最初の賭け
翌日、サンウィはいつもの騒音の中で目を覚ました。
通りでは商人たちが声を張り上げ、子供たちは小銭を乞い、荷車はすり減った石畳の上で軋んでいた。
シエルは一人歩いていた。
頭の中に、昨夜の言葉がこだました。
金は武器だ。言葉は人を殺す。約束は契約。
彼は人であふれる広場の前で足を止めた。そこには、再び米の闇市が開かれていた。
同じ男たちが怒鳴り、米袋を足元に積み上げている。
だが、今度のシエルはただ観察するために来たのではなかった。
彼は慎重に歩み寄り、帳簿を抱えた灰色の髭の老人の目に留まった。
――おい、坊主。ここで賭けをするにはまだ早い年だろう。
――年はいらない。ただ目があればいい。
シエルは静かに答えた。
老人はガラガラと笑った。
――目だけじゃ腹は満たせんぞ。
――そうかもしれない。でも、目は他人が気づかないことを読むことができる。
興味を持った老人は、シエルを後ろに立たせておいた。
やがて競りが始まった。
顔の丸い商人が声高に叫んだ。
――明日は雨で収穫が遅れる! 値は跳ね上がるぞ、今のうちに買え!
すぐに買い手たちが慌て始めた。札束が飛び出し、米袋はさらに高く売れていく。
だがシエルは、別のものを見ていた。
群衆の中で、一人の若い伝令が乾いた埃にまみれた靴を拭いていた。雨の痕跡などない。
遠くの空は澄み、風は南から吹いている。
――嘘だ。
シエルは深く息を吸い、一歩前に出た。
まだ幼い声。しかし、その響きは群衆を切り裂いた。
――明日は雨など降らない。
沈黙が広がった。人々の視線が一斉に彼へと向かう。
丸顔の商人が眉をひそめた。
――何者だ? 路地のネズミが商人を相手にするつもりか?
――ネズミかもしれない。でも、ネズミでも空は読める。
笑いがいくつか起きた。しかし一部の者は顔を曇らせ、ためらった。
シエルは続けた。
――あの靴を見ろ。乾いている。そして風は南から吹いている。雨は来ない。今ここで買えば、無駄に高い代償を払うことになる。
商人は言葉に詰まり、群衆に不安が広がった。
一部の買い手は札をしまい込み、値の高騰は止まった。
灰髭の老人がシエルに近づき、口元に笑みを浮かべた。
――よくしゃべるし、よく見ている。だが、言葉だけでは価値はない。
彼は小さな袋を差し出した。
――これを持て。百枚の札だ。それを増やせるか証明してみろ。
シエルは袋を見つめ、驚いた。
――なぜ、僕に?
――この目で、米よりも多くの嘘を見てきた。だがお前は……真実で嘘をつく。
それは、もっとも危険だ。
その夜、シエルは袋を服の下に隠して家へ戻った。
家の中では、兄のブリセンが壁にもたれて待っていた。
――どこへ行ってた?
彼は冷たく問うた。
――市場に。
――米袋三つと口先で人生を変えられると思ってるのか?
シエルは袋を取り出し、テーブルに置いた。
硬貨の音が響き、兄の言葉を封じた。
――僕には盗む必要も、殴る必要もない。人は自分から金を差し出す。
ブリセンは口を開けたまま見つめ、やがて鼻で笑った。
――弟よ、お前が怖くなってきた。
その夜、シエルは手帳を開き、新しい言葉を書き加えた。
嘘は一日を買える。真実は一生を買える。
欲は夜よりも確実に人を盲目にする。
読み誤った契約は、自分に向けられた剣となる。
彼はペンを止め、揺らめく蝋燭の光をじっと見つめた。
外のサンウィの路地は眠っているように見えた。
だが実際には、見えぬ脅威、秘密の市場、静かな戦争のざわめきに満ちていた。
その渦中で、一人の少年は気づき始めていた。
言葉も、数字も、約束も――すべて武器になると。
シエル・ダークネスには剣も、恐れられる拳も、受け継いだ財もなかった。
だが、彼はすでに最初の見えざる戦いに勝利していたのだ。
――市場での初めての介入。
――操る商人との最初の対峙。
――老人から託された初めての「投資」。
――そして、弟の変化に気づき始めた兄ブリセンとの衝突。