穀物の賭け
袋はポケットの中でずっしりと重かった。
百枚の札。ブリセンにとっては、夜の賭博や女、喧嘩に消える金だった。
だがシエルにとっては――それは戦場だった。
一日中、彼はサンウィを熱に浮かされたような目で観察した。
商人たちは通りで叫び、農民たちは収穫を交渉し、闇商人たちは路地の隅で囁く。
そして、ひとつの真理が彼に突きつけられた。
人は自分の持ち物を売っているのではない。他人が「持っている」と信じるものを売っているのだ。
黄昏時、彼は再び米の闇市に戻った。
灰色の髭をたくわえた老人が、帳簿を手に木箱に腰かけて待っていた。
――さて、小ネズミ。戻ってきたか?
――はい。賭けをしたい。
――何に賭ける?
――恐怖に。
シエルは静かに答えた。
老人は眉を上げ、興味深そうに彼を見た。
その夜の競りは、これまで以上に荒れていた。
「米を運ぶ隊商が襲われた」という噂が広がり、値はうなぎ登りに跳ね上がっていた。
シエルは前に出て、小袋を握りしめた。
――百枚だ。
澄んだ声が響いた。
嘲笑が起こる。
――子供じゃないか!
――ビー玉でも遊んでろ!
――そんな端金で何を買うつもりだ?
だがシエルは揺るがない。
――百枚……一袋の米に賭ける。
ざわめきが走る。百枚で一袋? 狂気だ。
しかし彼は続けた。
――明日、米の値は下がる。私を信じる者は一夜の眠りを失うかもしれない。だが私を無視する者は財を失う。
昨日嘘を広めていた丸顔の商人が大笑いした。
――聞いたか! サンウィの小さな預言者だ! 未来でも読めるつもりか?
――未来は読まない。
シエルは切り返した。
――人を読む。……あなたは恐怖の汗を流している。
沈黙が広がる。
丸顔の商人は額の汗を拭った。
実際、米隊商襲撃の噂を流したのは彼自身だった。値を釣り上げるために。
だが、この少年はどうしてそれを見抜いたのか。
灰髭の老人が手を打った。
――よし! この子を本物の勝負に入れてやろう。誰か相手をするか?
若い商人が前に出た。
――いいだろう。明日、値が下がれば米袋はお前のもの。だが上がれば、お前はすべてを失う。
シエルはうなずいた。
――契約成立だ。
彼は百枚の札を卓に置いた。
心臓は激しく打っていたが、顔は微動だにしなかった。
夜は長かった。寝室で彼は眠らず、手帳に何度も書き連ねた。
リスクは剣だ。震える手にあれば持ち主を殺し、確かな手にあれば道を切り拓く。
人は理解できぬものを恐れる。影を作れば、人は頭を垂れる。
翌朝、市場の広場に人々が集まっていた。
米の値は……下がっていた。
襲撃の噂は虚報。
夜明けに隊商は無事に到着し、米袋を満載していたのだ。
商人たちは狼狽し、在庫を投げ売りしていた。
賭けを受けた若い商人は歯ぎしりし、罵った。
――悪魔め!
しかし人々の前で、彼は巨大な米袋をシエルに渡した。百枚では到底買えぬ量を。
シエルは笑わなかった。ただ静かに頭を下げた。
――契約は契約だ。
その袋を背負い、彼は家へ戻った。
またしてもブリセンが待っていた。
華奢な弟が重荷を抱えて入ってくるのを見て、言葉を失った。
――どうやって……?
――百枚と、少しの言葉で。
シエルは息を切らしながらも誇らしげに答えた。
母カジヴァーは、その袋を見て涙を浮かべた。
久しくなかった満ち足りた食卓が、ついに戻ってきたのだ。
その夜、家族が久々に腹を満たす中、シエルは物思いに沈んでいた。
米の味は、生き延びるためだけのものではなかった。
それは、武器を使わずに勝ち取った見えざる勝利の味だった。
彼は再び手帳を開き、書き記した。
力で勝つのではない。認識で勝つのだ。
金は剣である。だが真の勝利は――常に心の内にある。