闇の中で――
シエル・ダークネスの最初の敵たちは、すでに反撃の準備を整えていた。